17
いざ、ホッグズ・ヘッドに着いてみればそこにいたのはグリフィンドール以外にもハッフルパフやレイブンクローまで色々な寮の人間たちがいた(もちろんスリザリンはいない)。
その中にはセドもいた。となりにはチョウもいる。こちらに気づいたのか小さく手を降って笑顔を見せていた。俺はすこし首を縦に振って頷くだけにとどめて置いた。
椅子はほとんど先に着いていた生徒たちに取られており、俺たちの座る場所はなかった。壁に寄りかかっているフレッドとジョージのように、俺とヒヨリも壁に寄りかかる。彼女を少しだけでも寒い風から離してあげようと、俺が扉側だ。小さい声でタイリーありがとうと言われ、小さく口角をあげておいた。
「えー...こんにちは」
静かになった部屋に、ハーマイオニーの声が響く。彼女はすこし緊張した面持ちで椅子から立ち上がると、手を前の方に組みながら、言葉を進めた。
「今日、なぜ皆さんに集まってもらったかというと、わかるでしょう。私たちは、先生が必要です。防衛術の、先生が。闇の魔術に対抗できる、先生です」
「なぜ?」
「なぜ?」
誰が言ったのかはわからない(そもそも下級生の名前を知らないからだ)。その言葉に、ロンが同じように言葉を言い返した。
「例のあの人が戻ってきたからに決まってるだろ」
「彼の話だけだろ?」
「校長先生も言ってたわ」
ハリーは黙ったまま、その男子生徒とロン、ハーマイオニーの言い合いを見ている。
「ダンブルドア先生が言ってるのは、彼が言っているからだろ。で、証拠はどこにあるんだよ?」
隣に立っているヒヨリがイライラしているのが横目で見てわかった。いや、見なくてもわかるほどのオーラだ。アンジーとアリシアが困ったように俺の顔を見上げているのが目の端に見えたが、俺は黙ってヒヨリの肩に手を置いてなだめるだけしておいた。
「ちょっと待って、この会合はこの事が目的なわけじゃないわ」
「いいんだハーマイオニー」
ハーマイオニーの言葉に被さるように、ハリーがぶっきらぼうに言い放ちながら席を立った。
パーカーのポケットに手をツッコミながら、彼は口早に言葉を続けた。
「僕は奴を見たんだ。そしてダンブルドア先生にその事を伝え、先生は話した筈だ。君がその話を信じていないから、僕の話も信じないのだろう?」
「ダンブルドア先生が話していたのは、ディゴリーとポッターが競技中に事故に遭い、なんとか君達が戻ってきた、ということだけさ。肝心のディゴリーは何も言ってないじゃないか」
その言葉に痛いところを突かれたのか、セドはすこし苦しそうな顔をしたあと、ふぅと息を着いて一歩前に出た。心配そうな顔でチョウは彼を見つめている。
「...この際だから言うよ」
「セド」
魔法省の人間の息子が言っていい言葉ではないだろう。それを安易に伝えようとすれば、彼はこっちを一目見て、すぐにまた前を向き意を決したように口を開いた。
「僕も、例のあの人を見た」
その場にいた全員が息を呑むのが分かった。
「...さぁ、どうだろうね。ポッターに口裏を合わせてほしいとでも言われたんじゃないかとさえ思うよ」
性懲りもなく、その男子生徒はまだ続ける。さすがにその言葉には怒りを覚えたのか、セドが思わず何かを言おうとしたその時、隣に立っていたヒヨリが緩やかに足を動かし、彼の前に立った。
「君、名前は?」
突然目の前に現れたヒヨリに驚いたのか、彼は目を見開いたあと、静かな声で名乗った。
「...ザガリアス・スミス...」
いつかの光景を彷彿とさせる。ヒヨリは静かに怒っているようだった。
「そう、スミスくん。君は魔法界の政治には詳しい?」
「まぁ...それなりに」
「今回のこの騒動で、一つの国が、他の国とのつながりを切った。それがどう言う意味なのかわかる人、いる?」
彼女はそう言うと、ぐるりと辺りを見渡す。目を見開いて驚いているハーマイオニー達の姿をちらりと見たあと、ヒヨリはさらに口を開き、前に躍り出た。
「もっと詳しく言うならこう。昔、闇の魔法使いに侵攻を許してしまった日本国が、国を閉じた。...もう君達も上級生の仲間入りで、例え魔法界の政治に疎かったとしても、わかるはずだよね。日本がどれだけ平和な国で、そして、闇に打ち勝つ守護魔法を持っているのか。それなのにもかかわらず」
ヒヨリはそこまで言うと、一度言葉を区切り、浅く息を吸ったあとに続けた。
「日本は、国を閉じたの」
全員が静かに、彼女を見ていた。
例え政治に疎かったとしても、マグル出身で魔法界に関わって日が浅い人間だとしても、この学校に通って数年は経っているのだ。ヒヨリが言っている言葉がどれほどの事実を帯びているのか、わからない人間がこの場にいるとは考えたくない。
「...その事実から目を背けて、ハリーやセドリックを貶しているようにしかみえない」
ヒヨリの重い言葉が伝わったのか、ザガリアス(言いにくい名前だ)は、見開いていたその目をすこし伏せがちにした。ザガリアスだけではない、他の人間も皆一緒に、緊張していたその肩をさらに強張らせていた。
俺はただ何も言わずに、前に立つ彼女の姿を見続けた。
日本から逃げたとしても、彼女がその重い枷から逃げる事はまだ、叶っていないのだと理解したからだ。
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