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月が空にポツリと浮かんでいる。突如現れた客人はフレッド達の親友である、Ms.陸奥村にMr.シェバン。2年前、教鞭をとった元生徒だった。
日本から逃げ出したと言って、青ざめた顔で現れた二人を見た時、どこか心の中で昔を見ている感覚に陥った。おそらくシリウスもだろう。少なくとも純血の名家の息子として生まれたんだ。陸奥村の名前だって知っているだろうし、それに昔の寮のお世話になった(いろんな意味で)先輩の名前だって覚えているだろう。
モリーによって部屋を案内された二人の背中を見届ける。わらわらと質問攻めなのか話したいことでもあるのかは分からないが、モリーに怒られながらも二人にくっついて歩くハリー達を見て、思わず笑みがこぼれた。
「...思い出すだろう?」
何をとは言わない。ホットミルクの中に砂糖を沢山いれて混ぜていれば、シリウスが少しだけ顔をしかめた後に首を縦に振った。
「あぁ。あの監督生達もよくああやって後輩達を引き連れてた」
「グリフィンドールの名物だったな」
「はは、そうだったな...」
僕のような人の外れ者でも平等に扱ってくれる人は、少ない。それでも彼女は、彼等は、僕を同じ人間のように接してくれた。
甘くなったホットミルクを一口すする。シリウスが、重々しく口を開いた。上の天井からは、ドタドタとした足音が響いていて、なにやら楽しそうだなと心の中で笑った。
「不死鳥の騎士団の事は、彼等に話すか...?」
ここが安全だと言える1つの理由は、ここが不死鳥の騎士団というダンブルドアが創設した対ヴォルデモート用の組織の本部だからだ。この場所は、騎士団の人間しか知らない。
だけど、1つだけ問題がある。それは、陸奥村家の当主であるコトヨ。ヒヨリ達が日本から逃げ出す原因となった彼女も、昔は騎士団の一員だった。
「...彼女達も、知るべきだ。親を死喰い人に殺されているんだ。なにが起きているのか、何が起きるのか。彼等には知る権利がある」
シリウスの言葉に首を縦に振る。まだ学生だから騎士団に入る事はできない。それに、彼女の祖母が騎士団についてどう思っているのかは、まだわからないのだ。
「...彼等を日本に戻すべきだと思うかい、シリウス」
それでも、彼等の"命"に焦点をあてて考えるなら、今は闇の勢力になどは目を向けないべきだ。日本から逃げ出してきた事は必ずしも良い行いだとはおもわない。それでも、二人の恋路は応援したいし、きっとハリー達だって、このまま何も連絡せずに離れ離れになんかはなりたくなかっただろう。
それはもちろん。一人の男として。彼等の人生は彼等のモノだと思うさ。だがしかし、それだけで、その考えだけで認めてもいいのだろうか。
彼等が一緒にいることは重要かもしれないが、一番大事なのは彼等の命を守る事では?
「もうあの二人は成人してる。好きに生きてもいい年齢だ。それを大人達がとやかく言う必要があると思うか、リーマス」
シリウスは昔、家を出た経験がある。きっと誰よりも、ヒヨリ達の気持ちが分かるはずだ。
「...うん、そうだね」
すっかり冷えてしまったホットミルクに口をつける。甘い香りが口いっぱいに広がったのに、どうしてか苦い気持ちが心には広がっていた。
当人達の問題だ。確かにその通りだとは思うが、それで止めてもいいのか。陸奥村家の当主が何故今、ヒヨリを日本から出さないようにしたのか。そんなの、少し考えれば分かるはずなのに。
それでも、モリーやアーサーを見る限り"親"として考えるなら、彼等が学びたいのに学校をやめさせるなどあり得ない事だろうし、シリウスのように"純血名家の生まれ"として考えるなら、好きなように生きるべきだと思うのだろう。
こんなにも、難しい問題にどうしてあの子達が立ち向かわないといけないのか。思わず出そうになるため息を、ミルクを飲むことでごまかした。
「おはようございます、モリーさん」
「あらあら、おはようヒヨリ、タイリー。朝に強いのね」
眠気まなこのままあくびをこぼしてリビングに入れば、中にはすでにヒヨリとタイリーがそこに居た。出勤に向かうのだろう、アーサーが朝食を食べながら、手を挙げる。
「おはようリーマス」
「あぁ、おはようアーサー、モリー」
「後少しでパンが焼き上がるわ」
「ありがとう、モリー」
椅子に座り、モリーの隣で手を動かしているヒヨリが肩越しに振り返し「おはようございます」と挨拶をした。それに笑顔で返していれば、タイリーが私の隣の椅子を引きゆっくりと座る。
