20
「タイリー、君はもう進路相談したかい?」
季節も春になり。ふくろう試験まであと数ヶ月となった時。各寮の5年生、7年生向けに進路相談が行われるようになった。
「今日の昼だ。セドは?」
「僕は昨日やった」
いつものように、授業が行われるまでの時間。隣に座るセドがそう口火を切った。
ふくろう試験が近づくにつれて、談話室で勉強をしている人たちは発狂もしくは失神などで倒れて医務室へと運ばれる。最近にいたってはもう諦めたのか神に祈りだす人まで出てきている。ふくろうでこうなのだから、イモリ試験なんかはもっとひどくなるだろう。(7年生ん方が倒れている人数は圧倒的に多いけれど)
そんな中行われる進路相談。お嬢様はすでに、昨日の夜に終わらせていて、なんだかすっきりとした顔で談話室に戻ってきたことを思い出した。
「...セドは、進路どうするのか決めているのか?」
人の進路が気になるわけではないけれど。それでも、自分とは違う境遇にいる人の進路は、参考になるのではないかと思い聞いた。
俺は純血の家の人間ではないから、お嬢様のように一つの道しかないというわけではない。確かに彼女の死まで、彼女の使用人を務める気ではいるが、職に就きながらやっている人はざらにいる。
「今のところは、魔法省だ」
「あぁ...親が魔法省の人間だったな」
「うん。父さんのような、偉大な魔法使いになりたいなと思って」
セドはそう笑いながら言うと、ちらりと俺を見た。
「タイリーは?考えてる?」
「...まぁ。ある程度はな」
「そう。ヒヨリとの結婚?」
「お前は馬鹿か?」
「はははっ冗談だよ」
そう言っているセドの顔は、決して冗談を言っているような顔ではなくて。至極真面目な顔だった。
「タイリアナ・シェバンです」
「お入りなさい」
授業が終わり、俺はマクゴナガル先生と進路相談をするために先生の部屋へ向かった。扉をノックすれば、中で座っている先生が、手のひらを見せて椅子へ促し、座れと視線を投げかけた。
「Mr.シェバン、貴方は進路についてどうお考えですか?学年トップの貴方の成績なら、どのような職業でも自由に選べるでしょう。しかし、今の段階であれば、の話ですが」
マクゴナガル先生は厳格な顔でそう言って、羊皮紙を机の上に置く。俺は、考えていることを一度順序立てて頭の中で整理して、口を開いた。
「癒師になりたいです」
「癒師...ですか?」
「はい」
去年。マダム・ポンフリーに借りて読んだ癒学の本がきっかけというわけではないけれど、それでもそうなりたいと思った気持ちを助長させたのは、それだった。
「...守りたい人がいるんです」
自分の力なんかじゃ到底全て守ることは出来ないけれど。
家族もいない孤児の自分を、守っていただいた陸奥村家の人を裏切ることは出来ないけれど。
それでも、俺には心の底から守りたい人がいた。
本当の意味で守ることはできなくても。心を癒せるような。そんな風に、彼女を守りたくて。
「一番守りたい人を、守れるだけの力が欲しいんです」
俺の将来はあの時決まったのだ。
いつまでも、この人を守るために。この人を支えるために。
ヒヨリ様の側に入れる様に。
そんな人間になろう、と。
「...O.W.L次第で、それは変わりますが、貴方の成績なら問題はないかと」
「大丈夫だと思っています」
先生の言葉にかぶさるようにそういえば、先生は眉を一つ上げて、俺を見た。
「O.W.Lで全科目Oで収めて見せますから」
それぐらいやらないと、認めて欲しいなんて思ってはいけないことぐらい、俺は承知の上だった。
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