君の苦しみも抱えてあげたいとは思うけど。

この前たまたま出会ったグリフィンドールの先輩が、遠くの方に見えた。丁度授業終わりで暇を持て余していた私はレギュに紹介でもしてあげようと思って手を振って呼びかければ、どうやら同じ寮の男の人数人と話している最中だったようで。彼女は緑色のネクタイをつけた男の子と共に、私のところに歩いて来た。

「ごめんね、お話してる時に」

そう言って頭を下げれば、彼女、リリーは少し苦笑を浮かべた。隣にいるレギュにもなぜか肘で小突かれて、解せない。

「セブ、この子がさっき言った子よ。リン、彼はセブルス。私の幼馴染なの」

リリーは輝かしい笑顔を見せて隣にいる男の子、セブルスさんを紹介した。真っ黒な髪をうざったそうに風に揺らせながら、こちらを見る彼は、レギュの先輩だったようで。小さい声でレギュが「セブルスさん」と口を開いた。

「リン・桜田です」

頭を下げてそう答えれば、彼は小さく「セブルス・スネイプだ」と答えてくれた。

「レギュラス...」

一体どういう事だ。そう言わんとばかりの険しい顔でレギュを睨むセブルスさんに、思わず笑いをこぼしてすぐに真顔に戻す。隣で私をじとりと睨んでいるレギュの事は無視して、私はセブルスさんに笑顔を向けた。

「入学当初から友達なんです」

そう言って驚いたのはセブルスさんだけではなくリリーもで。

「そうだったの...!?」

彼女は元々大きい目をさらに大きく開いて、私とレギュを交互に見た。どうしてそんなにびっくりするのだろうかと思って首を傾ければ、リリーはレギュをちらりと見て、口を開いた。

「まさかブラックの弟とリンが知り合いだったなんて,...」

ブラックという言葉を聞いた時のスネイプさんの表情には無視をする。
確かブラックはこの国の純血魔法使いの中でもとても高貴な家の人だったはずだ。レギュから聞いたわけではなくて同室の友達からきいた事だけど。

「レギュ、お兄さんいたの?」
「言ってなかった?」
「聞いてないよ」
「じゃあ今言った」

レギュはそういうと、やれやれとでも言いたいのか首を横に振る。そんな彼の肩を少し強めに押し出せば、レギュがうつろげな目で私を睨んだ。

「そういえば、さっきの男の子達は?」
「「ポッターの事は言わないで/言うな」」

リリーとセブルスさんが同時に口を開いた。さっき話してるように見えたけど、喧嘩でもしていたのだろうか。隣にいるレギュが分かっているようなので後で聞くことにしよう。

「私達は先に広間に行くわね。貴方達も遅れないようにね」
「うん、バイバイリリー」

セブルスさんの手を引っ張り、廊下の方に進んで行くリリーに手を振る。二人の後ろ姿が見えなくなった時に、レギュの顔をちらりと見れば、彼は「何か?」と言った。しかもにやりと笑いながら。

「ポッター?さんとリリーは何かあるの?」
「リンは意外に知らないんだな」
「ねぇなんか馬鹿にしたでしょ今」
「してないさ」
「した」
「してない」
「した」
「してない」

押し問答のようなものを繰り返せば、レギュが不意に目を細めてクツクツと喉で笑い出した。彼は案外笑い上古な人だということは、一緒にすごしててわかって来ている。
うまくはぐらかされたなと思っていれば、レギュが笑い声を止めて私を見つめた。そのたまに見せる優しいんだか寂しんだかわからないなんとも言えない視線を、私はいつもどうやって受け取ればいいのかわからなくなる。

レギュは、私を見た後に前を向くとゆっくりと口を開いた。

「...兄さんは、グリフィンドールなんだ」
「お兄さん...?」
「あぁ。ブラック家は代々スリザリン一家だという事は知ってたかい?」
「うーん...うん、友達が教えてくれたと思う」

一度、同室の子にホグワーツに纏わりついてる純血主義やらなんやらを教えてもらった。ブラック家は代々スリザリン一家で、王族だとかなんだとか。難しい話しは私にはさっぱりで、頭にとどまる事はなかったけれど。

「兄さんは、スリザリンを押し切ってグリフィンドールに入ったんだ」

隣にいるのに、彼の声ではどこか小さく聴こえた。私が決してお酒に酔ってるとかそういうわけではないので、本当に小さい声で言ったのかもしれないけれど。

「...レギュ?」
「...ごめん。なんでもない」

少しだけ震えてる彼の肩になんとなく手を乗せれば、レギュは少し驚きながら私の顔を見た。その顔がいつも大人ぶっている彼とは違くて、捨てられた子犬のような顔をしていた。もしも彼に尻尾があれば、ふるふると震わせながら地面にべたりとついていただろう。

「大広間に行こっか」

いくら大人っぽいからと言っても、彼はまだ12歳にも達していない。ここは少し大人なお姉さんとして、彼を引っ張っていってあげようではないかと、心の中で得意げに笑いながらレギュの手を握った。

少し小さい掌が、私の手の中にすっぽりと包まれた。


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