「おはようタイリー。朝が早いんだな」
すでに顔も洗ったのか、髪の毛の寝癖もないタイリーを関心しながら見れば、タイリーは少し恥ずかしそうに笑顔をこぼすとおはようと挨拶を返した。
「...リーマス」
「なんだい?」
2年前に別れた時。次に会うときはリーマスと呼んでくれとお願いしたあの約束を、彼は覚えて居てくれたらしい。タイリーはヒヨリをじっと見つめながら、口を開いた。
「...不死鳥の騎士団とは、なんだ?夏休みが終わるまで置いてくれるのはありがたいが、本当にここが安全だという保証は...?」
机の上できつく握りしめている両手に、青い筋が見えた。タイリーはヒヨリから目を離すと、下唇を噛み締めながらゆっくりと私の顔を振り向いた。きつい視線だ。
「陸奥村家は、日本でも有数の名家だ...例えここが、大人の魔法使いが沢山いるから安全だとしても...見つかるのも時間の問題だ。もし、そうなったら...」
「タイリー」
この子はどこまでも、ヒヨリの事を考えている。でもその頭には、自分が無事である必要など一切考えて居なくて。きっと見つかって仕舞えば一番厄介な扱いをうけるのはタイリーのはずなのに。私は純血主義でもないし、シリウスやヒヨリみたいに名家の家の子供ではない。それでも分かるだろう。
使用人が次期当主の娘を連れて日本を逃げ出した。
血は争わないという言葉は本当にその通りだ。彼女の母親であったあの先輩も、駆け落ちをして家を逃げ出した。その前例があるからこそ。タイリーを、次期当主付きの使用人に指名したからこそ。
今回のこの二人の事件に一番の責任を求められるのは、タイリーのはずだ。
「大丈夫だ。ここは安全だ。ダンブルドアが創設した対ヴォルデモートの組織の本部なんだ、ここは」
彼等の安全を考えるのならと散々考えたとしても、一人の男として考えるなら、同じ男であるこの子が、一人の女性を守り抜きたいと思っているその気持ちに、手を添える事しかできなかった。
「...ダンブルドア先生が...?」
「あぁ。騎士団員しかこの場所は知らない」
「フレッド達も、その団員に...?」
「学生は入ることはできないんだ、タイリー」
朝食を食べ終えたのか、アーサーが立ち上がりそう言った。こっちを心配そうに見ているヒヨリが、二枚のお皿をもって近づく。彼女の隣にはモリーがいた。少しだけ、私を咎めるような視線だった。
「...先生...」
「もう君の先生ではないさ、ヒヨリ」
「あ...リーマス」
私とタイリーの前にお皿をコトリとおいたヒヨリが口を開く。少しだけうつむき気味だった瞳をあげて、ゆっくりと私の目をじっと見つめるヒヨリに私は何も言えずに見つめ返した。
「その、不死鳥の騎士団には、だれが...?」
「私にシリウス、アーサー、モリー、マクゴナガル先生にダンブルドア。あとは数名今はここには居ないけど団員としている。...日本人は、いないよ」
何が安全なのか、安心なのか。それは分からないが、今の彼女たちにとっての安心は家に追いつかれない事だ。ホグワーツに戻ればダンブルドアも、マクゴナガル先生もいる(卒業をしても彼女はやはり先生だ)。きっと、陸奥村家の当主も、ホグワーツにいると知れば安心するだろう。今は彼女達を見守る事が先決だ。
少し安心したのか、ほっと息をついたヒヨリが椅子に座った。
「今日魔法省で、国際支部担当の同僚に日本について聞いてくるよ」
「ありがとうございます、アーサーさん」
「なに、いつもフレッド達がお世話になっているらしいからね。...話にはよく聞いていたよ、タイリー、ヒヨリ。帰ってきたら色々な話を聞かせてくれ」
アーサーはそういうと、タイリーとヒヨリの肩をトンと叩き、玄関に向かって行った。アーサーを見送るためにモリーも一緒にリビングを出る。それを視線で追って見届ければ、タイリーの隣に座っていたヒヨリが笑顔で彼に話しかけていた。
「モリーさんに教えてもらったの。食べてみて」
「あぁ...ありがとう、ヒヨリ」
パンの上に目玉焼きとベーコンが置かれているシンプルな朝食だ。それでも、名家の娘にとっては初めての料理だったのだろう。タイリーの優しい視線と、ヒヨリの満開に咲く花のような笑顔を見れば、確かに。フレッド達があそこまで焦りながら二人を迎えに行ったのも納得するものだった。
この二人を引き離すなんてことは、きっと、ここにいる誰もが望んでいないのだろう。
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