「誰を呪った?」
「マルフォイだよ。ハーマイオニーを...ひどい呼び方をしたんだ」

ハグリッドの家で、バケツの中にナメクジを吐き続けるロンを見ながら、ハリーがハグリッドに説明をする。
私はそれを聞いて、ハグリッドをちらりと見て「穢れた血、と」と、ハグリッドにそう言った。
彼は目を見開きながら「本当か?」と、ありえないものでも見てるかのような表情で、そう言った。

「どんな意味?」

ハリーが、ロンの背中をさすりながら問いかける。

それに答えたのは、ロンをじっと見つめたまま立っていたタイリーだった。

「マグル生まれの魔法使いを蔑む最低最悪な差別用語だ」

同じように、タイリーの隣で腕を組みながらぼーっと立っているヒヨリが、口を開く。

「穢れた血、何て言葉、まだあるんだねこっちでは」

どこを見ていたのかわからない視線は、ゆっくりとロンの方へと向き、そして次に私にうつる。

「どういうこと?ヒヨリ...」

私がそれを聞けば、ヒヨリよりも真っ先にタイリーが口を開いた。

「日本はそもそも、魔法界とマグルの垣根はあまりない」
「そうなの?」
「日本は、マグルと密接につながってる珍しい国なのさ、ハーマイオニー」

長い髭をなでつけながら、大きい体をそわそわと揺らしてハグリッドが言う。

「でも、ヒヨリは純血...なんだよね?」

純血名家の娘だとは聞いていたけれど、いつものほほんとしているヒヨリが後継だなんて、やっぱり何度聞いても結びつかない。

だけど、さっき見た。マルフォイに向けていたあの冷たい声に威圧感のある視線は、まさしく、次期当主と言っても間違いない姿だった。

何度か目を瞬きながら、そうヒヨリに聞いたハリーに、ヒヨリは組んでいた腕を離して身じろぎをする。そして、ゆっくりと足を動かして私たちの近くに寄った。

「日本ではもう、純血の数は少ないんだよ、片手で数えられるぐらい。私の家はその数えられるほどしかいない純血の家でも、華族と言われる家。イギリスでいう、貴族だよ」
「陸奥村家は、日本の少数派の純血一家達を統べる純血名家のうちの一つだ。もしも君が、お嬢様のマルフォイへのあの啖呵を気にしているのなら、そこは心配するな。マルフォイ家にも劣らないほど、陸奥村家は格式高い」

なおさら、そんな家の次期当主だなんて思えなかった。あの、ヒヨリが。私は、ゆっくりとしゃがみながら私の名前を呟くヒヨリを見つめる。

「ハーマイオニー、あの言葉を真に受けないで。ハーマイオニーは十分優秀な魔女だよ。マグルなんて、関係ない、血なんて、関係ない。この国の魔法界は、視界が狭いの。日本はマグルありきの魔法界だから、私たち日本人はマグルの良さをきちんと知ってるよ。

それに、あなたの友達だって、貴方の先輩だって先生だって、皆。貴方のことをきちんと理解している」

ヒヨリは、ハリーとロンをちらりと見て、その後にもう一度私を見る。膝の上に置かれた私の手を握りしめて、浮かんでいた私の涙を、親指ですくってくれたヒヨリを見つめる。

血なんて、関係ない。

尊敬している先輩であるヒヨリに、そう言ってもらえたことが何よりも嬉しかった。



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