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お嬢様、と呼びかける。答えのないお嬢様の目をじっと見つめた。マンドレイクが成熟すれば、薬ができる。薬ができれば、ヒヨリ様は戻ってくる。
そうだと言っても、落ち着けるわけがなかった。寮にいる様にと言われても、どうして黙ってそこにいれるというのか。
俺の人生は、ヒヨリ様ありきだというのに。
固まったままのヒヨリ様の手に触れる。
不自然に上がった右手には、杖が握られていたのだ。きっと、ハーマイオニーを庇おうとしたのだろう。どこまでも優しいヒヨリ様に、俺は後悔の念に襲われてばかりいた。
そんな彼女を守るのが、俺の役目だったのに。
動かないヒヨリ様をじっと見つめてどれくらいの時が経ったのか。カーテンを引いた隣のベッドで、ハリーとロンの声が聞こえた。俺はバレない様にそっと、カーテンの隙間から二人を見た。
「...ロン、これだ...!!」
ハーマイオニーの手から何かを取り出したハリーが叫ぶ。
「秘密の部屋への入り口だ!!ハーマイオニーは見つけたんだ!!」
「でも、どこに...!?」
「50年前にマグル生まれの生徒が一人死んだ。死んだ生徒がもしも今も生きていたら...!?」
「嘆きのマートル...!!」
二人は俺の存在にまるっきり気づいていない。興奮した様にそう叫んだ二人に追い打ちをかける様に、マクゴナガル先生の声で校内放送が回った。
『生徒は全員、すぐにそれぞれの寮に戻りなさい。教師は至急2階の廊下へお集まりください』
その声に、ハリーとロンは弾かれた様に医務室を出る。あの二人のことだ、いいつけには守らないで2階の廊下に行くのだろう。二人が去って行った医務室の扉を見て、もう一度ヒヨリ様を見る。
規則?そんなもの、ヒヨリ様を守るためなら、糞食らえだ。
「恐れていた事態です。生徒が一人、怪物に連れ去られました。秘密の部屋そのものです。生徒を家に帰しましょう。ホグワーツはこれで終わりです」
廊下の突き当たりで先生たちの話を盗み聞きしているハリーたちを、遠くから見る。日本古来の魔法でもある式神を飛ばして、ハリーの背中にくっつけて俺は彼らにバレないように盗み聞きをしていた。
連れ去られたのは、ジニー・ウィーズリー。フレッドたちの、妹だ。
マクゴナガル先生のその重々しい声を打ち破るように、バタバタと場違いな足音が聞こえる。姿は見えないが、声だけ聞けばわかる。
「大変失礼しました、うとうとしていました」
思わず溢れる舌打ちに、慌てて口を閉ざす。誰もいないから慌てる必要はないけれど。
「女子生徒が一人さらわれました、あなたの出番ですぞ、ギルデロイ」
そのスネイプ先生の言葉に、まさしくその通りだと俺は心の中で頷いた。
「ロックハートは役立たずだけど、僕らの知ってることを教えてあげよう...!!」
ハリーがそう言いながら、先生のいなくなった廊下を走る。ジニーが連れ出されてショックであろうに、ロンは兄としての責務を果たすべく勇敢にも走っていた。
俺も足音を立てずに、二人の後を追う。ロックハートの部屋につながる教室に入り、二人が階段を上がったのを見計らって俺も中に入る。
閉ざされた扉に近づく。持っている式神から聞こえる声に思わず「は?」と冷めた声が出た。
「どこかへ行くんですか?」
「あー..そうそう、緊急で呼ばされて仕方なく...」
「僕の妹は!?」
生徒を見捨ててどこかへ出かけようとするロックハート。
「逃げ出すんですか?本に書いてあるような立派なことを成し遂げた先生が!?」
「本は誤解を招く!!ちょっと考えればわかることだ!!あれは私がやったと思うから売れるのであって...!!」
「騙してたんですか!?」
ハリーとロンの叫び声が部屋に響く。
「自分じゃ何にもできないってこと!?」
「できるとも。こう見えても、忘却術は得意中の得意でね。他の魔法使いにペラペラ話されては本が売れなくなる」
ロックハートは、そう言うと、静かに歩き出した。きっと二人に忘却術をかけるのだろう。俺はローブにある杖に腕を伸ばして、握りながらドアを開ける。
「アクシオ!!」
杖を取ろうと背中を向けていたロックハートの隙をついて、杖を呼び出す。吸い寄せられるように手の中に入ってきたロックハートの杖を握って、ロックハートを睨む。
「タイリー!?」
「どうして君がここに...!?」
「話は後だハリー、ロン。逃げ出そうとするなよ、ロックハート。あんたの前にいるのは、学年トップの人間だ」
忘却術しか得意じゃない人間に、負けるような要素はあるか?いや、ない。
俺は自分の杖をロックハートに突きつけながら見下す。
前にいるハリーとロンが、安心したような顔で俺を見上げているのが見えた。
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