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『今年はドレスが必要みたいよ、貴女は着物を着るのかしら?もしもドレスなら、アリシアと一緒に探さない?』

とは、アンジーからの手紙。確かに、梟試験の結果とともに今年の必要な教科書リストの隣に"ドレス"と書かれていた。いったい何に使うのかは知らないけれど。あとで返事を返そうと、それを机の上に置いておこうとすると新しく梟が部屋の中に入ってきた。

「タイリー、セドリックから手紙きてるよ」

嘴に挟まっている手紙を見ると、セドリック・ディゴリーの文字が。私は、そばで机の上にある"生き残りリスト"の手紙に目をやっていたタイリーの肩をとんとんと叩く。タイリーは顔をちらりとあげると、私の手の中にあったその手紙を受け取り、中身を確認した。

「...今度行われるクィディッチ・ワールドカップの招待のようです」
「そっか、セドリックの親は魔法省だもんね」

フレッドたちからもお誘いの手紙は来ていたんだけど、私とタイリーは二人の誘いを断った。理由としては、16歳となった私には業務がこれでもかというぐらいたくさんあるからだ。この夏が勝負だと言ってもいいほどに(何に勝負するのかはわからないけれど)、お祖母様はパーティーやら何やらとスケジュールを組んだのだ。

「タイリーだけでも行ってきていいんだよ?」
「そんなことはできません...!!俺はお嬢様付きの使用人ですから」

タイリーはそう言うとセドリックから来た手紙を封筒にしまい、横に置いていた羊皮紙を広げてペンを持ち、セドリックへの断りの旨を書き出した。

私もタイリーも、クィディッチが大好きだ。本当なら行きたくて仕方ないのだけれど。それでも今回は泣く泣く、諦めるしかない。

「次回のワールドカップに期待だね」
「えぇ」

次回があるかも、あったとしてもタイリーといけるかもわからないけれど。それでも叶えない約束をしていたいほどに、私とタイリーは今、見えないなにかにしがみついていたいのだ。










夏休みも終わり、私たちはホグワーツ特急に乗っていた。

実は、あれだけ散々行きたがっていたクィディッチ・ワールドカップは、最悪の形で幕を下ろしていた。10何年ぶりに死喰い人が現れて、闇の印を空の上に書き出した。そのニュースは遠い国である日本にも瞬く間に広がった。昔、死喰い人による大規模侵攻が行われたあの出来事があるから、日本の魔法省も純血の家の人間も全員、警戒心を強めている。

本当は私とタイリーもホグワーツに戻るべきではないのではないかと言われていたらしいけれど、お祖母様がなんとかそのような話題を押さえ込んでくれたのだ。

「フレッド、ジョージ、ワールドカップどうだった?」

私とタイリーは二人並んで、恒例のホグワーツ特急内の見回りをしていた。車内販売のおばさんの隣をするりと歩くこと数十分、見慣れた顔のあるコンパートメントの扉を開けば、そこにはフレッドとジョージ、リーがいた。

「マジでよかったぜ!!スッゲー楽しかった!!」
「だけど闇の印がな...あれさえなけりゃ最高の思い出だったさ!!」
「でもまさかの死喰い人復活かって言われてるしなー...何もねーといいんだけどよ」

楽しそうに話している双子とは裏腹に、闇の印に恐れているリー。三人の一様の反応の違いに私とタイリーは笑顔を浮かべて、それじゃあまた後でと扉を閉じた。その時、タイリーが「大人しくしてろよ」と彼らに言っていたのを聞いて思わず笑った。

「やぁ、タイリー、ヒヨリ」
「セド」

途中、同じ監督生のセドリックに会って、私たちは談笑をした。久しぶりに会った二人は握手を交わして小さくハグをして、笑顔を浮かべながら近況報告をしていて。こうやって王様と王子様が並んでいるのを見ると、なんだか面白くて笑ってしまう。

「そういえば、O.W.Lはどうだった?」

セドリックのその質問に、私とタイリーは顔を見合わせる。

「12科目パスした」
「全科目、合格したよ」

そして、二人同時にそういえば、セドリックはその端正な顔を少し歪ませて驚くと、そしてすぐに口角を上げた。

「...さすがだよ...」

セドリックは首を横に振りながらそう言って、タイリーとまた握手をする。そして次にセドリックは私と握手をすると、それじゃあと言って私たちとは違う進行方向で歩き始めた。


O.W.Lの結果が届いた時。私とタイリーは思わず抱きしめあった。二人とも12科目すべてパスしていたのだ。タイリーに至っては、すべてO。もしもこのことをフレッドたちが知ったら、ありえないものでも見るような目でタイリーを睨むのだろう。


そんなことを考えて、二人で廊下をゆるりと歩きながらあるコンパートメントの前を通った時「おい」と一言、呼び止められた。

呼ばれた方を見れば、そこにいたのはドラコ・マルフォイ。

「...何かいうことがあるんじゃないのか」

彼はしもべのような二人に扉を開かせて、憎たらしくも足を組みながら上から目線でそういった。私とタイリーは見下ろす形で彼を見る。それが気に食わなかったのか、彼は眉をしかめて立ち上がり、私をじっと見た。

「...ありがとう?」

首をかしげてそういえば、ドラコはふんっと鼻を鳴らしてまた椅子に座りだした。その態度がやっぱり子供らしくて、私とタイリーは顔を見合わせて苦笑をこぼす。

「やっと純血名家の後継ぎとしての自覚を持ってくれてよかったよ」

そういえば、彼は顔を真っ赤にしてきっと私を睨み上げると、わざとらしく音を立ててコンパートメントの扉を閉じた。

私とタイリーは肩をすくませて、また廊下を歩き出す。

ツンデレという言葉を使うなら、多分それはきっと彼にぴったりの言葉だろう。




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