19
双子の二人の悪戯に巻き込まれる形で、謎の罰則を受けてやっと解放をされた。腹いせに二人と一緒にクソ爆弾を廊下を歩いてるフィルチにぶん投げて、さんざん笑いながら寮へ帰ろうと廊下を走る。
「へいへいへい、天下のウィーズリー達がお通りだ!!」
「そこの下級生どいてくれるかい!!」
「君たち、廊下は走っちゃいけないよ」
「おいおいセドリック、俺たちには監督生の味方がいるんだ!!」
走ってる俺たちに歓声をあげながらみてる生徒の中、ハッフルパフの監督生であるセドリックが前に出て「ストップストップ」と言いながら俺たちを止めた。
急に言われても止まることはできない、そのままセドリックにぶつかって、俺たちは四人仲良く廊下で転がり壁に頭をぶつけた。
「おいセドリック、急に出るのはやめろよ!!」
「あぶねーだろ!!」
「君達のほうが危ないからね...あぁ、リーありがとう」
「いんや。わりーな」
いち早く立ち上がった俺は、とりあえず監督生様に謝って罰点されないためにも手を差し伸ばして立ち上がらせる。
さっきまで罰則があったんだ。また罰点なんてやってらんない。
「ねぇ」
「ん?」
立ち上がったセドリックは未だになにかわちゃわちゃしてる双子を見下ろして、口を開いた。
何か思い詰めてるのか、さっきは気づかなかったけど少し顔が怖い。
「タイリーとヒヨリって、好き合ってるよね?」
6年来の付き合いである俺達の当たり前の事実を何故か急に口にするセドリック。フレッドとジョージが腹を抱えて笑いながら、床をバンバン叩いていた。
「何当たり前の事言ってんだよセドリック!!」
「あの二人はどこからどう見てもラブラブだろ!?」
「急にどうした?」
笑ってる二人だと話にならないだろうから、何かあったのかとセドリックに聞く。セドリックは一度周りを見て、近くにいる俺たちにだけ聞こえるような声で言った。
「...タイリーのダンスパーティーのパートナー知ってるかい?」
その言葉に俺達は顔を見合わせて、同じようにセドリックを見返して同時に口を開く。
「「「ヒヨリだろ?」」」
セドリックは、黙って首を横に振った。
思わずはぁ?と声に出して聞けば、セドリックはなにやら眉を下げてこまったような表情を見せる。
「彼、ダンスパーティーには参加しないようだよ。...ヒヨリ、正式に婚約したんだってさ」
それを聞いて否や、フレッドとジョージは立ち上がり、セドリックの肩を掴んだ。すごい形相だ。まるでセドリックが悪いとでも言いかねないぐらいの勢いで。
「それどういうことだよセドリック!!」
「そんなの、僕が知りたいよ...!!」
「お、落ち着けって二人とも、セドリックだって知らなかったんだから、な?」
「僕もさっき知ったんだ...」
ヒヨリに沢山の婚約者から手紙やらなにやらが来てたのは知ってた。だってそれをいつも大広間で呪文を唱えて消してたんだからな。でも最近はそれも少ないなとは思ってた。なるほど、婚約が決まったんなら少ないわけだ。
って、納得してる場合じゃない。セドリックから手を離して「あいつ...!!」と何に怒ってるのかは分からないがジョージが叫んで廊下を走り出す(ジョージ!!とフレッドが叫んだからあれはジョージだ)。
