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夏休みも終わって、ホグワーツ特急に乗り出す。例年なら、俺とお嬢様は空いているコンパートメントに入ればすぐに座るのだが、今年は違った。迷うことなく真っ直ぐと、先頭車両にあるコンパートメントめがけて歩き出す。
今年5年生となった俺とお嬢様は、監督生に選ばれたのだ。
コンパートメントにいたパーシーに挨拶をして、荷物を席に置く。まず最初に教えられた監督生としての仕事は、見回りだった。
ゆっくりと廊下を歩き、一つ一つのコンパートメントを確認する。途中で遭遇したセドの胸元にも、Pと光るバッジがあって、お互いに視線を合わせて笑顔を見せた。
「あら...やっぱりね」
途中で見つけたコンパートメントの中にいたアンジーとアリシアが、ニヤリと笑いながら俺とお嬢様の名前を呼んだ。その声に振り返ったお嬢様の胸元を見て、アンジーたちはおめでとうと口にしたのだ。
「ありがとう、ケイティも」
二人に隠れて見えなかったが、1学年下のケイティも同じコンパートメントの中にいたらしい。手を挙げて挨拶をすれば、彼女も同じように挨拶を返してくれた。
「フレッド達にはもうあったの?」
「ううん、まだだよ」
「きっと盛大に喜ぶわね」
「最大の皮肉だな」
「お褒めの言葉、どうもありがとう」
二人の言葉に笑いながら、俺とお嬢様は廊下に出る。また後でと言ってきた二人にコクリと首を縦に振って、廊下を歩き出せばフレッド達のいるコンパートメントがあった。ガラス越しに、俺とお嬢様に気づいたフレッド(もしくはジョージ)が、あからさまに目を大きく見開く。
「おいおい...嘘だろ?相棒」
「嘘だと言ってくれよ相棒...!!」
「残念だが現実だな」
リーは笑顔でおめでとうと握手をするのに対して、フレッドとジョージに至っては吐き気がするとなんとも失礼な物言いで、舌を出していた。
「やっぱりヒヨリとタイリーだと思ってたよ、俺は」
「俺たちだって!!」
「思ってたけどな!?」
「どうか違いますようにって!!」
「「祈ってたんだ!!」」
と、大げさに両手を握りしめながら言う二人に、お嬢様は呆れたように笑いながら「はいはい」と適当に返事を返していた。
「こうなることならやっぱり、あの時パーシーを墓に閉じ込めればよかった。なぁジョージ」
「あぁ。そしたら俺たちの敵は一人減るわけだしな」
その二人の言葉にリーはゲラゲラと笑うが、俺とお嬢様はエジプトで閉じ込められそうになったのだろうパーシーに心の中で同情をした。
見回りも終わり、監督生用の席に戻ろうと廊下を歩いていた時、急に列車が止まった。前につんのめりそうになるのを寸での所で止めて、お嬢様の腰に腕を回す。
「ありがとう、タイリー」
「いいえ...ですが、急に何が...」
列車の中の電気は消えていて、急に真冬のように寒くなる列車。とりあえず前に歩こうといったお嬢様に従い、俺は彼女を守るべく、彼女の腰に腕を伸ばしてゆっくりと歩き出す。
その時、何かの動きを感じた。
ハッと後ろを振り返る。そこにいたのは、ボロボロの服のようなものを着た、顔のないもの。生き物なのかもわからない。
それが、俺とお嬢様の前に立ちふさがったのだ。
不意に真冬日のように寒いものがこみ上げた。背筋が凍る。鳥肌が、プツプツとこみ上げた。そして、記憶のようなものが自分の頭の中に流れ込んだのだ。
小さい頃、お父さんとお母さんが、目の前で死んだ。
黒いローブを被っていた人物が、前にいた。それは酷い雨の降る夜だったことを覚えている。
かつて、闇の帝王の手下たちが守護魔法を絶やすために、日本を侵攻したことがあった。
平和な国と象徴されていた日本に、大規模な侵攻が起きた。それは、あってはならない事だったらしい。
決して多人数の犠牲があったわけではなかった。団結力のある純血名家たちによって、犠牲の数は少なく止められた。
だけど、その数少ない犠牲者の中に、俺の両親の名前は刻まれていた。もう、なかなか思い出す事は出来ないけれど、最後に聞こえたのは彼らの悲痛な叫び声ではなかったことだけは覚えている。
優しい声で、「タイリアナ」と。
それはまるで、俺を全て包み込むような声だった。
「...タイリー...!!タイリー!!」
お嬢様の声が聞こえた。ハッとして、目を開く。俺はいつの間にか、お嬢様にかかえられる形で、壁にもたれるように倒れていたらしい。
「も、申し訳ありません...!!」
「大丈夫。私も気づいたら倒れてたみたい」
慌ててお嬢様から離れて、なんとか足に力を入れて立ち上がろうとする。そんな俺を慌てて制するように俺の胸元のシャツを掴み、しゃがみこませたお嬢様の隣には、同じようにしゃがみこんでいた見知らぬ男性がいた。
「大丈夫かい?これを食べるといい、きっと落ち着く」
そう言って差し出してきたものはチョコレート。お嬢様の手にもそれが握られていて、ニコニコと笑いながら「おいしいです」と言っていた。
「ありがとうございます...あの...」
「新しくホグワーツに就任した教師だ、よろしくね」
差し出された傷だらけの手のひらに、自分の手を重ねる。新しい教師のようだ。受け取ったチョコレートを口に含む。思った以上に甘ったるいそのチョコレートに眉をひそめれば、お嬢様がクスクスと笑い声をこぼした。
「僕は車掌のところに行ってくるよ。君たちは監督生だね?大丈夫そうかな?」
「はい。ありがとうございました」
「すみません、お手を煩わせてしまって」
「いやいや、生徒の心配をするのが教師の仕事さ。すこし休んでから歩くんだよ」
彼はそう言うと、一つウインクをお嬢様に飛ばして立ち上がり、前に歩いていく。その後ろ姿が消えるまで静かに見送り、俺とお嬢様もゆっくりと立ち上がって、監督生のコンパートメントに向かった。
あれは一体何だったのか。それを知ることになるのは、その日の宴の席の時だった。
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