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学生は騎士団員の仲間に入ることはできないらしいのに、ここで一体何をしているのか。フレッド達はどうやらこの家の掃除をしているらしい。確かに至る所に埃が舞っているし、物も散乱している。陸奥村家だったらあり得なかった光景だ。

そしてそんな掃除や片付けに動いているヒヨリをみるのも、あそこじゃ絶対にあり得なかった光景だ。式神をふわふわと舞わせて捨てる物と捨てない物を分けていく彼女達を見やりながら、不意にフレッドが口を開いた(手を止めるな手を)。

「なぁタイリー」
「なんだ?」

写真たてに入っている代々ブラック家の人達だろう写真を一度床に置き、フレッドの方を見やる。部屋の奥ではヒヨリの式神が珍しいのか、ジニーとロンの楽しそうな声が響いていた(さすが兄妹だ)。

「セドリックと連絡とってるか?」
「セド...?いや、夏休みに入ってからは連絡をとってない」
「そっかー」
「何かあったのか?」
「それがさ、ハリーとセドリックが去年の優勝賞金をくれたんだよ」
「そのお礼をいいたいのに、セドリックに手紙が届かねーんだ」
「優勝賞金を?」

去年の試合では色々あったが、結局は同時に帰ってきたセドとハリーが優勝となった。二人は賞金を山分けしたらしいのだが、自主的に立候補したわけではないハリーは、その賞金をフレッド達にあげたらしい。セドもどうやら同い考えだったようだ。

「あぁ。立候補した理由は別にお金が欲しかったわけじゃないからってさ」
「俺達が開業したいって事をタイリーが教えたんだろ?」
「だったら、使い道のある人に渡した方がいいってハリーに全部渡したんだと」

その話を聞いて、いかにもセドらしい行動だなと感じた。
だが、フレッド達はそれを本人から受け取ったわけではないからまだ手を付けていないらしい。さらに、お礼を伝えたいのに、何度梟便を送っても梟が手紙を持ち帰ってくるらしいのだ。

「もしもセドリックと連絡がついたら教えてくれないか?」
「俺達がお礼を言いたがってるって伝えてくれよ」

全く同じ顔で全く同じように眉を下げる二人に、笑顔を見せる。

「あぁ、あとで手紙を送ってみるよ」
「わりーな」
「ありがとよ、タイリー」

安心したように、また手を動かし始めた二人を見て自分も手を動かす。セドの家で何があったのかはわからないが、手紙をフクロウに持ち帰らせるその行動に、すこし不審感を抱いた。何か彼の身に起きたのだろうか。そこはわからないが、この片付けが終わったら彼にきちんと手紙を送らないといけないな。












その日の夜、セドに手紙を書き連ね、ウィーズリー家のフクロウに手紙をもたせて送った。本当は、ダイアゴン横丁で送りたかったのだが、モリーさんに反対されてしまったのだ。(「ホグワーツに向かうまでは外出はいけませんよ、タイリー」)残念だが、俺からの手紙だと気づいて受け取ってくれると信じるしかない。

「あ、おかえりパパ」
「おかえりパパ」


全員で食卓を囲み、夕食を食べている時アーサーさんが帰ってきた。コートをモリーさんに預けて双子達とハグをしたアーサーさんは、一度椅子に座ると俺とヒヨリの名前を呼んだ。ゴブレットに入っていた水を飲もうとしていた手を止めて、俺とヒヨリは姿勢を正して彼を見た。

「職場で同僚に聞いてきたのだが...日本は国を閉じたそうだ。いつ国を開けるかはわからないと言っていた」
「...そうですか」

日本が国を閉じた事は、予想の範囲内だった。問題なのは、陸奥村家の動向で。

「じゃあ国を閉じたって事は、もうオジョー達は追われる心配はないって事か?」

だよな?そう続けて、俺達を笑顔で見るジョージにフレッド。彼等のとなりではハリー達も、安心したように笑顔を浮かべていた。そんな中、俺やヒヨリ、さらにはシリウスにリーマスだけは笑顔を浮かべる事ができずにいた。たとえ日本が国を閉じたからといって、安心できるだろうか?答えは否だ。

「...おい、タイリー?」
「オジョー...」

険しい顔をしていた俺とヒヨリを不思議に思ったのか、フレッド達が小さく名前を呼ぶ。彼等の顔をすこし垣間見たあと、アーサーさんが首を横に振った。

「...日本の純血一族達が束になって、日本を守る事になっているそうだ。その中心は、陸奥村家。...君のお祖母さんだ」

ヒヨリの顔をじっと見つめながら、アーサーさんがそう言った。それを意味する事はつまり。

「陸奥村家は総出で、君たちの行方を捜している。次期当主である、君を」

その一言に、空気が凍ったのがわかった。まぁ、そうだろう。それがあの家の純血主義だから。そうだろうと予想をしていた事だから、格別驚いているわけではないが、あまりに平静とし過ぎていたのか、フレッドに「なんでそんなに平然といられるんだよ!!」と怒鳴られた。

「大事になっているわけではない。国際本部の同僚が言っていただけで、魔法省全体にその話は渡っていないが...どうだろう。それに、ダンブルドアにどう話が伝わっているのかはわからない」

退学の旨の書類を提出すると、コトヨ様は仰っていた。もしもダンブルドア先生にその話が既に伝わっていたなら、例えリーマス達やアーサーさん達が「退学はさせないでくれ」と言ったとしても、意味がないのでは。

「でも大丈夫だよね?退学はしたくないって本人達が言ってるんだから...」

ハリーの心配そうな声が響く。その声に、ロンは強く首を縦に振って同意の意を示したが、どうだろうか。彼等を見て、俺は思わずため息をつき口を開いた。

「...だと、いいのだが」

その言葉に、隣に座るヒヨリの拳がふるふると震えた。彼女の膝に手を伸ばし、その手をきつく握りしめる。

例えホグワーツに戻れなかったとしても、陸奥村家が彼女を捜していたとしても。俺がヒヨリを守らないといけない。彼女の人生を、俺が。

重々しく呟いた俺の言葉は、夕食の時間には似合わずどんよりとした空気を作り上げてしまっていた。




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