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「やぁ、ヒヨリ」

大広間で、本を読んでいるハーマイオニーの隣に座って、彼女の読む本を眺めていた時、セドリックに声をかけられた。顔をあげれば、セドリックはその手に羊皮紙を持っていた。

「そっか...誕生日きたからセドリックは成人したんだもんね」

先日誕生日を迎えたセドリックは、無事に成人を迎えた。グリフィンドールの王様に続いて、ハッフルパフの王子様までもが成人になったのだ。

「君の誕生日プレゼント、受け取ったよありがとう」
「ううん」

タイリー曰く、セドリックは絶対にゴブレットに選ばれる、だそうだ。もしも選ばれた時のために、タイリー
は、セドリックを守ってくれるだろう守護魔法のついたブレスレットをプレゼントしていた。私は無難に、高級和菓子の詰め合わせなのだけど(以前食べてみたいと言っていた)。女が、男二人の友情に入ることはなかなかできないのである。

「タイリーはいないのかい?」
「フレッド達に付き合ってるよ」

セドリックは、ちらりとみえる革紐でできたブレスレットのついた右腕をあげると、やれやれと言ったように首を横に振り、前に置いてあるゴブレットの方をちらりとみた。私はハーマイオニーの隣から立ち上がり、彼の後ろでやいやいと盛り上がってるハッフルパフの集団をみて、セドリックをみる。

「皆がいれてくるのを待ってるみたいだよ?」
「んー...そうなんだけどね...」

セドリックは眉をさげて困ったような笑みを見せた。そんな姿の彼に、私ははた?と首を傾げる。セドリックがこんなにも自信のないところを見せるのは初めてだ(多分だけど)。

「それじゃあ、行ってくるよ」
「うん、行ってらっしゃい」

セドリックは意を決したような目をみせると、私に手を振って後ろの友達の集まりのところに行った。そして、彼らに背中を叩かれたり押し出されたりしながら、ゴブレット近くにいくとその手の中にあった羊皮紙を炎の中にそっと入れる。そして、またゴブレットから離れて友達にもみくちゃにされながら広間の壁際に移動して行った。

「貴方、ハッフルパフの王子様とも知り合いなの?」

無事にセドリックがゴブレットに入れたのを見届けて、ハーマイオニーの隣に腰を落ち着かせれば、ハーマイオニーが少し目を見開いて私を見た。

「うん。セドリックとタイリーは友達なんだよ。親友かも」
「そうだったの...!?」
「知らなかった?」
「えぇ...」

まぁ確かに、ホグワーツの中で王様や王子様なんて呼ばれてる人が友達同士だったらびっくりするか。
そう考えて首を何度か縦に振っていれば、ハーマイオニーが怪訝そうな目を向けてきた。そんなハーマイオニーに慌てて口を開こうとすれば、あれだけ騒がしかった広間が一瞬にして静かになった。

理由は簡単だ。ゲストとして迎えられたダームストラングの生徒、ビクトール・クラムがゴブレットに名前の書いた羊皮紙をいれたのだ。今最も最強と呼ばれているクィディッチ選手である彼がいれたのだ、きっとダームストラング校の代表選手は、彼だろう。

そんな彼を私とハーマイオニーは目線をむけて追いかけていれば、クラムはハーマイオニーをちらりと見て、意味深な笑顔を向けた。

「...お?...お?ハーマイオニーまさか...?」
「もうやめてよヒヨリったら...」

ハーマイオニーは顔を少し赤らめて、私の肩を叩く。恥ずかしがってるのはわかるけど案外強い力で叩かれて、私は前のめりになりながらハーマイオニーの腕を抑える。
その時、毎日のように聴いている声がユニゾンのようにハモって大広間に響き渡った。

「イエーーーイ!!」

フレッドとジョージだ。後ろにはリーとタイリーもいる。リーはニコニコと笑っているのに反して、タイリーはなんだか気難しそうな顔をしていた。タイリーはセドリックと二言三言話すと、笑顔で彼の肩をトントンと叩いて私の視線に気づいた。手をあげて小さく振れば、タイリーはセドリックに見せた笑顔とは違う笑みを私に見せて、小さく頭を下げた。

フレッドたちは細い試験管を手に持っていた。声高らかに叫ぶその言葉を信じるなら、その中にはいってるのは老け薬のようだ。それを聞いたハーマイオニーが呆れながら笑い、読んでいる本をぱたんと閉じた。

「効きっこないわ」
「へぇ、ハーマイオニー、どうしてそう思うんだい?」

ハーマイオニーの言葉を目ざとく(?)聞きつけたフレッドとジョージは、にやにやと笑みをうかべながら私たちの座っている場所に近づき、ハーマイオニーの近くにしゃがみ込んだ。

「これを見て?ダンブルドア先生が引いた年齢線よ?」
「それが?」
「わからないの?」

呆れたように言うハーマイオニーにフレッドたちは任せることにして、私は椅子から立ち上がりタイリー達のいる方へと歩く。タイリーの前に、わざとらしくジャンプして「じゃんっ」といいながら現れれば、タイリーが笑いながら、私の名前を呼んだ。

「老け薬、タイリーも手伝ってあげたの?」
「なんだかんだ最後まで厳しく指導してたぜ、タイリー」
「おい、リー」

頭の後ろで両手を組みながらそう笑うリーの頭を、タイリーが少し恥ずかしそうな顔をしながら叩いた。リーが声に出して笑って、タイリーの腕を握っていれば、急に広間に拍手の音が響き渡る。なんだろうかと思って振り向けば、どうやらあのお騒がせ野郎とも言える双子が年齢線を超えたらしい。

「あれ、案外上手くいっちゃうパターンだったりして」
「俺は上手くいくことに賭けるけどな」
「手伝っておいてなんだが...多分うまくいかないだろうな」
「おいおいタイリーひでーな」

身もふたもないことをいうタイリーにリーはお腹を抱えて笑う。確かにリーの言う通りだなと思って私も両手で口を隠して笑えば、タイリーが慌てたように私を見て「お嬢様...!!」と呼んだ。
その時、フレッドとジョージがゴブレットの方から吹っ飛ばされて大広間の玄関の方まで転がっていった。

「...バカだな」
「うん。バカだと思う」
「やっぱあいつらバカだわ」
「うるせーよタイリー!!」
「リー、オジョーお前らもだ!!」

フレッドとジョージはその顔に立派なヒゲを蓄えて、そして真っ赤に燃える赤い髪は真っ白な長い白毛へと変わっていた。老け薬ではやっぱり誤魔化すことはできなかったようで、見事に年齢線から弾き飛ばされたらしい。
広間にいた人達は皆笑い声をあげながら二人を見ていて、そして二人はお互いにお互いのせいにして殴り合い(に見せかけた喧嘩)を始めた。

やっぱりこの双子達はバカだなぁと、私たちは笑いながら二人を見ていた。




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