憧れだけでいてほしいと勝手に願います

気づけばホグワーツでの1年は終わり、長い夏休みに入っていた。あっという間に過ぎていった1年間を思い浮かべながら、私とミネルバは料理をしていた。家事魔法をかければ事は足りるけど、やっぱりケーキは手作りが一番だと見解が一致したのだ。

「リン、ホグワーツでの学生生活はどうですか?」
「楽しいよ。友達も沢山できたし、皆優しくて英語も教えてくれる」
「それはよかった」
「グリフィンドールの先輩とも知り合いになったの。私もグリフィンドールがよかったな」

生クリームを泡だてながら、ホグワーツに入った当初の頃を思い出す。きっとスリザリンに組み分けられるだろうと思っていたけど、なぜかハッフルパフに組み分けされて驚いたのだ。黄色のネクタイにもローブにも、もう慣れてしまったけれど、やっぱり心の中の憧れは、燃えるように赤いグリフィンドールのネクタイだった。

「リンにハッフルパフはとても似合っていますよ。心優しい貴方に黄色はとても合っています。もちろん、養母としてはグリフィンドールに入って欲しかったですけどね」

ミネルバは、そう優しく笑いかけながら、そう言った。どこまでも優しいこの養母は、ホグワーツでは厳しい女監と知られているけれど、家ではそんな所一切見せない母親だ。
この前、正式に役所で書類を全て揃えた私は、姓を桜田からマクゴナガルに変えた。私と彼女は、本当の親子となったのだ。

「さぁ、生地にクリームを塗って。紅茶をいれましょう」

ミネルバはそう言うと、杖をふわりと振ってお湯を沸かした。





小さい頃から孤児院にいたから、親というものがどういうものなのかはわからない。どうして孤児院に捨てられたのかもわかっていないぐらいだから、私の記憶にある家族というものは、お姉ちゃんぐらいなものだ。

ミネルバもミネルバで、旦那さんと結婚をしたけど子供には恵まれなかったそうだ。お嫁さんと母親はやっぱり違うだろうから、私とミネルバはどっちも本当の親子というものがなんなのかわからないままに親子になった。
それでも、陽だまりのような柔らかい笑顔を浮かべながら紅茶を振舞って、ケーキを取り分けてくれるミネルバは、私の中では完璧なお母さんだった。

「...あら」

日常会話や私の学生生活の話をしながらケーキを食べていた時、フクロウが一羽窓の外で待機していた。コンコンと器用に嘴を使って窓を叩き、首を傾げてこちらを見ていた。とても利口なフクロウだ。同室の子のだろうか?

「取りに行ってもいい?」
「えぇ、もちろん」

食べている最中だから、とりあえず許可を得て椅子を立ち上がる。窓を開けて手のひらを差し出した私の手の上に、そのフクロウは咥えていた手紙をぽつんと落とすとまた空へ旅立って行った。
誰からだろうと封筒を眺めれば、そこにはなんと"レギュラス・ブラック"の名前が。

「お友達からですか?」
「うん...あとでお返事しないと」
「明日はホグズミードにでも行きましょう。その時にふくろう便に寄るようにしましょう」
「本当...!?ありがとう、ミネルバ」

まさかの申し出に思わず笑顔が溢れる。3年生からしか行けないホグズミードに、この段階で行けるなんて結構お得だ。確かレギュの誕生日も近いし、なにかプレゼントも買って一緒に贈りたいなと思った。
何せ、彼にはココアを沢山もらったのだ。お返しをしなければ。

「もちろん。服も買いに行きましょうね」

まるで本当の親子みたいだ。いや、本当の親子ではあるのだけれど。







のんびりとした1日を過ごし終えて、一日の終わりである夜私はベッドに寝転びながら手紙を読んでいた。レギュから送られてきた手紙だ。中に書かれた文字は、1年間結構な頻度で見てきた彼の綺麗な文字。レギュはもしかしたらA型かもしれないというぐらい読みやすい筆記体で書かれてるそれ。まぁ血液型と性格は関係ないと思うけど。

そこに書かれてる内容は、少しだけ私の背中を凍らせるものだった。

夏休みの間、何を過ごしているのかという問いかけとともに、彼の過ごし方が書かれている。
一度だけ聞いた彼のお兄さんの話や、成績の話。ブラック家は高貴な家だからこその、社交界やそれら諸々のお話。

そこまでは良かったのだ。彼も彼で大変なんだな、と。そんな大変な中でも、私に手紙を送ってくれるぐらい、彼の中の私の位置は結構上にいるんだなとおもえたから。

それでも、途中で見えた闇の魔法使いであるヴォルデモートという文字が見えた時。
そのヴォルデモートの力と社会への影響力に見惚れてるらしいことが伺えた時。

思わず腕をさすった。


"この方の力は絶大だ。きっと、魔法使いが日の目をみるのもすぐそこなんだと僕は思う。"


闇の魔法使いになりたいとか、禁じられた呪文を使いたいとかそいういうことじゃないからいいかもしれないけれど。だからこそ、そういうんじゃないからこそ、彼のこの兆しは少し、私の遠い(ある意味で)過去の出来事が思い出されそうで、どきりとした。


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