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ここが一体どんな場所なのか、リーマス(先生ではないと言われてしまった)に教えてもらった。ヴォルデモートに立ち向かうべくして立ち上がった組織。つまりハリーを守るための組織でもあるのだろう。

その組織の本部だから、ここは誰も知らないというリーマスの言葉を聞いて、安心した。ここで夏休みが終わるその時まで過ごせれば、ホグワーツに向かう事ができる。そうなれば、こっちのものだ。

今までずっと料理をしてこなかった私に、隣に立って料理を教えてくれたモリーさんにお礼を伝えれば、フレッド達を起こしてくれないかと聞かれたので、タイリーと一緒にフレッド達の部屋に向かった。

実は、部屋が1つだけ空いていて、フレッド達の気遣いかどうかは分からないが、昨夜はその部屋でタイリーと寝かせてもらった。(「今は二人一緒にいたいだろ?」「今日ぐらいはママを誤魔化してやるから、安心しておけ」)本当はタイリーはフレッド達の部屋、私はハーマイオニーの部屋で寝るはずだったんだけどね。

「俺はフレッド達を起こしてくる」
「じゃあ私はハリー達を起こしてこようかな」

フレッド達の寝ている部屋を開けながらタイリーがそう言った。向かいの部屋にはハリーとロンが眠っているはずだ。その扉の取っ手に手をつけた時、タイリーのいる部屋からフレッド達の騒がしい声が聞こえた。

「起きろお前ら」
「ママもう少し寝させてくれよ...」
「ママじゃない」
「あと50分後に起こしてくれ」
「馬鹿なのか?」

閉じられた扉の奥からは未だにギャンギャンと騒がしい声が聞こえて、きっとこれが毎日やってる彼等の日常なのだろうなと思うと、おかしかった。

さて、私も起こしてあげないと。扉の取っ手をひねって中に入れば、うるさいいびきと静かに寝息を立てて寝ている見事に対照的なハリーとロンがベッドで横になっていた。

「ハリー、ロン、起きて。朝ごはんあるよ」
「んー...ママ、もう少し...」

さすが兄弟。思わず笑ってしまう。

「私は貴方のママじゃないよ、ロン」
「んー...?」

寝返りをうって布団を頭から被り直したロン。とりあえず先にハリーでも起こすかと、ハリーの寝ているベッドに近づいて彼の肩を叩く。

「ハリー、起きて。ハリー」

何度か叩けば、ロンとは異なってハリーはすぐに起き上がった。目を何度か手でこすりながらパチパチと目を瞬き、私をじっと見るハリーに思わず笑う。

「おはよう、ハリー」
「...ヒヨリ...?おはよう」

まだ寝ぼけているのか、彼の肩をトントンと叩き、ロンを起こすようにといえば、ハリーは何度か首を縦に振ってベッドから立ち上がり、隣に眠るロンを揺さぶった。

「ロン、ロン、起きて、ロン」
「んんー ...」
「いつも大変だね、ハリー」
「...うん、本当にね」

苦笑をこぼしながらこっちを振り返るハリーの隣に座る。二人分の体重を吸い取ったベッドは、ぎしりと鈍い音を立てた。

「ヒヨリ、よく眠れた?」
「うん、おかげさまで。ありがとう、ハリー」
「僕は何もしてないよ。...あと1年は、一緒にホグワーツで過ごせるんだよね?」
「うん。大丈夫、だと思う」
「...本当に?」
「お祖母様に見つかりさえしなければ、ね」
「なら大丈夫だよ。ここならきっと、安全さ」

ハリーは笑顔でそう言った。眼鏡をかけていないハリーの、緑に光る瞳が真っ直ぐと私を見つめる。初めて会った時のあの幼さもとうの昔に消えて、精悍な顔つきになったことを少し、心の中で誇りに思った。

「ハリー、ロン、起きてる?」

その時、扉が突然開かれてハーマイオニーの声が聞こえた。後ろにはジニーも顔を覗き込んでいてこっちを見ていた。

「ハリーは起きてたのね。おはよう、ヒヨリも」
「おはようハーマイオニー」
「ヒヨリにこんな仕事させられないわ。ロンは本当に起きないの」
「うん、そうみたい」

未だにベッドに横になって眠ったままのロンを見る。こんなに話してるのに一切起きる気配がしないから、ある意味天才だと思う。

「タイリーはもう下にいたわ。ロンは私とハリーが起こすから、先に戻ってて、ヒヨリ」
「いいの?」
「もちろんよ、ロンを起こすのにはコツがいるの」

ハーマイオニーはそういうと、ゴホンと1つだけ咳払いをこぼして腰に手を当てた。あぁ、なるほど、と思った私はベッドから立ち上がり、ドア付近に立っていたジニーと扉を閉じて廊下に出た。

「ジニー、おはよう」
「おはよう、ヒヨリ」

そういえば、ジニーもいつの間にか背も高くなっててびっくりだ。ジニーはにこりと笑って私を見上げていた。扉の奥からはハーマイオニーの怒鳴り声がうっすらと聞こえた後、慌てて「なんだよハーマイオニー!!」というロンの言葉が聞こえた。

ジニーと顔を見合わせて微笑んで、階段に足をかけようとした時。下から向かってくる一人の使用人がいた。屋敷しもべ妖精だ。日本では彼等を使用人として使う事は禁じられているので中々見かけないが、イギリスでは多くの名家で彼等が使われている。ブラック家でも、使われていたのだろう。

「...名家の跡取り娘ですね。純血主義の強い方だらけならば奥様も怒らないというのに...」

一目見ただけでわかるのか。屋敷しもべ妖精は人とは違う魔法を使うと聞いたことがある。それだろうか?魔法というよりも、生理的な何かなのかもしれないけれど。

「おはよう、貴方の名前は?」

お世話になるわけだから挨拶はしておく必要があるだろう。彼の目にあうようにしゃがみこみ、そう声をかければ、彼はしわくちゃの顔をさらに顰めて私を見た。

「...クリーチャーと言います。ブラック家の使用人として、ここに勤めております故...」
「そう...。陸奥村ヒヨリです。しばらくここでお世話になります」
「クリーチャーめにその様なお言葉は使わないでくださいまし、日本の名家のお嬢様」

恭しく頭を下げるクリーチャーに、思わず顔が固まる。そしてゆっくりと階段を登っていき、廊下の掃除にとりかかる彼をみとどけた。立ち上がり、リビングに行こうかと隣にいるジニーに話しかければ、彼女はすこし目を見開いて私を見上げていた。

「...なに?」
「すごいわヒヨリ...あんなに穏やかなクリーチャーは初めて見た...本当に純血名家の娘なのね...」
「まだ疑ってたの?」
「そうじゃないけれど...」

必ず言われる「本当に純血名家の娘なのね」という言葉にももう慣れてきた。ジニーのその言葉に思わず笑って、再度下に降りようと促して、歩き出す。未だにこっちを見上げているジニーに、なんだか羨望のような視線を感じてしまって苦笑を浮かべた。




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