広がる太陽の輪

「とても可愛い子にあったの」

いつもの日課でもある、セブと二人でベンチに座りながら本を読む。セブは急に話し出た私に不思議そうな顔を向けながらも、続きを黙って待っているようだった。

「ちょっと体調が悪くてね、廊下でしゃがんでいたんだけど…」
「だ、大丈夫なのか…!?」
「あぁ、もう大丈夫よ!」

慌てた様にそう言うセブが面白くてクスクス笑いながら大丈夫だと言えば、セブはホッとしたのか胸を撫で下ろして「それで?」と聞いた。

「ハッフルパフ生の1年生の子がね、助けてくれたのよ。名前と見た目から東洋人の子だったわ。その子凄く綺麗に笑う子でね、一目できっと良い子って思ったわ」

1年生の割には少し背の高い女の子だった。とても落ち着いた子で、私に気を遣いながらローブを腰に巻きつけて支えてくれたあの子。医務室について、薬を飲んでからもずっと側を離れずに見守ってくれて。その後も私が寮の中に入れるまで見てくれて、そして笑顔でお大事に、と言っていた。なんて優しい子なのだろうと思った。見ず知らずの(その後自己紹介はしたけれど)の人にローブを貸せる子なんているだろうか?

その後、きちんとローブは洗って返した。その時も、もう大丈夫?と聞いてくれて、きっとお姉ちゃんタイプの子なのだろうなと思ったのだ。

「それからちょくちょく会う様になってね。あ、その子の名前はリンって言うんだけど、きっとセブもリンの事を気に入るわ!」

いつも仏頂面をぶら下げて入るセブにだって、きっとリンは、ニコニコとあの太陽の様な笑顔で接してくれるだろう。
私がそう言えば、セブは肩をあげながら「どうだろうな」と一言言って、またそうやって、と私は呆れたように息を吐いた。

「もう!あの子も本が好きだから、きっと話しが合うわよ!」
「そうは言われてもスリザリンとハッフルパフだ…」
「あら、私はグリフィンドールよ?」

売り言葉に買い言葉。私がそう言えば、セブは諦めたようにため息をついてわかった、と一言言った。

その時、大嫌いな声が後ろから聞こえて、私たちの気分をどん底に落としていった。

「リリー!今日もとても綺麗だね!」
「ポッター、本を読んでいるのが見えないの?」
「本を読んでいる君の姿がまるで花のように美しくて!思わず話しかけてしまったのさ」

呆れた。

私は本をバタンと閉じてセブの腕を引っ張りベンチから立ち上がる。

「行きましょうセブ。時間の無駄だわ」

ギロリとポッターを睨みつけるセブに、ポッターは眉をひそめながら低い声を出す。

「やぁスニベルス」
「その名前で呼ぶな!」
「恥を知りなさいポッター!」

ポッターの後ろではブラックがニヤニヤと笑いながら私達、特にセブを見ていた。

話していたってこの人たちには会話が通じない。私はセブの腕を強く握って、二人のいる方とは違う道に向かって歩き出した。

「スニベルス!リリーを離せ!君のギトギトの脂がリリーに移ってしまうじゃないか!」
「なんだと…!」
「セブ!」

私の腕を振り払い、ポッター達に杖を向けるセブの名前を呼ぶ。ポッター達も杖を持ちながらセブを睨みつけていて、私は慌てて3人の間に入る。

「リリーそこを退いてくれ!」

ポッターが眼鏡の奥の目を見開きながら言った。そんな懇願をするのなら、どうしていちいち突っかかってくるのかが分からない。私はポッターとブラックを睨んで「黙りなさい」と一言言い放つ。

その時、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。

「リリー!」

手を振りながら私の名前を呼ぶのは、丁度さっき話していたリンで。教科書を抱えながら友達なのか少しリンより背の低い男の子を連れて、リンはこちらに向かってきていた。

「リン…!セブ、あの子よ!」

私は思い出したかのようにセブの腕を引っ張って、リンの元へ足を向ける。もちろん後ろを振り向いて、ポッターは睨むことも忘れずに。

「友達が呼んでるから、ごめんなさいね」

そう言って、私はセブを連れてリンの近くに行く。後ろでポッターが、「リリーが、ごめんなさいねって…!」と謎の感動をしながら言葉を発していて気持ち悪かった。

リンはニコニコと「お話の途中ごめんね」と、謝ってきたけれど、あれがまさか彼女には談笑にでも見えたのだろうか。思わず苦笑いしながら隣にいるもう一人の子を見れば、その子も苦笑しながらリン、と名前を呼んでいた。

意外にもこの子は、少し天然が入っている子なのかもしれないと、なんとなく思った。


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