俺とフレッドも思わず走ってるジョージを追いかける。けど慌てて後ろにいるセドリックに「悪いごめんな」と叫んで、俺は二人の背中を追いかけた。
階段を2段飛ばしで走って寮の近くに行けば、丁度談話室からアンジーとアリシアが出てきた。
二人の名前を呼ぼうとフレッドが息を大きく吸い込む。だけど、その口から声が発せられなかったのは、きっとアンジーが泣いていたからだろう。
「...おいおいおいおいアンジー...?」
フレッドは彼氏らしくアンジーの肩に手を添えて、顔を覗き込んだ。なんでもないとでもいうかのように、首を横に振るアンジーの隣で、アリシアまでもが目を真っ赤にしていた。この二人が泣くなんてよっぽどだ。だって勝気って言葉がぴったりなんだよ、二人は。
何があったのかは分からないけど、二人はタイリーと話をしていたらしい。あの頑固者は、どうやらこんなに美人な女を二人とも泣かせたようだ。アンジーとアリシアは少し頭を冷やしてくるからと言って、寮の扉を開けたままにして、階段を降りて行った。そんな二人の後ろ姿を最後まで見ないで、フレッドが寮に入る。太った貴婦人が「なんの騒ぎなの!!」と叫んでたけど無視だ。
「タイリー!!おい!!」
フレッドが談話室でタイリーの名前を叫ぶ。どうやらもうタイリーは部屋に戻ってるようで、フレッドが悪態をつきながら階段を上がり部屋に上がって行った。俺たちもフレッドの背中を追いかけて、駆け上がる。自分の彼女が泣いていたんだ。ちょっと見方を変えれば泣かされたと受け取ってもいいだろう。怒りが収まりそうにないフレッドを見て、どうか平穏に終わりますようにと思いながらも、アンジー達が泣いてたんだ、なんとなく嫌な予感はした。
「おう相棒聞いたぞ?アンジーを泣かせたんだって?」
俺たちの部屋に入った途端、フレッドは奥のベッドに座っているタイリーに向かってそう言った。手に持ってるのは杖だ。おいおい、ここで呪文なんて唱えるなよ、と思い「落ち着け」と言いながら俺はフレッドの腕を握る。
「泣かした訳ではない」
「タイリーと話して泣いたんなら泣かせたも同然だろ」
怒りで上がってるフレッドの肩を、ジョージがなだめるように叩く。ベッドから立ち上がり、ローブを脱ぎ捨てたタイリーがこっちに向かって歩いて来た(いつもはきちんとたたむのに、珍しい)。そんなタイリーに、ジョージが少し前に出て努めて明るい声で話しかける。
「タイリーは、パートナー決めたか?」
白々しいとは別に思わない。セドリックから本当の事を聞かされても、今この修羅場のような雰囲気をなだめるにはいい選択だったとは思わない話題だけどな。
「いや...」
「なんでオジョーと行かないんだよ」
首を横に振るタイリーに向かって、両手を上にあげながらジョージが呆れたようにそう言った。
俺も隣で、首を縦に何度も振りながら同意の意を示す。
「俺は使用人だぞ、行ける訳ないだろ」
「行けるだろ」
兄弟に叩かれたことにより少し落ち着きを取り戻したのか、フレッドが杖をポケットにしまいこんでタイリーの前に立ちふさがった。
「お互いがお互いをパートナーにしたいと思ってる。それでいいだろ、ダンスパーティーなんだから」
その通りだ。お互いが思いあってるんだからそれでいいじゃないか。よく知らねーけど、二人が考えてるその悩みってのは、そこまで重く受けとめないといけないものなのか?
