15
クリスマス休暇に入り、ホグワーツは静かになった。ほとんど人のいない寮で私とタイリーは暖炉の前を陣取り、二人で教科書を眺めていた。
「問題は変身術の記述かな...」
「変身術はどの授業よりも難しいですからね...実技と記述で確実に点を取るのが正しい選択ですね」
タイリーのアドバイスに私も頷く。
他の授業は実技もそこそこに行けるとは思うけれど、いかんせん変身術の実技は恐ろしい。得意科目には入るけれど、それとこれとは別の話だ。
教科書を机の上に置いて、暖炉に手を伸ばす。暖かくなる手の指を擦り合わせる。イギリスの冬は寒い。もう5年も、ここで過ごしていることになんだか感慨深くなった。
「もう5年もここにいるんだねー...」
「...そうですね」
後ろで教科書をパタンと閉じる音がした。タイリーがそっと私に近づく。
5年も異国の地の学校に通った。慣れしたんだ日本から離れて、タイリーを引き連れてやってきたあの時を思い出す。あの時はまだ。私はどうなりたいのかなんて考えたことはなかった。
ただとにかく。この決められた道を歩くことに嫌気がさして。ただとにかく。一瞬でもいいから、この窮屈な場所から離れたかった。
それだけの一心で入った学校だったのだ。だけど、入ってみたら違った。
こんなにも素敵な、優しい人たちに巡り会えた。
アンジー、アリシア、フレッド、ジョージ、リー、セドリック。ハーマイオニー、ハリー、ロン。
大好きな友達に、守りたい後輩に。私には、抱えたい人たちがたくさんできた。自分の力で守りたい人が、たくさんできた。
タイリーだけだった私の世界は、いろんな人たちの出会いで、広がった。
あと2年、私はこの学校に通うわけだけど。その2年が終われば、私に待っている未来はなんだろう。
ちらりと、机の上にたくさん置かれているパンフレットを見る。職業の選択のある皆は、このパンフレットを見て、自分のなりたい職業について考えるのだ。そして、O.W.Lで必要な単位をパンフレットを読んで確認する。自分に何が足りないのか。この成績で行けるのか、など。
私にも、やりたいものがあった。
ホグワーツに通って、自分の将来を考えるようになった。
それはきっと、大きな選択で。きっと、この将来を叶えるために私はホグワーツに来たのだろうと思った。
後ろにいるタイリーが、そっと私の肩を撫でる。そっちを向けば、タイリーが優しい笑顔を浮かべて、私を見ていた。
「ヒヨリ...!!」
二人で勉強をして、もう夜になっていたのか、ハーマイオニーとハリーとロンの3人がドタドタと足音を鳴らして中に入ってきた。去年もなんだかこういうことがあった気がする。
「どうしたの、ハーマイオ...」
私が途中で言葉を止めたのは、三人があまりにも近い場所にいたからではない。ハーマイオニーが泣いていたからだ。
「...何があったの」
私がそういえば、ハリーとロンが顔を見合わせて、そっとある紙を見せた。
「何?」
タイリーも不思議そうにその紙を覗き込む。その紙は、ハグリッドからの手紙で。
「...バックビークの処分が決まってしまったの...!!」
と、ハーマイオニーが泣きながら言った。
バックビーク。ドラコ・マルフォイを襲ったと言っていた魔法生物、ヒッポグリフの名前だ。ハグリッドが首になるのではないか、と危惧していた三人の予想より遥かに上の最悪の結果だ。
泣きながら、両手で顔を覆いしゃがみこむハーマイオニーの背中に手を伸ばした。
「...ルシウス・マルフォイが、言ったらしいんだ」
ハリーが重々しくそう言う。三人はこの手紙が来て、すぐさまハグリッドのところに話を聞きに行ったそうだ。その時に、聴聞会でルシウス・マルフォイが理事会の人たちを押し殺させて、処分するべきだ、と言ったらしい。
あまりにもひどいその結果に、私は顔をしかめた。
「マルフォイって、理事辞めさせられたんだよね...!?」
「ハリー、貴族の発言に勝てるのは、貴族だけなんだ」
そういったのはタイリーだ。タイリーのその言葉に、去年の私のドラコ・マルフォイへの啖呵を思い出しているのか。ハリーとロンが私の顔をじっと見つめる。
「...私も出来る限り助けてあげるから。あきらめないで頑張ろう。裁判するんでしょう?勝てるような資料集めは欠かせないよ」
そう言って、三人を励ます。
「時間を見つけて資料集めは手伝う。だから、今はまだ泣くべきじゃない、ハーマイオニー」
タイリーがそう言って、ハーマイオニーの頭をそっと撫でる。ハーマイオニーは下を向きながら何度か首を縦に振って顔を上げた。
もう、その顔には涙は流れていなかった。
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