2年生だけじゃなく、どの学年でも秘密の部屋は最近の話題の中心だ。去年に引き続きハーマイオニーと共に図書館で勉強をしていたお嬢様が、ハーマイオニーから秘密の部屋を授業中に先生から聞き出した、と教えてもらったらしい。
同じように授業中に他の先生に聞いてみれば、どの先生も同じような内容しか言わなかった。

「君はどう思う?タイリー」

最近の授業は、どの生徒も教師も意識がどこ吹く風。クィディッチが近いこともあるのだろうけれど、やはり、秘密の部屋について意識がいっているのだろう。

教科書を開きながら、隣に座るセドが俺に聞いてきた。今年も俺とセドは、同じ選択科目を取っていた。

「...さぁ?あるか無いかで考えるのなら、あるんじゃ無いのか?」
「へぇ...意外だな。タイリーも信じるんだ?」
「信じるも何も、教師陣の怯えようを見ていればそう思うだろう」

デタラメな都市伝説のようなものなら、曲がりなりにも教師であるマクゴナガル先生や他の先生も怯えながら話したりはしないだろう。授業を潰してでも話すということは、それだけ事が重要だということだ。

そう伝えれば、セドは「確かに」とつぶやきながら首を何度か縦に振った。





クィディッチが始まった。今年最初のクィディッチは、グリフィンドール対スリザリンだ。いつものように最前席で応援をしていれば、ブラッジャーが呪文でもかかっているのか、執拗にハリーを追いかけまわしていた。
ハリーにあげた守護魔法のかかったブレスレットもあるから大丈夫だとは思うが...心配しながらオペラグラスを覗き込みながら、俺とお嬢様はハリーの無事を心の中で祈っていた。

すると、ハリーが箒から転げ落ちる形で、地面に落ちた。しかし、ハリーの手にはスニッチがあった。

「ハリー・ポッターがスニッチをつかんだ!!グリフィンドールの勝利!!」

リーの実況に、俺とお嬢様はハーマイオニーたちの後についていく形で他のグリフィンドール生徒たちと同様に競技場に降りていく。地面に落ちる前に、ブラッジャーがハリーの腕に当たっていたはずだ。

「ハリー!!」

未だに暴れまわっているブラッジャーをどうにか押さえ込んでいるフレッドとジョージ。

「くっそ、なんだこいつ全然箱に入んねー!!」
「あーもうなんなんだよ!!」

そんな二人をちらりと見て、俺とお嬢様はハリーに走り寄る。腕を押さえながら呻いてるハリーを見る。彼の折れた腕は、ブレスレットをつけていない方の腕だった。

「ハリー、心配しなくていい、私が君の腕を治してやろう」

すかさず、でしゃばりのロックハート先生が現れる。腕を治す呪文なんて聞いたこともない。
お嬢様が訝しげな顔で彼を見上げて、そして立ち上がる。

「先生、お言葉ですがどんな呪文で治すなんて言ってるんですか?」
「Ms.陸奥村、心配には及びませんよ。この手の呪文は慣れているんだ」
「いやいや、体内の異変や骨折なんかは呪文では治らない。だから魔法薬があるんですよ?医務室に運びます」
「Ms.陸奥村はとても後輩思いの優しい先輩のようだ。だが、心配にはおよばない」

お嬢様が杖を振り、医務室に運ぶためにハリーに向かってモビリコーパスと唱えようとする。がしかし、その前にロックハート先生が杖をハリーに向かって振った。

「ブラキアム・エンメンドー!!」

ハリーの骨が治るどころか、彼の腕はぶらんぶらんと揺れ始める。ゴムのようになってしまったハリーの腕は、文字どおり、ゴム人間だ。

骨を治すどころか骨をなくす呪文をかけるロックハートに、もはや先生という呼称は必要ないだろう。呆然とロックハートを睨むお嬢様。俺は彼女のそばに寄ろうとすると、後ろでフレッド(もしくはジョージ)の「タイリー!!」という叫び声が聞こえた。

慌てて後ろを振り向けば、暴走しているブラッジャーがハリーめがけて飛びかかっていて。

つまり、ハリーの一番近くでロックハートからハリーを庇おうとしているお嬢様にブラッジャーが襲いかかろうとしていた。

「フィニート・インカンターテム!!」

お嬢様の肩に腕を回しハリーごと一緒に抱きしめて、片方の腕でそう唱えるも時すでに遅し。ブラッジャーに唱えられた呪文が治る前に、そのブラッジャーは俺の背中を直撃した。

「タイリー!!」

お嬢様の叫び声を最後に、暗い世界が、俺の前にやってきた。



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