永年ずっとずっと言いたかった事を、ついにフレッドが口にした。それを機に俺も首を縦に振り、口を開いた。
「なぁ、難しいことはやめにしよーぜ、タイリー。オジョーはタイリーと行きたい。タイリーもオジョーと行きたい、だろ?」
「違う」
もう訳がわからなかった。
5年間ずっと見て来たんだ。二人の姿も、タイリーのオジョーを見守る姿も見て来た。それを他人が見て、そうだと思うのに、何が違うのかわからなかった。
それでも頑なに否定するタイリーを見て、ついに堪忍袋の尾が切れた音が、横から聞こえた。
「あぁ、あぁそうかい!!お前がそう言うんならもう知らねーよ!!」
「じゃあ俺がヒヨリを誘うからな、いいのかよ!?」
「二人とも落ち着けって!!」
「おいおいこれが落ち着けられるって!?」
「あぁそれは無理な話ってやつだ!!リー!!」
このままじゃ喧嘩に発展してしまう。まぁもうすでにアンジーが泣いてしまってる時点でタイリーとフレッドの喧嘩は確定なんだけど。とにかく、俺はなんとか冷静にさせようと、タイリーに殴りかかりに行かんばかりに興奮してる二人の腕を引っ張る。それでも、二人より背の低い俺一人の力じゃたかが知れていて。二人は俺の制止を無視してタイリーに詰め寄った。
「何がヒヨリの為だよ!!お前のそれはヒヨリを思っての事じゃねーだろ!!」
「逃げてるだけじゃねーか!!」
「オジョーは婚約が決まったって!?だから!!」
「だから...?」
「だからどうした!!オジョーに結婚相手ができて?で!?」
「でもそれは、あいつが本当に好きな奴じゃないだろ!!」
二人の言ってる事はまさしくその通りだと思った。
オジョーが婚約したからと言って、それがなんだ?と思う。ずっと好き合ってたのはお前らじゃないかって。
それに、だからってダンスパーティーに行かないなんて、おかしい。だからこそ、二人は一緒に行くべきだと思うのに。
「お前はな、タイリー!!臆病者なんだよ!!」
「黙って聞いてれば俺が臆病者だと?」
「どう考えてもそうじゃねーか!!はっきり言って、お前らの家がどうだろうと知ったことか!!」
「お前たちはまだ学生だろう!?」
「そしてここは日本でも陸奥村家でもない!!学校だ、ホグワーツさ!!」
「なんで家の事なんて気にしないといけない!?」
「そんなの気にせずに自由に過ごしてもいいだろう!?」
「いいわけないだろ!?お前たちは何もわかってないんだよ!!貴族というものがどういうものなのか!!」
耐え切れなくなったのかタイリーも叫びだした。あのタイリーが叫んでる。今まで、どんなことがあっても声を上げることはなかったタイリーが、二人を睨みながら立ってる。
だけど、二人も負けてない。あのグリフィンドールの王様に怒られてるというのに、勇猛果敢にもタイリーを睨み返していた。俺はもうほぼ、隣で見てるだけ。
「ああわからないさ!!」
「わかりたくもないね!!」
「でもなタイリー!!お前だってわかろうとしてないだろ!!」
フレッドかジョージかはこの際どちらでもいい。双子のどっちかが指をタイリーの胸元に強く何度も突き刺しながら言った。フレッドもジョージも、最早ここまできたら引き返せないのか、声は荒げたままだ。
「お前だってヒヨリのことを思って、なんて言ってるけどな!?」
「ほんの!!」
「これっぽっちも!!」
「「ヒヨリのことを分かろうとなんてしてないんだ!!」」
思わず、あー、と声が出た。そして顔を片手で覆う。
その言葉に衝撃をうけたのか、立ちすくんでいるタイリー。フレッドとジョージは言いたいことを言い切れて満足したのか、踵を返すとバタンと大きい音を立て部屋の扉を閉じて談話室へと降りて行った。
二人の消えていった扉を眺めて、そしてタイリーを振り返る。タイリーは、呆然とそこに立ったまま、下唇を噛み締めていた。
「タイリー。フレッドもジョージもああ言ってるけど、俺たちはお前達の事を、ただ心配してるだけなんだよ...」
5年間、ただそう思ってただけなんだ。
俺は、こっちを向こうとしないタイリーにこれ以上かける言葉が見つからなくて。部屋をでた。
ゆっくりと階段を降りて、談話室に向かう。談話室のソファーには、アンジーとアリシア、フレッドにジョージが座っていた。他にも人がいるかと思ったけど、どうやらいないようだ。クリスマス当日までにパートナーを見つけるために皆寮を出てるんだろう。珍しく静かな談話室も、今だけはありがたかった。
言いすぎた事を後悔してるのか、いつもなら大きい背中のフレッド達がなんだか小さく見えた。
俺も同じようにソファーにすわって、暖炉に灯ってる火を見る。
なんだかんだ言いながら。二人は結局一緒にいれるんだと思ってた。
だって、二人はどこからどうみてもお似合いの二人だったから。例え恋人同士じゃなくたって、きっとあの二人ならなんでも乗り越えるんだろうなって、思ったから。
でもそれは、俺たちがそう思ってるだけだったのかもしれない。
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