5

フクロウを送って、毎週土曜日の夕方、一緒に勉強をしようと約束をつけた次の土曜日を控えた金曜日の夜。月の満ち欠けが始まって、僕の体調はまた悪くなっていた。
せっかく明日は、アオバと約束をしていた日だから、途中で体調不良で退出なんてことはしたくない。僕はまた、皆を起こさないようにゆっくりとベッドから起き上がり、医務室へと向かった。


「...失礼します...」


何回かの失敗を思い出して、きちんと言葉を発して中に入る。扉を開いて中に入れば、カーテンが閉じられている一つのベッドがあって、奥の方にマダムが座っていた。


「薬ですか?」
「...はい。あと、気持ち悪くて」
「そうですか。今夜は医務室で、過ごしなさい。薬を取ってくるので、ベッドに座って待っているように」
「はい...」


マダムは奥に消えて薬を取りに行った。なんとなく、カーテンの閉じられているベッドが気になり、僕はそのベッドの隣にあるベッドに腰をかけた。

カーテンの奥にいるのは、アオバなんじゃんないだろうか。なんとなくだけど、僕はそう感じた。



「Mr.ルーピン、こちらの薬を飲んだら、カーテンを閉じてベッドの中に」
「はい、ありがとうございます」


マダムが毒々しい薬の入ったゴブレットを持ってきた。それを受け取って、飲みたくないけれど飲まなくてはいけない葛藤とともに、その薬を喉の奥へと流し込む。案の定とても苦かったそれに一瞬顔をしかめて、僕は言われた通りにベッドの中に入った。

マダムはそれを見届けるとカーテンを閉じて、奥へと消えていった。さすがにマダムも眠いだろう。少し眠気を帯びた目だった。


ベッドに横になって、カーテンの向こうを見る。
カーテンの向こうの人物は、少し体を動かしたような衣摺れの音を出した。


「...リーマス?」


こちらに寝返りを打った音だったのだろう。予想通り、アオバの声が聞こえた。


「アオバ?」
「うん。リーマス、大丈夫?」
「アオバこそ、大丈夫なの?」


マダムにばれたら怒られるから、僕たちは小さい声でカーテンごしに言葉を発する。
アオバは少し笑って、大丈夫というと、ばさりとした布団の音を立てた。なんだろうと不思議に思っていれば、アオバはベッドから立ち上がり、そっとカーテンを開けて、僕のベッドを取り囲んでいるカーテンも開けたのだ。


「...な...!!」
「シー」


唇に人差し指を当ててそう言いながら中へと入るアオバ。そして、また静かにカーテンを閉じて僕の寝転がっているベッドに近づいた。
僕は慌ててベッドから起き上がり、アオバが座れるようにベッドのスペースを空ける。

アオバはいつもと同じように、シャツのボタンを第二ボタンまでしか閉じずに、僕のベッドに座る。さすがに深夜に同じベッドに座るという場面をマダムにでも見られたら怒られるなんてことじゃあ終わらないだろう。


「リーマス、また体調崩したの?」


そう小さい声で聞いてくるアオバに一瞬迷った後、コクリと首を縦に振った。


「アオバもかい?」
「うん。今月はあまり崩さなかったんだけどねー」


足をぶらんぶらんと揺らしながらそういうアオバ。確か以前、マダムが彼女は不規則だと言っていたことを思い出す。
病気でも持っているのだろうか?僕は彼女の頭にそっと手を乗せる。


「...大丈夫かい...?もしあれなら、明日は...」


僕がそういえば、アオバは慌てたようにこっちを見て、首を横に振った。


「大丈夫だよ...!!今日休めば、治るから。リーマスこそ、大丈夫なの?」
「僕も大丈夫だよ」


きっと。もともと体が弱い子なのだろう。確かに、月明かりしかな医務室で見るアオバの顔は儚げで、腕も折れるんじゃないかというぐらいに細い。明日、もしもアオバが辛そうにしていたらきちんと僕が医務室に連れて行ってあげよう。僕はそう決心して、もう一度アオバの頭を撫でる。

アオバは安心したような顔を見せて一度めを閉じると、そっと僕の手を頭から外してベッドから立ち上がる。


「おやすみなさい、リーマス」
「おやすみ、アオバ」


アオバはカーテンを引いて、手を少しだけ振るとまたカーテンを閉じる。
向こう側のカーテンを引いて、ベッドに入っただろう衣擦れの音を聞いて、僕も布団をひっぱり枕に頭を沈めた。
隣のベッドに、女の子がいる。それだけでなんだか、心がドキドキしていた。



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