思い出の一つ

自室に戻って、アンジー、アリシアが私のベッドに詰め寄り、何回目かもわからない女子会が始まった。皆で持ち寄った広間のお菓子をナプキンの上に広げて、ベッドの上にお菓子のカスがこぼれないようにそのナプキンを拡大呪文で大きくする。

靴を脱いでベッドに乗りあがったアンジーとアリシアを前にして、私は枕を抱きしめながら、マフィンを口にした。

「そ、れ、で?」
「詳しく教えなさいよ、ヒヨリ!!」

二人の顔にはこれでもかというくらいにやけ顏が広がっていて。私はマフィンをゆっくりと咀嚼して、二人の顔に自分の顔を近づけて、口を開く。何があったのか事細かく説明して、タイリーにどうして手を握ってもらえたのか。それをいえば、アンジーとアリシアは可愛らしくきゃーと言いながら、ベッドの上ではねていた。

「なーにそれ!!甘酸っぱい!!」
「いいわねー...無自覚で手を繋ぐっていうのがまた...!!」
「しかも私達にからかわれて慌てて手を離してたじゃない?」
「あれもまたにやけちゃったわよねー」

二人は私以上にテンションを上げて盛り上がっていた。
この二人に、私がタイリーを好きだと言ったことはない。日本は言霊と言うものを信じている国だから、それを言葉にしてしまったら、次期当主である私のせいでタイリーの立ち位置が危うくなってしまう可能性があるからだ。

だけど、そんなことがなくたって、この二人は私と一緒にずっといるんだから、もうわかってるに決まってる。一緒に過ごして3年目、私のタイリーに対する感情も、うやむやなままにしている葛藤も、もう既に知られている。だから、こうやってよく緊急女子会と評してまで、私とタイリーの話をしてくるのだ。

「いいわねー...私もそんな甘酸っぱいものないかしら」
「あらやだ、アンジー。あなたフレッドは?」
「えぇ!?」

アリシアのそのニヤニヤとした笑みが次はアンジーに向けられる。私もアンジーに向かって笑みを浮かべてウンウンと首を縦に振った。

「フレッドとどうなの、アンジー?」
「別に特に何もないわよ...」
「「えー??」」

いつもハツラツとしているアンジーらしからぬ、乙女の顔に私とアリシアは抱きしめ合いながらきゃっきゃっと叫ぶ。アンジーが少し顔を赤くしながら、ほっぺを膨らませてこっちを見ていて、恋する乙女はかわいいなーと思った。もしかして、私もこんな風に見られているのだろうか?だとしたら、なんだか少し恥ずかしい。

二人でアンジーをいじっていれば、こんこんと控えめに扉がノックされた。なんだろうかと、未だにアンジーをいじっているアリシアたちから離れるためにベッドから降りて、扉に向かう。静かに開けば、そこにいたのはハーマイオニーだった。

「ハーマイオニー..!!」
「あ、ヒヨリ...」

無事だったようだ。
ハーマイオニーに抱きついて、彼女の顔を胸の中に閉じ込める。少し苦しそうにしていたハーマイオニーを慌てて離して、腰をかがめて彼女の目に合うようにしゃがみこむ。

「マクゴナガル先生に、ヒヨリが私が居ないってことを教えてくれたって言われて...ありがとう、ヒヨリ」

私の顔をしっかりと見つめて、そういうハーマイオニーの頭を優しく撫でる。怪我はしてない?と聞けば、彼女は首を縦に振って、笑顔を見せた。

「よかった。これ、ハロウィンのディナーで毎年出るかぼちゃクッキー。私とタイリーのお気に入りだよ、あげるね」

アクシオと言って自分のベッドの近くにある机の上に置いていた、紙ナプキンに包まれたクッキーを呼び寄せる。それを手のひらの中で広げて、ハーマイオニーに見せれば、ハーマイオニーは満面の笑みを浮かべてそのクッキーを受け取った。

「ありがとうヒヨリ...!!食べ損ねてしまって、少しショックだったの...」
「来年は一緒に食べようね」
「えぇ..!!」

嬉しそうに笑うハーマイオニーを最後まで見送って、私はもう一度中に入る。ベッドの上で未だにアンジーいじりをしていたアリシアがこっちに気づいて、閉じられた扉をちらりと見た。

「1年生?」
「うん、最近知り合った後輩の女の子」
「あら、そうなの」

もう一度靴を脱いでベッドの上に上がる。ボンボンと揺れるベッドに三人で少し跳ねて、私はアンジーをもう一度見つめ直してニヤリと笑う。

「さ、仕切り直しってことで、アンジー、話を聞かせてよ?」
「な、ヒヨリまで...!!何もないわよ...!!」

一度始まってしまえば、なかなか終わらないのが女子会というものだ。幸運なことにお菓子はたくさんあるわけだから、私たちは夜が更けるまでずっと、三人で恋話というものをしていた。



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