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「おいタイリー、お前本当に行くのかよ?」
「わざわざあんな奴の所に行く必要あるのか?」

その日の夜。アンブリッジからの呼び出しに一人談話室を出ようとした時だった。後ろでフレッド達が焦ったような声でタイリーに話しかけていた。なんだろうと振り向けば、タイリーは澄ました顔で二人の間をかき分けて僕と同じように談話室の扉へと近づく。

「ハリー、一緒に行こうか」
「え?」

少しだけ口角をあげて笑顔でそう言ったタイリーに、驚きで目が開かれる。思わずズレたメガネに手を寄せて正常な位置に戻し、もう一度まじまじとタイリーを見つめた。

「「おいタイリー!!」」

双子達の声が聞こえるが、それを無視してタイリーは扉を開いて廊下へと出た。その後を慌てて追いかける形で僕も出れば、タイリーは僕に一瞥をよこすと、コツコツと音を鳴らして廊下を歩いて行く。

「タ、タイリー...」
「なんだ?」
「もしかして...君もアンブリッジのところに...?」
「あぁ、そうだ」
「どうして...!」

僕らグリフィンドールの首席であり監督生でもある王様のタイリーが、なぜアンブリッジに呼び出されるのか。タイリーの顔を見上げながら歩き続けば、タイリーは少し困ったような笑みを見せて僕を観ると、また前を向いて口を開いた。

「アンブリッジに杖を向けただけさ」
「え!?」

さも当たり前のように、『杖を向けただけ』というタイリーに足を止める。タイリーが?杖を?先生に向ける?
確かにアンブリッジを先生と認めていないだろうけれど、だからといってそれは別の話だ。(きっと)

「どうした?着くぞ、部屋に」
「あ...うん」

それでもさも当たり前の様に歩いて行くタイリーの背中に追いつくように、僕はもう一度足を動かした。









「...お入りなさい」

闇の魔術に対する防衛術の教室に入り、教師の部屋をノックする。中から聞こえた声にしたがって入れば、いつぞやで見た部屋とは全く違うピンク一色の部屋に思わず目をしかめてしまった。

「座って」

いち早く足を動かしたタイリーの隣に座る形で、僕も座る。アンブリッジはやけにニコニコと笑みを深めながら、書き取りの罰則だと言った。羽ペンを取り出そうと腕を伸ばせば、アンブリッジはそれを制して「私の特別な羽ペンを使ってね」と言った。

「さぁ...書きなさい。Mr.ポッター、貴方は”ウソはいけない”と。Mr.シェバン貴方は”野蛮な行為はもうしない”と」

左隣に座るタイリーをちらりと観る。机の上に置かれた羽ペンと、羊皮紙をじっと見つめながら、タイリーは静かに口を開いた。

「インクは?」
「要らないわ」
「何回書けば?」
「言葉が身に染みるまでよ」

そう聞くと、タイリーはすぐさま羽ペンを握り羊皮紙に向かって動かした。サラサラと書いて行くタイリーのその手を見て、僕も書き出そうとした時タイリーの右腕が伸びて僕の左手首を掴んだ。

「...タイリー?」

小さい声で彼の名前を呼べば、タイリーはこっちを一切観ることなく首を横に振り一心不乱に羽を動かしていた。インクもないのに。羊皮紙には真っ赤な色で文字が書き出されていく。ピクピクと動いているタイリーの利き手じゃない左手を見れば、何度か手を握ったり開いたりと繰り返していた。

「何かあったかしら?」

タイリーの異変に気づいたのか、後ろにいたアンブリッジが前に回り込みタイリーに問いかける。

「あら、Mr.ポッターどうして書いていないのかしら?」
「書かなくてもいい、ハリー」
「Mr.シェバン、教師に杖を向けた身で何を言っているのか分かっているの?」

タイリーは羽ペンを机の上に置くと、アンブリッジを睨むように立ち上がった。ふと見えた左手は、羊皮紙に書かれている文字と同じような傷がうっすら広がっていた。

「これ...!!」

こんなのどう考えても悪質な罰則だ。思わず腕を伸ばしてタイリーの手に触れる。タイリーはそれを制するように、僕の左手首に巻きついているブレスレットを優しく撫でた。

「...まったく身にしみていないようね。そのブレスレットがあるせいだわ」

アンブリッジは目ざとくタイリーの手首にあるブレスレットを観ると、タイリーの手首に腕を伸ばしてその手首を捕まえる。思わずぎょっとした。アンブリッジはタイリーのブレスレットを没収しようとしているのだ。

「あなたにこのブレスレットに触れる権利は無いはずだ」

パシンと鳴る手と手のぶつかった音に、目を開く。タイリーの手が空を切り、アンブリッジの手を弾き落とした。手首に垂れている革紐のブレスレットが、ゆらりとゆれている。

「一度だけでなく二度も教師に歯向かうとは何事です?グリフィンドールの監督生ともあろう人間が」

アンブリッジの険しい顔と甲高い声が、タイリーを怒鳴りつける。下から睨みあげるようにタイリーを見ているアンブリッジを、タイリーはすらりとしたその高身長から見下ろすようにして、口を開いた。

「監督生である事とそれに、なんの関係が?」

ここまで冷たいタイリーは初めて見た。そして怒りに狂っているのはアンブリッジだけじゃなくタイリーも一緒だ。アンブリッジはタイリーをキッとにらむと、タイリーのローブの胸元に光る監督生バッチを掴んで取り外した。

「...監督生としての権限を、剥奪します...!!」









グリフィンドールの王様が監督生の権限を剥奪された。その噂は一夜を過ぎるとすぐに広まった。怒っているのはフレッドにジョージ達。もちろんヒヨリもだ。

「アンブリッジの所にクソ爆弾投げようぜ」
「あぁ。なんの理由があるっていうんだ」

怒っているのは何も彼らだけじゃない。グリフィンドールの人達は皆同じ気持ちだ。それでも尚、タイリーは何に対しても怒っているわけでもなくて。あの時アンブリッジに触れられそうになったブレスレットが壊れなかっただけでも安心だと言っている。

大広間での朝食はいつも以上に騒がしくて、僕は何度もタイリーの手をちらりと見た。まだ痛々しいその傷に、ヒヨリの悲しそうな顔が見える。

「...気にしなくていい、ヒヨリ」
「こんなの...マクゴナガル先生に訴えるべきだよ...」
「えぇ、私もそう思うわ」

ヒヨリの前に座ったハーマイオニーもそういった。同じ監督生としてだって、後輩としてだって、皆思う事は一緒なのだ。

「こんなの、明らかに罰則の域を越えてる」
「異議を申したてましょう」

我らが王様に監督生としての権利を。それは、グリフィンドール全員の意思でもあるし、ある意味でのアンブリッジへの反抗心を高める出来事になった。


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