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新学期がついに始まる。トランクに荷物を詰め込んで、部屋から出ればこの屋敷の下僕妖精であるクリーチャーが立っていた。嗄れた声で「おはようございます」と言って頭を下げる彼を見下ろす。
「おはようございます、クリーチャー」
「行ってらっしゃいまし、お嬢様...」
「...はい」
まるでブラック家の娘のような扱いだけれど、純血の家の人間だということがすぐにでもわかるのだろう。クリーチャーはあれからずっと、私には恭しく腰を下げる事を繰り返していた。
どうにもこのむず痒さには慣れないけれど、彼がそれを止めようとしないからまあ仕方ない。トランクを持ってリビングに降りていけば、フレッド達のいる部屋からタイリーの怒声が聞こえた。
「どうしてお前達はそうやって後回しにするんだ!」
「タイリーうるせーよ!親か!」
「お前の方がうるせーよジョージ!」
「いいから手を動かせ...!」
「「わかったよママ!」」
新学期そうそう親子喧嘩だ。いつまでたっても変わらない3人の関係性に、私は笑顔をこぼす。リビングにはすでにハーマイオニー達がいて、おはようと声をかけられた。
「おはようございます、モリーおばさん」
「えぇ、おはようヒヨリ。さぁさぁ、朝ごはんをしっかり食べるのよ」
「はい」
普通の家だと新学期はこんなにも騒がしいものなんだ。約1年会えない日々が続くのだから。そりゃそうかもしれない。ホグワーツ最終学年にして初めて、なんだか今までとは違う新学期を迎えてしまって。心がぽっかりと温まるのを感じた。
「「ヒヨリ!!!!!!」」
駅に着けば、大好きな人達の声がホームから聞こえた。トランクをそばにおいて、私の所に走ってくるアンジーとアリシアに、私もトランクをタイリーに預けて走っていく。
二人に抱きかかえられながら、ぎゅっと抱きしめ合う。二人の腕が背中にまわって服をきつく握りしめられた。
「よかった...本当に...本当によかった...!!」
「無事ね?無事なのね?」
何度も何度も確かめられるかのように、私の頭を撫でたりほっぺを触ってくる二人の肩を叩く。
「もう!子供扱いしないでよ!」
「ふふっ、変わらないわね」
「あぁ...ヒヨリだわ...」
涙を目に貯めて、アンジーとアリシアは何度も何度も私の名前を呼び続けた。そんな私達の姿を笑いながら見ていたフレッドが、アンジーの肩に手を回して私からアンジーを引き離した。
「もうそろそろいいだろ、オジョー?俺もアンジーとは久しぶりの再会なんだ」
「もう、ヒヨリとゆっくり話したいのよ?」
「君たちは同室だからいいだろ?」
「ほらそんなことよりオジョー、あっちに羨ましそうにこっちを見てるやつがいるぞ」
ジョージが私の肩をぽんと叩く。いつのまにかやってきたジョージの隣には、タイリーもいて。二人で顔を見合わせて後ろを見れば、そこにはリーが唇を引き締めながらこっちを見ていた。トランクをひっぱりながら(変に几帳面な彼らしい)こっちに走ってくるリーが、タイリーに飛びついた。
「タイリー!!!!!」
「...リー」
リーの背中に優しく腕を回して、ぽんぽんと叩くタイリー。リーはタイリーの胸元に顔を埋めながら、何度も何度も首を縦に振っていた。
「よかった...もう、会えないのかと思った...!!」
私たちのホグワーツでの学生生活が、こうやって多くの人に囲まれるようになるなんて。入学したてのあの頃じゃ多分、想像つかなかった。
今回で最後となる監督生の仕事。前の方にある監督生専用のコンパートメントに、ハーマイオニーとロンを引き連れて、どんな事をするのかと話せば、二人は少し緊張した顔を見せながらこくこくと首を縦に振った。そんな二人に少しだけ笑って、私とタイリーも通路を歩き出そうと足を動かした。その時、私達の腕を引っ張るなにかがやってきて、思わず後ろにたおれそうになった(タイリーが私を支えてくれたおかげで大丈夫だったけど)。
「...セド...?」
「え...!?」
タイリーの声に思わず後ろを振り向けば、セドリックがそこにいた。私とタイリーの腕をきつく握りしめて、じっとタイリーを見つめている。
「...タイリー、ヒヨリ。連絡できなくて本当にごめん。去年の試合の事とか、ハリーの話とかで、父さんにホグワーツに戻るなと言われていたんだ」
「そうだったのか...」
「だけどなんとか説得してきたよ。あと1年だからね...そんなことより、君たちの方が心配だ。...日本を逃げ出したって?」
「...知ってたの?」
「知ってるもなにも...魔法省と繋がりのある人間は皆知ってるよ」
セドリックのその言葉に、私とタイリーは顔を見合わせた。だとしても、どうしようもないのかもしれないけれど。
「僕はいつでも君達の味方だ。何か情報があったら、教えるよ」
「すまない、セド」
「ごめんね...」
「気にしないで」
セドリックはそういうと、ハッフルパフの王子様らしい笑顔を1つ見せて、手を離した。私達とは逆のほうに歩き始める彼の背中を見届けて、私とタイリーは歩き出す。その時、またもや違う人に腕を掴まれた。今日は新学期だからというのもあるのかもしれないけれど、一体皆なんなんだ。
掴まれた方を見れば、それは予想外の人物だった。
「...マルフォイ?」
タイリーの不思議そうな声が頭上から聞こえる。キラキラと輝くプラチナブロンドが、じっと私を向いていた。彼は周りをちらりと伺ったあと、小さい声でそっと話しかけてきた。
「君の家の話はここの純血の家系には伝わってる。気をつけた方がいい。スリザリンも純血の人間も皆、君に目をつけてる」
「...君は?」
「...どうして君に目をつける必要が?」
彼は本当にドラコ・マルフォイだろうか?思わず驚いて目を見開けば、マルフォイはゆっくりと私から手を離し、タイリーに目配せをした。
「君達二人がどうなろうと知ったことではないが、日本の守護魔法が野晒しになっている今の事実が、いかに危険な事なのか、君達は気付くべきだ」
「...あぁ」
「日本から連れ出したんだ、しっかりと守り抜く義務がシェバンにはある。いいか...?イギリスの純血家系と日本の純血家系を一緒にするな」
イギリスで一番といってもいいほどの高貴な家系の人間らしい言葉だ。それでも、どうしてここまで彼が私たちに親身になってくれるのかわからなかった。その気持ちが顔にでも出ていたのか、マルフォイは私とタイリーを何度か見比べると、ふぅと一息ついてもう一度口を開いた。
「僕は純血として誇りを持ってる。君みたいに、家を逃げ出そうとなんてしない。だけど、だからといって同じ血の人間を見放す事はしない。君の家は僕と同じ、国を代表する家なのだから」
うん。どこまでも家に忠実で、それでもきっと誰よりも、私と同じ立場の人間として心配してくれているんだろうと思った。純血に誇りを持っている家の人間が、純血の家を抜けようとする事がどれだけのリスクを背負うのか、彼はよく理解できているんだ。
だからこそ、彼の言葉がすんなりと心の中に溶け込んでいった。
私は、私達は。
戦わないといけないんだ、と。
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