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クリスマス休暇も開けて通常の授業が開始し、ハッフルパフ戦もグリフィンドールが勝利に収めたのもつかの間(セドには授業中にあからさまにため息をつかれたのは記憶に新しい)、入学してから今までずっと注目の的だったハリー含む数人の一年生が、グリフィンドールの寮の点をごっそりと減らした。

この事件は瞬く間にホグワーツ中に広がった。このままだとまたスリザリンが一位になってしまうためか、グリフィンドールの寮生だけだはなく関係のないハッフルパフやレイブンクローの生徒までもがハリーにきつく当たっていた。


「君の所のシーカー、ハリーは大丈夫なのかい?」


授業が始まる前のいつもの時間。セドは教科書を開きながらあまり興味はない雰囲気でそう話した。実際興味はないのだろうけれど。


「…何を持って大丈夫というかはわからないが、毎日下を向いているな」
「だろうね」


あからさまな態度ははっきり言って見てていいものではない。毎日お嬢様も心配そうにハーマイオニー達を見つめている。何度か話しかけようとしていたけれど、恥ずかしいのかそれとも気まずいのか、ハーマイオニー達は悉くお嬢様を避けていた。


「お嬢様も心配しているし…」


はぁ、とため息をつけば、セドはちらりとこっちを見て、その顔に爽やかな笑みを浮かべた。


「一体いつになったら、その子紹介してくれるんだい?」
「一生無い」
「束縛もそこそこにしないと逃げられるよ?」


可笑しそうに小さく声をあげて笑いながらそういう彼を、横目でジトリと睨んでやった。





そんな話をセドとした夜。談話室では相変わらず肩身を狭そうに隅の方で勉強をしているハリー達を、心配そうに見ていたお嬢様がついに立ち上がった。悪戯でもやりに行ってるのだろう双子達や、同じクィディッチのメンバーであるケイティーと3人で話し合いをしているのだろうアンジー達もいない。今しかないと思ったのだろう、お嬢様はしっかりとハリー達の方へと足を進めていた。好奇の視線は使用人である俺が蹴散らす。お嬢様の後ろにくっつきながら、俺とお嬢様は座っているハリー達の前に立った。


「ヒヨリ…」


ハーマイオニーが気まずそうにお嬢様の名前を呼ぶ。同じように顔を上げたハリーとロンは、お嬢様と俺と目をわせると同じタイミングで視線を逸らし下を向いた。


「調子はどう?3人とも」


お嬢様は努めて優しい声でそう聞くと、羊皮紙の広がった机の端の方に腰を置いた。ハーマイオニーが泣きそうな顔で見上げる。その顔にはきっと失望されたとそう思い込んでいる表情が映っていた。


「…まぁまぁ、かな」


そう弱々しくいったハリーの隣でロンは肩をあげて首を横に振っていた。


「まぁまぁ、ね」


お嬢様は周りを見渡して、こっちを興味深そうにみてる人たちをちらりと見る。なんだか鬱陶しいので俺が少し睨めばその視線はすぐ様消えて、お嬢様は俺に笑顔でありがとうと仰った。


「あのね、ハリー」


お嬢様は背中を丸めて、3人の顔に顔を近づけた。


「貴方はまだ11歳で、まだまだ成長中の子供だけどね。大多数の人は君のことをそうとは思わないの。悲しいけど、貴方を、11歳の男の子として見てる人はごく少数だって思った方がいいよ」


そのお嬢様の言葉に、ハリーはバッと顔を上げて、震えるような声で口を開いた。


「…ヒヨリも…?」


僕を、そう見ているの?


その言葉が音になることはなかったけれど、確実に口はその言葉を形取っていた。お嬢様は少し笑いながら、ハリーの頭をそっと撫でる。


「生き残った男の子、英雄って勝手に期待してきて、勝手に失望してる人達の事をいちいち気にしてたらやっていけないよ、ハリー。貴方を英雄や素晴らしい名前で見ていない、ただ一人のハリー・ポッターとして見てくれている人がいるでしょう?」


ハリー・ポッターとして。

そう見てくれる人がいるということが、どれだけ大事なことで素敵な事なのか。それを俺とお嬢様は、ここに通って学んだ。

お嬢様のその言葉にハーマイオニーとロンが、ハリーの顔をちらりと見る。


「自分のことを見てくれて、自分の事を心配してくれる人たちがいる事を、忘れないで。ハーマイオニー、ロン、これは、貴方たちにも言える事なんだからね?」


ハーマイオニーと、ロンはハリーを挟んで顔を見合わせて、そしてゆっくりとお嬢様の顔を見上げて頷いた。


「無謀な事をしたり勇敢な行為をするのはグリフィンドールらしいっちゃらしいけどね?貴方達を心配している私やタイリーの気持ちは、無視なのかな?」


お嬢様の言いたいことはきっと伝わっただろう。ハリー達は目を見開いて顔を上げる。じっくりと3人の顔を見つめたお嬢様に、いち早くハーマイオニーが抱きついた。


「ごめんなさい、ヒヨリ…!!」
「ごめんよ、ヒヨリ…」
「…ごめん、なさい…」


ただ、心配をかけてごめんなさい。その一言が聞きたかっただけなんだ。
お嬢様はゆっくりとハーマイオニーの背中を撫でて、ちらりと俺の顔を見上げた。眉を一つあげて、タイリーは言わなくてもいいの?といった表情だ。俺は少し頬をかいて、膝を曲げて3人の目線に合うように屈む。


「点数は取り返すことができる。だけど、気持ちを取り返すことはできない。君達はそれを、きちんと理解していってくれ」


そう言えば、二人はしっかりと頷き、お嬢様の胸元に顔を埋めていたハーマイオニーも顔を上げて、しっかりと頷いてくれた。

ひとまずはこれで安心だろうか。あとは双子やリーに、態度を改めるようにと説教しなければ。

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