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「君、グリフィンドールの王様って呼ばれてるタイリアナ・シェバン?」


選択授業である古代ルーン文字学の教室で一人おとなしく座っていた時のことだ。お嬢様とアンジーたちはマグル学を取り、フレッドたちは遊びに出かけているはずだ。古代ルーン文字は難しいからあまり選択科目でとる人はいないと聞いた。そのため、一人で座っている人が多い中、珍しく俺の隣の席に座り声をかけてきた人がいたのだ。


「...そういう君は、ハッフルパフの王子様、セドリック・ディゴリーか?」
「わ、知ってたんだね、嬉しいよ」


きっと女子たちが騒ぐだろうなというくらい爽やかな、そして甘い顔で笑顔を浮かべたその人物、セドリックは何食わぬ顔で隣の椅子を引き、座った。教科書を置いて、パラパラとめくりながら今日やる予定のページを開き、俺の方に顔を向けた。


「知ってるもなにも、ハッフルパフのシーカーを知らない人はいないだろう」
「それはこっちのセリフさ。僕たちの学年で、成績トップの君を知らない人なんていないよ」


おどけたようにそういうセドリックは、肩を少しすくめてあげた後、握手を求めるように手を差し出した。


「今まで話す機会はなかったから、話してみたかったんだ。改めて、セドリック・ディゴリーだ。よろしくしてくれるかい?」


なぜ話してみたかったのかよく分からないが、グリフィンドール以外にできる人脈は嬉しいものがあったので、快く俺はその手を握った。


「タイリアナ・シェバンだ。長いからタイリーと呼んでくれ、よくそう呼ばれてる」
「じゃあ僕のこともセドでいいよ。よろしくね、タイリー」


そうにこやかに言って離される手。俺はその手を教科書の上に置き、左手で頬杖をついた。セドリック、いや、セドはこちらを見て、困ったように笑みを見せて頬を掻いた。


「僕の顔に何かついてるかい?」
「...いや、なぜ話しかけてきたのか不思議に思っただけさ」


俺がそういえば、セドは一瞬思考を巡らして、そしてまたこちらに向いた。その顔には意外にも、意地悪そうな笑みを浮かべていて、そんな顔もするんだなと俺は内心思った。品行方正なハッフルパフの王子様、セドリック・ディゴリーにはどうしてもそんなイメージが付きまとっていたから。


「王様、そう呼ばれてる人がどんな人なのか気になるだろう?」


その言葉に、俺は思わず吹き出しそうになるのをこらえる。
王様と呼び出したのは誰かは知らないが、気づけばいつの間にか俺はグリフィンドールの王様なんて、大層な名前で呼ばれるようになっていたらしい。


「..それで、どんな人に見えた?」


先生が教室の中に入ってきた。全員が教科書を開き、先生が教壇の上に立つのを待つ。セドはそれをちらりと見た後、小さい声で俺の耳に口を寄せて言った。


「確かに、王様っぽい」


その声が嫌に楽しんでるような声色で、俺は肩を竦ませて前を向いた。
この時からセドリック・ディゴリーは、俺の中で王子様というイメージをことごとく覆して行ったのだ。



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