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そんなハリーの初試合も華麗なるグリフィンドールの勝利に収まって。クリスマス休暇がやってきた。今年は双子含むウィズリー家とハリーが残るらしい。毎年私とタイリーだけだった談話室が、なんだかやけに明るく見えた。

朝起きてベッドから起き上がる。アンジーとアリシアのいない部屋はとても静かで、私はカーディガンを羽織ってシャワーを浴びる。ベッドのそばにあったプレゼントの山を浮かばせて、談話室に降りていった。毎年タイリーと一緒み見ているから、今年も一緒に見るんだ。

プレゼントはいくつになっても嬉しいものだ。


「おはよう、タイリー」
「おはようございます、お嬢様」


タイリーは今年も、私より早く起きていた。ソファーに座って本を読んでいたタイリーが立ち上がり、小さく頭を下げて笑顔で言う。そんなタイリーの近くまで行き、プレゼントをゆっくりとソファーにおろして、毎年恒例のプレゼント確認の時間だ。


「フレッドたちは?」
「まだ寝ています」
「まぁまだ朝の7時だしね」


二人きりのゆっくりな時間。双子たちが起き上がるまでは、二人だけで過ごしたいと思ったのは、私だけじゃなかったのだろう。隣に座るタイリーの顔を見上げてにっこりと笑えば、タイリーも目を緩めて、こっちを見ていた。

年々増えるプレゼントの山に喜びを抑えながら一つ一つ封を開けていく。
今年から新しくメンバー入りを果たしたのは、ハーマイオニー、ハリー、ロンだ。ハーマイオニーからは、可愛らしい銀の羽でできた栞だった。そして一緒に入っていた手紙を読む。

『出会った時から、昨日まで、いつもありがとう、ヒヨリ。貴方のような魔女になるのが、私の目標です。 ハーマイオニー・グレンジャー』

その言葉が、とても嬉しくて。少し浮かぶ涙を袖で拭いて、私はその手紙をそっと撫でながら隣のタイリーに見せてあげた。タイリーも自分のことのように嬉しそうに笑顔をこぼしてくれたのだ。



プレゼントの山を一通り見終えた時、双子やハリーたちの声が上から聞こえた。きっと起きたのだろう。騒がしくなるだろうなと思えば、タイリーが小さくため息をこぼしていて笑ってしまった。


「タイリー、オジョーはえーな!!」
「メリークリスマス、二人とも!!せっかくのおデート中にごめんよ」


フレッドとジョージがニヤリと笑いながらドタドタと足音を鳴らして降りてくる。私もはぁ、とため息をついて、二人を見上げる。メリークリスマス、一言とともに。


「あれ、同じセーター?」
「あぁ、タイリーにも来てるだろ?」
「ママ特製のセーターさ」
「...きてるが、俺ももらっていいのか?」


タイリーのプレゼントの山の中にあったセーターはどうやらウィズリー家のお母さんの特製のものらしくて。フレッドとジョージは、F、Gと一文字書かれたセーターを着てふふんと笑いながらそう言った。


「おはよう」
「おはよう、ハリー、ロンも」
「うん...」


ハリーとロンも起きてきた。ロンはまだ眠そうだ。そんなハリーも、ウィズリーおばさん特製のセーターを着ていて(ロンはまだ着ていなかった)、フレッドたちにからかわれていた。なんとか双子たちから逃れたハリーはこっちに来ると、小さくヒヨリ、タイリーと私たちの名前を呼んだ。


「ん?」
「なんだい、ハリー」
「プレゼント、ありがとう」


そう言って見せたのは、私とタイリー二人で守護魔法をかけたブレスレット。この前の試合で、なんだか箒に振り回されていたから危なっかしくて、私とタイリーはハリーを少しでも守ってあげようと決めて作ったのだ。ハリーはすでにそのブレスレットを手首につけていて。


「私とタイリーの守護魔法がついてるからね」
「無期限だ。肌身離さずつけていれば、君をずっと守ってくれる」


そう言って二人で交互にハリーの頭を撫でる。ハリーは照れてように笑うと、ブレスレットをそっと撫でた。


「守護魔法って?」


同じようにフレッドたちから逃げたロンが、疑問を口にする。その質問に答えたのは私やタイリーではなくて、フレッドとジョージだった。


「オジョーとタイリーは日本の魔法使いだぜ?」
「日本といえば、守護魔法、ロニー坊やもそれぐらいは知ってるだろ?」


そうニヤリと笑った双子に、ロンはそう呼ぶなと小さく怒った。ハリーはそれを聞いてもう一度顔を上げる。不思議そうな顔をしてるハリーに、私も首をかしげた。


「僕、マグルで育ったからよくわからないんだ」
「え!?そうだったの!?」


だからこんなにもこの子は謙虚なのか、とその時思った。普通ならあれだけ生き残った男の子と囃し立てられれば図に乗るものだろうと思っていたから。私もタイリーも驚いたように目を開けば、フレッドとジョージがケラケラと笑いながら指をさしてきた。


「あのタイリーが驚いてるぜ、相棒」
「あぁ、こりゃ永久保存版だ、相棒」
「黙れ、二人とも」


双子を睨みながらそう言ったタイリーに笑いながら、私はハリーに目を合わせて口を開く。日本は基本的に欧州の魔法と種類が違うこと、神様の御元にいるから名家それぞれに独特の守護魔法があるということ。それを言えば今度はハリーが目を開いた。


「ヒヨリは本当に純血名家の人間だったの?」
「なんかこの言葉、デジャヴなんだけど」


そういえば、また面白そうに双子たちが声を上げて笑った。




クリスマスのご馳走は毎年同じようにすごくて。今年はタイリーだけじゃなく双子達、さらにはハリーもいる。それが楽しくて、私とタイリーは終始笑顔だった気がする。
パーシーを無理やり引っ張ってハリーやロンと雪合戦に興じる双子たちを見送って、私とタイリーは二人で談話室に戻った。クリスマスは家族と過ごすものだという双子たちに則るのなら、私とタイリーも共に過ごすべきだからだ。これは一年生の頃から変わらない。

談話室にあるソファーを二人でゆったりと独占して。隣に座るタイリーの太ももの上に足を乗せて私は横になりながら本を読む。文句一つ言わずににこりと笑うタイリーに甘える私は、彼にとっては妹のような存在なのだろうか。できれば、恋人のような存在に思われていたら、これ程嬉しいクリスマスプレゼントもないだろう。



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