17
ロックハートの背中に杖を突きつけて前を歩くタイリーを見つめる。あの時、タイリーが現れた時ハリーはどう思ったんだろう。僕は、正直に言うならすごく安心した。
『あんたの前にいるのは学年トップの人間だ』
そんな言葉、言おうと思っても言える言葉じゃない。学年トップの人しか言えない言葉だしね。あの瞬間、タイリーが誰よりも格好良く見えたよ。
女子トイレについて、先にその中に入れたタイリーが周囲に気配を巡らせながらゆっくりと中に入っていく。僕たちもタイリーの後について、中に入った。
「はぁい、ハリー」
嘆きのマートルがふわふわと浮きながら、ハリーの名前を呼ぶ。マートルに初めて会ったのか、タイリーは物珍しそうに彼女(?)を見上げていて。少しその顔が珍しくて、僕はタイリーをじっと見つめてた。
「君が死んだ時の様子を聞きたいんだ」
ハリーがそういえば、マートルは何が嬉しいのか笑顔を浮かべながらその時の話をした。
「すごーく怖かったわ。まさにここだったの、この小部屋の中。私、オリーブ・ホーンビーにメガネのことでからかわれて、隠れて泣いてたの。そしたら誰かが入ってくる音がして...」
マートルはゆっくりとこっちに近づきながら話を続ける。
「その人わけのわからない変な言葉をしゃべってた。男子だったわ、だから鍵を開けて叫ぼうとした。出てってよ!!って。そしたら、死んでたの」
「いきなり?」
「覚えてるのは大きな黄色い目玉がふたつ。その手洗い場の辺りよ」
マートルはそう言うと、また上へと上がっていく。
タイリーがロックハートに杖を突きつけながら、ハリーに目配せをして、それに気づいたハリーが頷いて手洗い場の近くに寄ってしゃがみこむ。
「...ここだ、タイリー、ロン、ここだよ!!」
ハリーは見つけたのか、秘密の部屋の入り口だと叫んで立ち上がった。
「ハリー、何か言ってみてよ蛇語で」
そういえば、僕にはわからない蛇語でハリーが何かを言った。そして、手洗い場の天井がゆるゆると上に上がっていき手洗い場が一つ下がると、秘密の部屋の入り口が現れたのだ。
大きな穴だった。多分これも配管の一つなのだろう。
「素晴らしい。さて、私の出番はこれで終わりだね」
ロックハートが逃げ出そうとして、慌てて僕とハリーがロックハートを押し返して入り口の近くに連れ戻す。
「先に降りるんだ」
「君たちねぇ、それが一体何の役にたつと?」
「下見以外の何物でもないだろう」
冷めた言葉でそういうタイリーに、ロックハートは青ざめた顔で何度か首を縦にふる。それでも尚、降りようとしないロックハートにイライラしたのか、タイリーが、ウィンガーディアム・レヴィオーサと、唱えてロックハートを浮かせるとその穴の中へと落とした。
あんなに大きいもの(人)も浮かせるなんて!!ますます僕は、キラキラとした瞳でタイリーを見つめていただろう。
ロックハートの後に続くように僕たちもその穴を降りていった。ヌメヌメとしたパイプに、ヘドが出るほど臭いその中。思わず顔をしかめながらロックハートに杖を突き立てて歩いていけば、ロックハートが俺の杖を奪い取り忘却術をかけようとしたのだ。
だけどこの時ばかりは、自分の杖が折れていてよかったと思ったね。その術が逆噴射して、ロックハートに忘却術がかかったんだ。
「日本は目上の人への態度を大事にするが、俺はこいつのことを目上の人だとは思いたくもないね」
タイリーの言葉に、僕もハリーも首を縦に振った。
だけど問題なのはそんな発言じゃなくて、逆噴射してロックハートが壁に叩きつけられた反動で、瓦礫が崩れ落ちたことにあった。
崩れ落ちた瓦礫で分断された僕、タイリーとハリー。ハリーは瓦礫の向こう側で僕とタイリーの名前を何度も呼んでいた。
「ハリー、君は無事か!?」
「タイリー!!無事だよ!!ロンは!?」
「無事さ、ハリー!!」
瓦礫をなんとかできないだろうか。タイリーにそう聞けば、今ここで魔法を使えばまたさらに落ちてくるだろうといった。どうしようもないそうだ。
「ロン、タイリー、そこで瓦礫を取り崩しておいて!!帰りに僕とジニーが通れるように!!」
「わかったよ!!」
ハリーの言葉に頷いて、僕とタイリーは瓦礫に近づく。すると、タイリーがハリーの名前を呼んだ。
「ハリー少し近づいてくれるかい」
「うん」
かつんかつんと石が転がる音がして、ハリーがゆっくりと瓦礫に近づいた、タイリーは杖を取り出し、隙間から見えるハリーに向かって僕の知らない言葉を話す。
「...これは...?なんだか、暖かいよ、タイリー」
手を広げたり閉じたりして、不思議そうに自分の手を見つめているハリー。僕にはさっぱりわからないけれど、タイリーはハリーに、何か魔法をかけたのだろう。
「日本に伝わる守護魔法だ。ハリー、無事に帰ってこい」
「...うん、ありがとう、タイリー!!」
ハリーが消えていく。
タイリーがふぅ、と息をついてこっちを振り向いた。未だにヘラヘラと笑っているロックハートを睨むように見て、そして僕を優しい顔で見つめる。
「ロン、大丈夫か?」
「あ、うん...タイリーこそ」
「俺は大丈夫だ。瓦礫崩すぞ」
「うん」
初めてかもしれない。タイリーと二人で(ロックハートはいたけれど)こうやって話すのは。
なんだか少し緊張しながら、僕は瓦礫の壁に手を伸ばした。
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