15
マグル生まれしか狙われないはずじゃないのか、とは誰の言葉か。きっとこんな思いやりに欠ける言葉をいうのはスリザリンの生徒だろう。どこからともなく聞こえたその言葉に、俺は拳を握ってどんっと机を叩く。
静かになる大広間。俺は立ち上がり、出口に向かった。途中で、ハッフルパフのテーブルに座っていたセドが立ち上がり、俺の肩を叩いて名前を呼んだけれど。今はどうしても話す気にはなれなかった。
「...すまない」
「...いや...」
小さく謝って、俺は足早に広間を出る。寮に戻って部屋に入る。どうしてあの時、俺は一緒にいなかったのか。この命を捨ててでも、彼女を守ると誓ったのは誰だ。
ベッドに座り髪を掴み。誰に向けるでもない苛立ちだけが、俺を蝕んでいた。
「タイリー」
不意に開かれる部屋の扉を見れば、そこにはフレッドとジョージ、リー。さらにアンジーとアリシアがいた。フレッドたちは同室だから良しとして、なぜアンジーたちが?
「タイリー、聞かせてくれ。マグルだけしか狙われないんじゃないのか?ならどうしてオジョーは狙われた?」
「ヒヨリは...純血よね?」
双子のうちのどちらかがそういえば、アンジーとアリシアも涙を浮かべながら震える声でそう言った。
部屋に入り、扉を閉じたフレッドたちが、俺の座るベッドを囲むように近づいた。
「....君たちにはいつか、言わないといけないと思っていた」
俺は誰の顔を見上げずに、膝の上で手を組んで、静かに言う。
初めてできた友達だ。俺にとっても、ヒヨリ様にとっても、悩んでいることを何でも話せる様なそんな友人にずっと憧れていたし、そんな友人を手に入れることができたと思ってる。
「陸奥村家現当主は、ヒヨリ様の祖母にあたる方なんだ」
そういえば、5人は不思議そうに首をかしげた。
「ヒヨリ様のお母様は、死喰い人によって殺された」
その言葉に、アンジーの驚く様に息を飲む音が聞こえた。アンジーだけじゃない、アリシアも、皆、驚いているだろう。
「お父様も共に殺されたそうだ」
「...ヒヨリは?」
アリシアのその疑問に、顔をちらりを上げて、5人の顔を見渡して、口を開く。
「ヒヨリ様には保護呪文がかけられて居たのと、現当主のコトヨ様が早めに気づいて、ヒヨリ様をお助けになられたんだ。そもそも、陸奥村家と言うのは日本でも数少ない純血主義を掲げている純血名家の1つだ。その陸奥村家に生まれて、陸奥村家当主になるはずだったヒヨリ様のお母様…フタバ様は、陸奥村家の純血主義に嫌気がさして、マグルの魔法使いと駆け落ちをした。
だから、ヒヨリ様は正真正銘の純血ではなくて、混血なんだ」
本来なら他言してはいけない陸奥村家の秘密だ。それでも言おうと決めたのは、それだけこの五人が俺やヒヨリ様にとって、かけがえのないものになっているから。
「...知らなかった」
「いうことでもないと思っていたからな」
血がどうであれ陸奥村家に生まれた者として、後を継ぐ者として、しっかりと看板を背負う覚悟を持って生きている。それだけで、彼女が純血の家の人間だとたらしめている理由になる。
「話変わるけどよ、ならタイリーたちも駆け落ちしたらいいじゃん」
とは、リーの言葉。親も駆け落ちしてるならその子供だって駆け落ちしていいだろう、なんて、子供の考えで、そしてとても浅はかだった。
俺はその言葉に首を横に振って、答える。
「それはできないんだよ、リー」
どうして?それを言ったのは誰だったか。
「…乱れた血を正すのは、乱した者の子供の始末」
その言葉は、俺が言ってはいけないほどにひどく重い言葉だった。
「そんなのって...」
アリシアが肩を震わせて呟く。それをちらりと見て、俺は息を一つはいた。
「…ヒヨリ様自身が純血の者と子供を作り、少しでもその血を濃くしていく事が義務付けられているんだ。混血として生まれてしまった、純血名家の次期当主として」
いつもニコニコと、誰よりも優しく賢いヒヨリ様。そんな彼女の幸せだけを祈って生きてきた。
ひどい純血主義を掲げる陸奥村家に生まれてしまったがために、ヒヨリ様の人生は一つしかない。それでも、彼女が少しでも多く、長く、笑っていられるように。俺だけはそれだけを考えて生きてきた。
それなのに。
「だからこそ...俺がヒヨリ様を守らないといけなかったのに...」
言っても届かない後悔なんて、総じて意味はない。
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