18
ハリーの背中につけたままにしていた式神から、ぶつぶつとノイズ混じりの音が聞こえる。周波数が合わなくなってるようだ。きっと魔法に囲まれたところに行ってしまったのだろう。
もう使い物にならない紙を手の中で握りつぶす。
「それは?」
「日本古来の魔法だ。君たちを尾行していた時にハリーにつけて盗み聞きしていた」
不思議そうな顔をしてこっちを見るロンにそう答えれば「へぇ〜」といいながら、ぐちゃぐちゃになったその紙をじっと見つめていた。
「タイリーは、ヒヨリといつもどんな話をしてるの?」
ロンが瓦礫を崩しながらそう聞いた。
どんな話と聞かれても困るな、と答えれば、ロンは笑いながら続ける。
「いつも兄貴たちがさ、オジョーとタイリーは難しい話をしてるっていうんだ」
「難しい話?それはあいつらが勉強嫌いのせいだな」
そう言えば、ロンは「ハハッ」と笑いながら手を叩いた。そんな兄の弟であるロンも、勉強は嫌いなはずだけど、とは言わずに俺は肩をすくめるだけにとどめておいた。
「特にこれといった話もしてないさ。お互いに分からない所を教えあったり、世間話をしてるだけだ」
「へぇ〜...家にいるときも、世間話するのかい?」
「それは...どうだろう。家の人間がいない時ぐらいかな」
ロンはどんどん質問を繰り返す。何をそんなに気になることでもあるのか。俺は笑いながら、一つ一つ答えられる限り答えていった。
「じゃあ、タイリーってヒヨリが好きなの?」
ロンのその質問に、俺は一瞬手を止める。
初めて、ど直球にそう聞かれた。フレッド達は、俺とヒヨリ様の身分の差や違いをわかっているから、そんなにはっきりと聞いてくるなんてことはなかったし。
俺はどう答えるべきか考えながら、もう一度手を動かした。
「いつも言ってるんだよ。ハーマイオニーもね、ヒヨリとタイリーの二人を見てるとって...」
ロンはそこまで言うと、言葉を止めた。石になったハーマイオニーを思い出しているのだろう。なんだかんだハーマイオニーに説教されながらも、彼女の身を案じて心配をしていたロン。あの二人の弟らしい。少しツンデレなところも、ロンの可愛いところだ。
「俺は、その質問にはっきりと答えることはできないよ、ロン」
言葉を止めてしまったロンの代わりに、俺が話を続ける。
静かになってしまったその場では、ロンはきっとさらに恐怖に怯えそうだったからだ。
「はっきりと...?」
「俺はヒヨリ様の使用人だから。言えることはただ一つだ」
あらかた、人が通れるぐらいには取り除くことができただろう。瓦礫を最後にポンッと地面に放り投げ、埃のついた手をパンパンと叩いてロンを見る。
ロンは首をかしげてこっちを見ていた。
「心の底から、お慕い申し上げている。彼女の命は、俺の命を賭して守ろうと、誓っているよ」
どんな時でもどんな場面でも、この言葉だけは本心だ。
「つまりそれって...」
何かを言おうとするロンに笑顔を見せて、無言で黙れと圧をかける。咄嗟に口をつぐむロンを見て、俺は静かにこう言った。
「君には、少し難しかったかもな、ロン」
「ロン!!タイリー!!ジニーは無事だよ!!」
1時間はたっただろうか。ハリーの声が聞こえて慌ててそっちを向けば、ハリーの姿と、ジニーの姿が見えた。
二人ともボロボロの格好だ。そんな俺も、きっとボロボロの格好だ。
ハリーの手元にいる不死鳥が声高らかに鳴き、俺たちを上へと引き上げる。本当はどうでもいい存在なのだけれど、とりあえずロックハートの存在を忘れてはいけない。
「なんです?なんです!?」
「いいから黙れ...」
もはや怒鳴るのも面倒だ。俺はダンブルドア先生の不死鳥をロックハートにつかませて、俺はロックハートの右足を、ロンがその左足につかます。ハリーはロンにつかまっていて、ジニーをきつく抱きしめていた。
「わかってはいると思うが、ここ数時間で君たちは、10以上の校則を破ったのじゃ」
まず地上について、ダンブルドア先生の部屋へ向かった。先生の前に立ち、しょぼくれているロンとハリーを俺はかばうように、先生に向かって口を開いた。
「お言葉ですが、先生」
「フォッフォッ、話は最後まで聞くべきじゃのぅ、Mr.シェバンよ」
ダンブルドア先生は、立派に蓄えられたその髭を揺らしながら、俺を見つめる。少し首をかしげて、続きの言葉を待っていれば、ダンブルドア先生はメガネをキラリと光らせて、口を開いた。
「以上を踏まえて、君たち3人に、ホグワーツ特別功労賞を授与する」
無事に生きて帰ってこれただけでも奇跡だというのに。先生はなおも俺たちに褒美を与えるらしい。
笑顔で喜びをあらわにするハリーとロン。俺はその二人を見て、ふぅ、と。何か肩の荷が落ちたように軽い気持ちになった。
後輩を守る。自分の命を犠牲にしてでも、ヒヨリ様は大事な後輩、ハーマイオニーを守ったのだ。そんな彼女に仕える俺が、後輩を守らないわけがない。
そんな俺を見透かしていたのか、ダンブルドア先生は少し笑みを見せながら、俺とロンの名前を呼び、アズカバンへ釈放通知をふくろう便で届けてくれと言った。それに頷いて、ロンを引っ張り、部屋を出ようとすれば、ハリーが「タイリー」と俺の名前を呼ぶ。
「なんだい、ハリー」
「ダンブルドア先生。僕がバジリスクと遭遇しても、トム・リドルと遭遇しても生きているのは、タイリーがかけてくれた守護魔法のおかげなんです。あと、ヒヨリが、去年から僕にくれていた、このお守りのおかげです」
ハリーは俺を真っ直ぐ見つめて、ちらりとブレスレットを見せながらそう言った。
「...日本古来の守護魔法...なるほど...」
ダンブルドア先生がそう呟き、俺を見る。その言葉に少しだけ肩をすくめて、俺はハリーをじっと見る。
「...俺の守護魔法なんかより、ハリー自身の力のおかげさ」
そういえば、ハリーは一つ笑みをこぼして、首を横に振る。
「タイリーのおかげだよ、ありがとう、タイリー」
「僕からも言わせてくれるかい、タイリー」
隣に立っていたロンも、俺の顔を見上げて、言葉を発する。彼の顔を見下ろせば、ロンはキラキラ輝くような瞳で「ありがとう」と、一言言った。
お礼をそんな風に言われることに慣れていない俺は、二人から視線をそらして、ロンの肩を押して、校長室を出る。
ありがとうと言われるほど、俺は何もしていないし、100%彼らを守れたかと言われると、そうではないから。
だけど、それでも。ヒヨリ様が守りたいものを守れたことが、俺の心を何よりも包み込んでくれていた。
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