24

『ハリー...!!なんとまぁ、お父さんにそっくりだ!!ジェームズに...!!』
『ハリーの前でよくジェームズの話ができるな!!』
『お前がジェームズとリリーをヴォルデモートに売ったんだろう!?』
『そんなつもりじゃなかったんだよ...!!』

この言葉を聞いて、俺とお嬢様は顔を見合わせた。
今、この瞬間、シリウス・ブラックの無罪が確定されたのではないか、と。

『俺なら、友を裏切るぐらいなら死んだほうがマシだ!!』

シリウス・ブラックのその言葉が式神から聞こえた後、またドタドタと何かが走り回る音が聞こえた。どうやら、ペティグリューが殺さないでくれと情けをかけて回っているらしかった。賢いお嬢さん、などと聞こえるからハリーだけじゃなくハーマイオニーやロンにも声をかけているのだろう。

『甘かったな、ピーター。ヴォルデモートが殺さないなら我々が殺す!!』

シリウス・ブラックの怒りの声が聞こえた後、ハリーの声が聞こえた。

『やめて!!』

悲痛にも似たその叫び声。正義感に溢れる彼らしい一言だと、お嬢様も思っただろう。

『こいつは城へ行ってディメンダーへ引き渡す...殺すことだけはしないで』







きっとこれで全部が終わったのではないか。俺とお嬢様は顔を見合わせて、ゆっくりと暴れ柳の方へ歩いて行った。もう夜になっていて、満月がポツリと空に浮かんでいる。

お嬢様は「詳しいことちゃんと教えてもらわないと...!!」と言いながら怒っていて、俺はそんな彼女を後ろから眺めながら、笑った。

その時。暴れ柳から出てきたハーマイオニーたちの声と、式神から出てくる声が、同時に聞こえた。

『ハリー!!今夜は..満月よ!!』

綺麗な月の光が一筋、雲の切れ間から現れた。

「リーマス、大丈夫か...!!今夜の分の薬は飲んだのか!?本当の自分を忘れるな!!本当の自分はここにいる...!!」

お嬢様が走る。俺は慌てて彼女の後を追いかけた。

服の裂ける音に、獣のような叫び声。狼とは名ばかりの、二足歩行の狼のようなものに、ルーピン先生は少しずつ変わっていた。

「プロテゴ!!」
「ヒヨリ...!?」

お嬢様が杖を振り、三人の周りに魔法をかける。誰かはわからないが古びた布切れを着た男(きっと彼がシリウス・ブラックだろう)が、ルーピン先生を押さえつけていて、そして、先生が大きく腕を広げた瞬間にその人は遠くの方へ投げられていった。

「どうして貴女がここに...!?」
「その話は後で!!逃げるよ!!」
「でもシリウスが!!」

お嬢様がハーマイオニーとロンとハリーを庇うように杖を構えながらルーピン先生を睨みつける。ロンは怪我をしているようで、ハーマイオニーが肩に腕を回していた。

俺は今にでも飛び出しそうなハリーの腕を掴みながら、お嬢様と同じように杖を構えて、ルーピン先生、いや、狼から目を離さないようにジリジリと後退していった。

その時、スネイプ先生が暴れ柳から出てきて、俺たちを見ると一つ眉をひそめてジロリと睨んできた。「何故君たちまで?」そう聞きたいのだろうけれど、今はそれどころではないため、俺はスネイプ先生の名前を大きく叫び、狼姿のルーピン先生を見せる。

「...なっ...!!」

狼は、こっちを見て大きく腕を振り上げた。とっさに杖を振り、プロテゴと唱えようとした時、茂みの方から犬が出てきて、その狼に噛み付いた。

もう、何が何だかわからないけれど、ハリーがその犬に向かってシリウスと叫んでいるため、きっとこの犬はさっき見たあのシリウス・ブラックなのだろう。

最早人間の出る幕ではないその戦いに、俺たちは固唾を飲んで見守ることしかできなかった。二匹は激しく組合をしながら奥へと消えていき、慌てたようにハリーが「シリウス!!」とまた叫ぶと、俺の手を振り払ってその茂みの方へと走っていく。

「ポッター!!戻ってこい!!」

スネイプ先生のその声の後に続いて、俺も叫ぶ。

「ハリー!!」

どうして彼はああも向こう見ずな行動ばかりするのか。俺は初めて今、彼を説教しないといけないと思った。

獣たち(ついでにハリーも)が消えて、俺とお嬢様、そしてスネイプ先生は顔を見合わせる。グリフィンドールの監督生と、スリザリンの寮監ではあるけれど今はそんな事を言っている場合ではない。スネイプ先生は地面に放り投げられていた杖を拾い上げ、無言で杖を振ると担架を出した。
俺はロンの腰に腕を回して、そっと担架にロンを乗せる。

「ハーマイオニー、ロンを医務室に連れて行くんだ」
「でもハリーが!!」
「ハーマイオニー」

お嬢様の静かな声が聞こえる。ハーマイオニーは、まだ何か言いたそうにしていたが、お嬢様をちらりと見た後に、静かに首を縦に振ると、一人でに動き出した担架に歩幅を合わせるように歩き出した。何度かこっちをチラチラと振り返りながら、ハーマイオニーとロンは学校の中へと消えていく。

「...ハリーたちを見つけに行きましょうか、先生」

二人の姿が見えなくなった後、俺がそう声をかければ、スネイプ先生はちらりと俺とお嬢様を見て、無言で歩き出した。俺たちは黙って彼の後についていき、川辺のところで倒れているハリーと、シリウス・ブラックを見つけた。
傷だらけで倒れているシリウス・ブラックに気づいて慌てて近づいたお嬢様を、俺とスネイプ先生は同時に手を伸ばして引き止める。

「君は脱獄犯にやすやすと近付く危険能力の足りない人物であったかね、Ms.陸奥村?」
「お嬢様、もう少し慎重に...」

無実だろうと確信はしているけれど、それでも、危険であることには変わりないわけで。お嬢様は首を何度か縦に振った後、スネイプ先生に「申し訳ありません」と謝り、ゆっくりと歩幅を進めた。

担架を二個出して、ハリーとシリウス・ブラックを乗せる。スネイプ先生は終始、その顔をいつも以上にしかめながら、無言で歩き出した。俺とお嬢様は彼の後ろをただ黙りながらついていく。

ちらりと、ハリーを見れば。ハリーもどうやら傷だらけだったようで、お嬢様が小さく杖を振って、小さな傷を治していた。




prev next


ALICE+