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例年通り組み分けも終わり、新しい先生が紹介された。列車の中で助けてもらったあの方は、闇の魔術に対する防衛術の先生だったそうだ。そして、一番の朗報が聞かされた。それは魔法生物飼育学の新しい先生に、ハグリッドが務めることになったことにあった。緊張しながらダンブルドア先生に名前を呼ばれて立ち上がった彼に、グリフィンドールから一番の歓声が飛び上がっていた。

そして、ホグワーツ特急に乗って倒れたあの時から不思議に思っていたことが解決した。魔法省の申し入れによって、アズカバンから脱獄したシリウス・ブラックの見張りのためにホグワーツに吸魂鬼を配置することになったようだ。

だとしても。列車の中に入れなくても、と私は思うわけだけど、どうでしょう?





「おはようヒヨリ...何してるの?」

朝食のとき、大広間のテーブルで殻から剥いたツルツルのゆで卵をお皿にたくさん並べながら、隣にタイリーを配置して私はたくさんある手紙を一つ一つ確認していた。

「おはよう、ハリー、ロン。ハーマイオニーは?」
「ハーマイオニーはマクゴナガル先生の所さ」

肩を竦めながらちらりと前に視線を向けるロンに笑みを浮かべて、私はもう一度手元に視線を戻した。

「これは東北を統べる純血の家系のご子息です」
「あー...はいはい、あの狸じじいの」
「お嬢様」

言葉の悪い私をたしなめるタイリーに「はいはい」と返事をして封筒を切る。中の手紙は読まずに『後で返事を書く用』とまとめてる方に置いて、次の手紙に手を伸ばした。

「これは...魔法省日本支部の血統管理官のご子息です」
「エバネスコ」

杖をくるりと一振り。手にあった手紙は文字どおり消えて、そしてまた次の手紙に手を出した。

「それは読まなくていいわけ?」
「興味ないもん」

かろうじて"生き残っている"手紙を持って、封筒の中に入っている手紙をニヤニヤと笑いながら読むアンジーとアリシアに向かずに、そう返事をする。

「ハリー、この手紙の数々はな?」
「オジョーへのアツーーイラブレターさ」

フレッドとジョージが、それを覗き込みながらハリーの質問に答える。頭にハテナマークをきっと浮かべているだろう二人に、苦笑を浮かべたタイリーが手紙を揃えながら詳細を言った。

「お嬢様への求婚だ。婚約者候補に名乗りを上げてるのさ」
「求婚!?」

ロンの驚く声が聞こえた。隣に座ったのだろう、椅子がガタリと揺れる。

「見てよこれ。"私は貴方の綺麗なその黒髪に舞い落ちる、雪となりたい"ですって!!」
「熾烈な愛だな」
「ここまでくると薄ら寒いわね」
「最早ポエムじゃないか」
「求婚ってこういうことを言うの...!?」
「多分違うと思うよロン」

皆の想い想いの感想を聞きながら苦笑いをこぼす。中身なんて、どうやって私に気にいられるかしか考えていない自己満足極まりない俳句のようなものだ。読む必要なんてない。
アンジーとアリシアがクスクス笑いながらそれを読んで、フレッドとジョージとリーがそれを演技するかのように大げさに読む。そんなことをかれこれ30分はしているだろうか。

「おはよう、ヒヨリ。それは一体何?」

マクゴナガル先生への用事は終わったのか、ハーマイオニーが教科書を両手に抱えながら私の隣に座った。ロンとハリーがいそいそと隣にずれて、ハーマイオニーに席を作ってあげているのが可愛らしかった。

「おはようハーマイオニー。これ?これはラブレター」

そう笑って言えば、ハーマイオニーは怪訝そうな顔をしながら、それをじっと見て、すぐにまた私の方を向いた。
私は手紙をまたアンジーたちに渡して、次の手紙を確認する。

「ねぇヒヨリ。作業しながらでいいんだけれど」
「ん?どうかした?」
「今年から私、選択科目が始まるんだけど、できるなら全部取りたいの」
「あぁ、ハーマイオニーたちももう3年生か...」
「エバネスコ」

隣に座るハーマイオニーの話を聞きながら呪文を唱える。タイリーが感慨深そうに言っていて、ジョージが「おやじみたいだぜ」とニヤニヤ笑いながらそう言った。

「ヒヨリとタイリーは今年のOWLで全科目受けるんでしょう?どうやって選択科目を全て受けたの?」

その話は初耳だったのか、ロンが「はぁ?」となんとも失礼な態度をとって、ハリーにパシッと腕を叩かれているのが視界の端で見えた。

「私とタイリーはお互いに教えあってきてるからね。ハーマイオニーもハリーとかロンに教えてもらったらいいんじゃないかな」
「そんなことができると思う?」
「おいどういうことだよハーマイオニー!!」
「あら、じゃあ自信があるのね、ロン」

ハーマイオニーと話していたため、私が首を横に振ったその手紙をタイリーがエバネスコと唱えた。
ロンとハーマイオニーが言い合いしているのを、ハリーが苦笑しながらそれを止める。

「まぁわからないことあったら全然教えるし、聞いてよハーマイオニー」
「本当...!?でも、ふくろう生にそんなこと...」
「復習にもなるし、逆にお願いしたいな」

そう言って、"生き残った手紙"をトントンと机に音を立てて揃えれば、ハーマイオニーが笑みを浮かべながら「ありがとう」と言った。そんな彼女の頭をそっと撫でて、私は立ち上がる。アンジーとアリシアと私はマグル学。タイリーは古代ルーン文字学。フレッドたちは探検だ。3人に手を振って出口に行こうと歩くのを止めて、ハーマイオニーの名前を呼ぶ。

「なーに?」
「占い学は、適当に取りな」

これは先輩からの、アドバイスだ。



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