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名前を教えてもらい、顔を合わせて話すようになってから、探せば結構普通にアオバは見つかるものだと気付いた。
広間でご飯を食べてる時になんとなく彼女を探せば、アオバはいつも友達数名と楽しそうにご飯を食べていたし、廊下を歩けば、いつも友達と笑いながら歩いていた。レイブンクローはなんとなく肩苦しいというイメージが付いていたから、意外だな、なんて思ったのだ。


「こんにちは、リーマス」
「...アオバ、こんにちは」


学校探検をすると張り切って行ったジェームズたちを見送って、僕は一人図書館にこもっていた。本を広げて勉強をする。羊皮紙に羽ペンを進めていれば、向かいの席に誰かが座り、そして声をかけてきた。

顔を上げてみてみれば、そこにはアオバがいた。


「レポート?」
「うん。アオバも?」
「同じく。なんの科目?」
「魔法薬学だ」
「私は闇の魔術に対する防衛術」


そう言って教科書の表紙を見せて肩を竦ませたアオバに笑みを浮かべて、僕たちは本に視線を落とす。人気も少ない図書館だから、聞こえるのは僕たちの羽ペンを走らせる音と、たまにめくる本の音。そこそこに羊皮紙が伸びたかなと腕を伸ばして一休み入れれば、アオバも同じように羽ペンをおいて肩をぐるぐると回していた。

同じタイミングで休憩を入れていることが面白くて二人で笑えば、アオバは両手で頬杖をつきながら話しかけてきた。もちろん、マダムに怒られてはいけないので小さな声で。


「リーマスはいつもここで?」
「うん、時間があればね」
「私もよくいるよ。でもいつもはもっと奥の席に座ってるの」
「あぁ...だからあまり見たことがなかったのかな」
「そうかも?レイブンクローとグリフィンドールは合同授業もなかったしね、今まで」


ちらりと見えた羊皮紙は、綺麗に描かれた英語が連なっていて。勤勉なレイブンクローの寮生らしいな、と少し思った。


「アオバはどこの国から来たの?」
「日本だよ。知ってる?」
「島国の?」
「正解」


日本の場所を頭に思い浮かべる。小さい島でできた国のはずだ。そこから来たのかと、アオバの顔をまじまじと見つめた。


「ここに来た時は英語全然話せなくて困ったものだったよ。今はどう?結構上達したんだよ」
「うん、綺麗な発音だと思うよ」
「でしょ?でもまだ筆記体は書けないの」
「気にしなくてもいいんじゃないかな?とても綺麗な字だし」


彼女と話すのはなんだかとても心地よかった。お互いが騒ぐような性格じゃないからだろうか、アオバは少し笑顔を浮かべて、片手で僕の羊皮紙をなぞった。


「私もこのぐらい綺麗に筆記体書きたいんだけどなー...」
「綺麗かな?」
「うん、とても。なんだかかっこいいよ」
「カッコいい?」
「日本人にとったら、筆記体は憧れの存在なの」
「変なの」
「変で結構」


面白くて、少し吹き出しながらそういえば、アオバは頬を少し膨らませて、そっぽを向いた。その行為も面白くて、クスクスと笑い続ければ、アオバはこっちを向いて同じように笑った。


「さ、続きやろうかな。今日中に終わらせたいんだ」
「僕も。頑張ろうか」
「うん」


そうして、また二人同時にペンを進める。
なんだか、今回のレポートはとても良い出来になる気がした。



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