夜ご飯も終わり、タイリーとハリーのために何か食べられそうなものをローブの中に入れて立ち上がる。医務室に行く私に、フレッドたちが「談話室で待ってる」と言って、それにコクリと首を縦に振った。

人っ子一人いない廊下を歩いていると、後ろから肩をトントンと叩かれた。慌てて後ろを振り向けば、そこにはハッフルパフの黄色いネクタイをつけた生徒。巷で有名なハッフルパフの王子様がいた。

「こんばんは、Ms.陸奥村?」
「こんばんは、Mr.ディゴリー」

初めて話すはずなのに、彼は私ににこりと笑みを浮かべながらまるで昔からの友達かのように隣を歩き出した。

「タイリーのところに行くんだろ?僕もついていくよ」
「あ、タイリーと仲いいんだっけ?同じ授業とってるって聞いたよ」
「あれ、知ってたの?」

少し目を見開きながら、眉を上げるディゴリーにコクリと頷く。

「意外だったな」
「なんで?」

ディゴリーはそう呟くと前を歩き出す。そこまで詳しいわけではないけれど、確かにタイリーは、セドリック・ディゴリーというハッフルパフ生の子と古代ルーン文字学を受けているって言っていた。

「彼、いつも君の話しないんだ。いつか会わせてっていっても、一生ないって豪語するんだよ」
「え?」

ディゴリーは肩を震わせながら喉の奥でくつくつと笑いながらそういう。

「嫉妬深い彼氏を持つのも、大変だね」

そう、ニヤリと笑いながらウィンクをしてこっちを振り返るディゴリーに肩をすくませる。ディゴリーは魔法省の家の人間だし知ってるはずだ。私とタイリーが恋人ではないことなんて。

「ねぇディゴリー、聞いてると思うけど、私とタイリーは別に「知ってるよ。僕はタイリーのことしかわからないけど、それでも遠目から見てても君たち二人の気持ちなんて、わかるよ」

何度も何度も、アンジーやアリシアに言われた言葉だ。フレッドたちだって、きっとタイリーに言ってるかもしれない言葉。私はそれに何も返さずに、黙って彼の隣を歩いた。

「ディゴリーも、タイリーのお見舞い?」
「セドリックでいいよ。あぁ、競技場から見てたら結構な勢いで打ち付けてたみたいだったし」
「じゃあ私もヒヨリって呼んで。ハリーもいるよ」
「ハリー?ブラッジャーに腕ぶつけられてたね。骨折かい?」

遠くから見てたら確かにあの場面は何が起こったかわからないか。読唇術でもなければロックハートが何と唱えたのかなんて知ることもできないだろうし。

「知らない?あの時、ロックハート先生はハリーに骨をなくす呪文を唱えたの」

体内を治す呪文があるなら癒師なんていないだろう。私が呆れながらそういえば、セドリックは呆れた、とでもいうかのように首を横に振る。

ハッフルパフの王子様、なんて言われているから勝手に彼の印象を品行方正な優しい人、何て思っていたけれど、意外だった。タイリーと仲良くなるはずだ。どことなく、双子たちと同じように世話を焼きたくなるような悪戯っ子の感じだ。

足を止める。医務室について、セドリックがそっと扉を押して手のひらを上にして中へどうぞ、と促した。
こういうところは、確かに王子様のようだ。

「ありがとう。タイリー!!」

中に入れば、ベッドから上半身を起こして本を読んでいたタイリーがこちらに気づく。

「お嬢様...と、セド」

優しい笑顔を私に見せた後、タイリーはセドリックに気づくと眉をひそめて睨んだ。その姿を見て、ニヤリと笑いながらセドリックは「ね?」と一言、私にそう言う。

「もう大丈夫なのかい、タイリー」
「あぁ、もともと打ち付けただけだ」
「タイリー、ご飯持ってきたよ。談話室でフレッドたちが待ってるって」
「ありがとうございます、お嬢様」

足をベッドから出し、立ち上がるタイリーの背中に手を添える。その本は?と聞けば、暇だったためマダムから癒学の本を借りていたらしい。それを閉じてマダムに返しに行くと言って奥に消えるタイリーを待っている間、私とセドリックは隣のベッドに寝てるであろうハリーに近づいた。

「ハリー?」
「ハリー、大丈夫かい?」

小さい声で呼びかける。反応がないので、私とセドリックは顔を見合わせてカーテンを音を立てずに引いてみた。
ハリーはぐっすり眠っていた。天使のようなその寝顔に、私もセドリックも笑顔をこぼす。

「さっきまで一緒に話していたのですが、疲れて眠ってしまったみたいです」

いつの間にか戻ってきて後ろに立っていたタイリーがそう言う。試合をした後だし、眠気もそりゃあ襲ってくるだろう。私はローブの中から、比較的片手でも食べられそうなサンドウィッチやマフィンを紙ナプキンの上に置いた。

ゆっくりとハリーを起こさないようにカーテンを引いて、私たちはマダムに頭を下げて医務室を出る。

グリフィンドールの寮に向かって廊下を歩きながら、私たちは談笑をした。

「どうしてセドとお嬢様が?」
「タイリーのお見舞いをしようと向かってたら、ちょうどヒヨリがいたのさ」
「すごいね、ハッフルパフの王子様とグリフィンドールの王様が友達って」
「お嬢様...!!」

タイリーは王様と呼ばれるのをあまり好んでいない。それを知っていてなお、私や他の人たちは王様と呼ぶんだけれど。
慌てたように私を見るタイリーを、笑いながら茶化すセドリック。案外、この二人もいいコンビなのかもしれなかった。



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