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お嬢様の持つ式神から漏れ出る声に耳をすませること数十分だろうか。聞こえてくる声はハーマイオニー、ハリー、ロンの他に、もう一人の声が聞こえた。
『ハリーを殺すなら私たちも殺しなさい!!』
『いーや、今夜死ぬのはただ一人』
『それはお前だ!!』
一体誰と話しているのか、俺たちにはわからない。だけど、多分彼らのいる場所は今修羅場だということがわかった。
ドタドタと聞こえる殴り合いかわからない騒がしい音。お嬢様の持つ式神がふるふると震えていて、俺は思わず彼女の肩に手を添えた。
「...ハーマイオニーたち...誰といるの...?」
声だけが聞こえるのは、確かに計り知れない恐怖だ。正体不明の誰かと彼らは一緒にいて、そして争うような声と音。今この中に入っていくのが正しいのだろうけれど、そのためにはあの暴れ柳をどうにかする必要がある。
「...大丈夫です。声が聞こえるということは、無事だという証拠です」
日本古来の式神だ。伝統の魔法なのだから、絶対に正しい。式神から彼らの声が聞こえるすなわちそれは、今この瞬間、きちんと彼らは生きているということ。
その時、顔を上げるとルーピン先生の姿が見えた。彼は杖を振って暴れ柳の動きを止めると中へ入っていった。
あぁ、普通に魔法通じるんだ、と思ったのは俺もお嬢様も一緒だったのだろう。ホグワーツの近くにあるから、通じないものだとばかり思っていた先入観に、若干恥ずかしさを感じて、俺とお嬢様は二人同時に立ち上がった。
『エクスペリアームス!!これはこれはシリウス、惨めな姿になったものだ。内なる狂気がついに肉体にも現れたか』
聞こえたのはルーピン先生の声。そして、この1年嫌という程たくさん聞いてきたシリウスという単語。
『奴を見つけた、ここにいる...!!殺そう!!』
『ダメよ!!信じてたのに!!先生はずっとその人とグルだったのね!!先生は狼人間よ!!だから授業を休んでいたの!!』
そして次に聞こえたのはハーマイオニーの声。
その言葉を聞いた時、俺とお嬢様は暴れ柳に近づく足を途中で止めた。
シリウス・ブラック。ルーピン先生は狼人間。
ふくろう試験が終わったとはいえ、頭の中はまだテストの余韻に浸っている。はっきり言って容量オーバーだ。何が何だかわからないままに大量の情報をたくさん投げ込まれて、俺とお嬢様は暴れ柳の中に入るどころではなかった。
「待って待ってハーマイオニー達何してるの...?元々無茶をたくさんする子達だなーとは思ってたけど...!!さすがにこれはあんまりだと思わない!?ねぇ、タイリー!!」
ワナワナと震わせている拳から顔を上げて、俺を見上げるお嬢様の剣幕振りと言ったら。それはそれは、きっと見えないところで青筋を立てているんだろいうという程の怒り方だった。
「後で説教しないと...」
その言葉に俺は思わず苦笑をこぼすが、今回ばかりは仕方ないと思った。さすがに無茶をしすぎだ。何があったかはわからないけれど、何もこの時期に脱獄犯と相対する必要なんてなかっただろうに。
『全部知ってる!!お前は裏切った!!...そのせいで両親が死んだ!!』
その時、ハリーの悲痛な叫び声が聞こえた。
『それは違う、シリウスじゃない!!君の両親を裏切ったのは別の男だ!!そいつは死んだと思われていた、つい最近まで...!!』
『じゃぁ、誰なんだ!!』
『ピーター・ペティグリューさ!!』
どんどん話は進んでいく。今までの話をまとめるのなら、ルーピン先生とシリウス・ブラックは、仲間。ハリーの両親を裏切り結果的にハリーの両親を殺させたのは、シリウス・ブラックではなくて、別の人物。つまり、シリウス・ブラックは何も罪など犯していない...?
その時、先ほどのルーピン先生と同じように呪文を唱えて中に入っていった人物がいた。
スネイプ先生だ。
『エクスペリアームス!!』
低いバリトンボイスが式神から流れる。
どんどん登場人物が出てきてややこしくなってきた事態に、やっぱり今俺達が出るべきではないと改めて思った。
『あぁ...復讐は蜜より甘い。貴様を捕らえたいとどれほど願ったか...』
その言葉を聞く限りでは、スネイプ先生はシリウス・ブラックが犯人だと思っている。
『...エクスペリアームス!!』
次に聞こえた声は、ハリーの声で。そして誰に向けたのかはわからないが、何かが崩れ落ちる音が聞こえた。
『ハリー!!なんてことするんだ!!』
『先生を襲うなんて!!』
『ペティグリューの話をして!!』
ハリーはスネイプ先生に向かって呪文を唱えたらしい。
隣に立つお嬢様は頭を両手で抱えながらうずくまっていて、俺も頭を抱えたい衝動に陥った。
『私たちの学友だ。友人だと思っていた』
『ペティグリューは死んだはずだ...お前が殺した!!』
『死んでいない!!』
『ペティグリューは生きている、今そこにいる!!』
何が何だかもはやわからない。だけど、部外者でも俺たちに出来ることは、今この瞬間三人の無事を祈るだけだった。
『お前じゃない、そのネズミだ!!』
『スキャバーズはうちの家族だ...!!』
『12年も!?ただのネズミにしちゃ長生きすぎないか!?指もかけてるだろう...!!』
『ペティグリューの亡骸は...』
『指一本だ...!!卑怯者は指を切り落とし、死んだと見せかけて身を隠したんだ、ネズミになってな...!!』
『証拠は!!』
スキャバーズを取ろうとしているのだろう。ロンの、スキャバーズ!!と叫ぶ声が聞こえた後、何度か杖の降る音と調律の外れたピアノのなる音が聞こえ、またもや知らない男の声が、出てきた。
『...シリウス...?リーマス...!!懐かしの友よ...!!』
その声を聞いた瞬間、俺とお嬢様は目を見開いた。
スキャバーズは、人間だったらしい。
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