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「「タイリー!!今年こそ悪戯させろー!!」」

今日はハロウィンだ。初めてのホグズミード帰りで興奮してる3年生を狙ってフレッドとジョージの悪戯はいつもよりまして派手だった。

大広間でゾンコで買ったのだろう悪戯グッズを広げて遊んでいる奴らに、ここぞとばかりにニヤニヤと笑いながらお菓子をかっさらっていた。

「何度言ったら学習するんだお前たちは」

俺はため息をつきながら、後ろから二人が投げた風船をふいっと横にずれて避けた。前に座っているリーに当たって睨まれたのは申し訳ないと思っている。

「いつもみたいに呪文で避けてくれよ!!」
「悪い。君に当たるとは思わなかったんだ」

糞爆弾ではなくてカラフル爆弾だったらしい。水色の絵の具のようなものを頭からかぶったリーの髪の色は、鮮やかな水色だ。

「1時間も経てば元通りさ、リー」
「いかしてるぜ」
「お前らが言うなよ!!」

フレッドとジョージがニヤニヤ笑いながらリーを挟んで座る。それを声に出して笑うお嬢様の隣には、アンジーとアリシアが座った。

「アンジー」

すると、お嬢様がニヤリと笑いながらアンジーの方に体をくるりと向けて、彼女の名前を口にする。それに気づいたアリシアもニヤリと笑いながら、同じようにアンジーと名前を呼んだ。

そんな二人に挟まれたアンジーは目をパチパチと瞬きながら、居心地の悪そうに、二人をジロリと睨んでいた。










「ハーマイオニー!!やっと教えてあげられる!!」

夜になり、私服のまま大広間でご飯を食べていると、ハーマイオニーとハリーとロンの三人が大広間に入ってきた。三人を(特にハーマイオニーを)見つけたお嬢様が笑顔で立ち上がりハーマイオニーに手招きをした。

「教えてあげられるって?」
「ハロウィンのディナーだよ!!オススメのお菓子教えてあげるねってずっと言ってたでしょ?こっちおいでおいで!!」
「え、僕たちは?」
「ロン達は知ってるでしょ」
「オジョーは男には手厳しいのさ」
「タイリーを除いてね」

フレッドとジョージがロンの肩に腕を回しながらそう言う。それに肩をすくめて確かにといったのは、ハリーだった。

「これと、このヌガーなんかもオススメ」
「私はこのケーキよ。とてもしっとりとしてるわ」

アンジーとアリシアもきゃっきゃっとしながらハーマイオニーにオススメのお菓子とやらを教えていた。お嬢様がせっせとハーマイオニーの前にそれらを盛り付けている。お皿の上には山盛りになったケーキにマフィンにクッキーの数々。それを見て、リーが舌を出しながら「見てるだけで胃もたれしそうだ」と茶化していた。

「こんなに食べれるかしら...」
「大丈夫!!全部美味しいから!!」

呆れながら言うハーマイオニーに、明るい笑顔でそうかえしたお嬢様。そんな二人を笑いながら見るのは、俺たちだけじゃなくハリーたちもだった。





夜ご飯も終わり、グリフィンドール寮に続く階段を上ってると、途中で人が止まり渋滞になっていた。なんだろうと俺とお嬢様は顔を見合わせてどうにか前に進む。こういう時、監督生バッチは便利だと思った。

「通して、僕は主席の監督生だ」

同じ監督生であるパーシーも前でそう言いながら人だかりの中を進み、太った貴婦人のいる場所へと進んでいた。一番そこに近いところにいるフレッドがこちらを振り向いてニヤリと笑いながら「タイリーはいいのかい、head boy」と言っていたのを、軽く睨んで黙らせた。

「太った貴婦人がいなくなっちゃった!!」

とは、二人の妹、ジニーの声。その声に一瞬後ろを振り向いてもう一度前を向けば、太った貴婦人のいた絵画は見るも無残に引き裂かれていた。

「なにこれ...」
「調べがつくまでは皆談話室には入るな」

パーシーの隣に立ち、同じようにその絵に触る。お嬢様は奇妙なものでも見るように、そっと絵と絵を合わせようとしていた。その時、ダンブルドア先生とフィルチさんがやってきて、城中のゴーストに婦人を探させるようにといった。

「その必要はありやせんや、ダンブルドア先生...」

そう言ってフィルチさんが指をさした場所にある絵画には、太った貴婦人が隠れるように小さく縮こまっていた。それを見て、興奮したように走り出すグリフィンドールの面々。さすがは勇猛果敢な、と言いたいところだけれど、お嬢様をドンっと押し出して前に走っていったやつ、出てこい。

太った貴婦人は泣きながら、恐ろしい、恐ろしい...と言っていた。

「どうしたのじゃ、婦人よ...」
「出たのです...!!この、この城のどこかに...!!シリウス・ブラックが...!!」

太った貴婦人のその声は、全員の耳に届いだろう。

「監督生よ。至急、全員を大広間に戻すのじゃ」

ダンブルドア先生のその言葉で、俺とお嬢様は弾かれたように肩を動かし、そして周りでざわざわとしている生徒に声をかけて前へ促す。

「お前たちもだ、フレッド、ジョージ」
「タイリーが監督生の仕事してるぜ」
「じっくり見ておかないとな!!」
「見なくていい」

シリウス・ブラックが侵入したというのになんて呑気なんだこの二人は。俺はため息をつきながら「早く行け」と二人の肩を押す。
こんな扱いにくい弟を、しかも双子を持ってしまったパーシーに軽く同情した。








大広間では先生から一人1個ずつ寝袋をもらった。きらびやかな紫色の派手な寝袋だけど、それを見たフレッド、ジョージ、リーが「当主様だ!!」と騒いでいて、それを見たアンジーが呆れたように首を横に振っていた。

シリウス・ブラックが侵入したことで、一時的に生徒全員で寝袋にくるまって同じところで寝ることになったのだ。俺はお嬢様の隣に寝袋を置き、お嬢様が無事にそこに入るのを見届ける。

「寒くはないですか?お嬢様」
「うん、大丈夫。案外これ暖かいよ」

ニコニコと笑いなが寝袋から手を出すお嬢様を見つめる。アズカバンから脱獄した囚人がいるかもしれないのだ。俺は一睡もせずに彼女を見守るつもりだった。

「Mr.シェバン。...タイリアナよ、今夜は先生たちに任せて、君も眠りなさい」

だけど、千里眼を持っている(だろう)ダンブルドア先生にはお見通しだったのか、彼は髭を少し揺らしながら俺の近くに寄り、頭をそっと撫でて行った。

「...タイリーも寝てね」
「...はい」

心配そうに俺を見つめるお嬢様に、しぶしぶ首を縦に振れば、フレッドとジョージが「オジョーには素直な王様だ」と茶化しながらそう言った。俺は二人をジロリと睨んで寝袋に入る。

お嬢様の言った通り、寝袋は案外暖かかった。



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