いつだって無意識なその一言が。

『こんにちは、リン。今日のお昼は時間あるかしら?この前のホグズミードでのお土産を渡したいの』

いつものように朝ごはんを友達と食べている時、折り紙の鶴の形となって遠くから飛んできた羊皮紙が私の前にやってきた。フォークを置いてそっと中を確認すれば、リリーの綺麗な筆圧でそう書かれていた。周りを見渡して、グリフィンドールの長テーブルのところにいるであろうリリーを探せば、メガネを掛けたふわふわな髪をもった男の子に話しかけられて少しうんざりとしてる様子だった。

私の視線に気づいたのか、リリーは少しだけ笑顔を見せて私に手をふると、その隣にいる男の子の肩を押しのけて立ち上がり、教科書をもって大広間を出て行った。なんだか大変そうだ。その後ろ姿を最後まで見届けて、私も同じように教科書を抱えて立ち上がる。

「先に行ってるね」
「席とっておいてー」
「うん」

のんびりとパンにジャムを塗っている友達にそう声をかけて大広間を出れば、少しだけ早い「カツカツ」とした足音が聴こえて、くるりと振り返る。そこにいたのは、やっぱり予想していたのと同じ、黒い髪をもったレギュだった。

「おはよう、レギュ」
「あぁ、おはようリン」

私の隣に歩いてきて、ゆっくりと一緒に教室に向かっていく。彼の持っている教科書をちらりと見れば、同じ教科書があったからきっと同じ科目が今日あるのだろう。

「今日お昼、リリーと食べるんだ。ホグズミードに行ってきたらしいから、お菓子もらうの」
「あぁ...そういえばこの前が三年生の初めてのホグズミードだったか」
「レギュは行ったことある?」
「あぁ、何回かね。リンはあるのかい?」
「うん。義母に連れて行ってもらったの」

と、そこまで言った後にどこまで話したらいいのか、話していたのか分からなくなって少しだけ喉を詰まらせた。ちらりと隣のレギュを見れば、特に気にしていないらしいしまぁいいか?

「たのしんでおいで」
「うん!」

一体どっちが歳下で歳上なのか。レギュが相手だとそんな事気にする必要もないんだけど。









「はぁい、リン」
「リリー!」

お昼になり、友達と別れて中庭に向かえば、リリーが可愛らしい包み紙を持ってこっちに手を振っていた。彼女の隣にはスネイプさんもいて彼らの前に立って小さくお辞儀をする。

「ごめんなさいね、急に呼び出しちゃって」
「ううん。昨日はどうだった?ホグズミード楽しかった?」
「えぇ!とても賑やかで楽しかったわ!ねぇ、セブ」
「...あぁ」

スネイプさんはリリーの前だと少しだけ優しい顔をする。笑顔になるのだ。噂話とかに疎いハッフルパフの生徒にでも伝わってくるスリザリンのスネイプさん。彼はいつも鬱々とした表情でいるらしいけれど、私はいつもリリーの隣にいる彼しか見た事なかったからその噂はよくわからない。やっぱり、見たものだけを信じるべきだと思うから。

「これ、貴方にお土産よ」
「わぁ...いいの?」
「えぇ、もちろん。ほら、セブも」
「...あぁ、これ」
「いいんですか...!?」

まさかスネイプさんからももらえるとは思っていなくて。思わず目を大きく見開きながらおずおずと手を伸ばす。リリーからは甘い香りの際立ついろとりどりの綿飴。スネイプさんからは一年間切れる事のないインク。こういう時魔法ってすごいなと思う。

「ありがとうございます、二人とも」
「いいのよ」
「構わない」

こういう時だけはやっぱり敬語で言うべきだと思うのは日本人特有なのか。私は下げていた頭をもう一度あげて、二人を見つめる。あぁ、寮の違う私にもこんなに優しく接してくれるなんて、私はいい人達に本当に出会ったらしい。

「おやおや?そこにいるのは見目麗しい僕の恋人、リリーじゃないか!」

ほんわかと3人でニコニコ笑っていたその空間が急に凍ったのは、毎朝のように聞こえてくるあの声が入って来たから。リリーの顔がそれはもう怖い般若のような顔になっていて、スネイプさんもこれでもかというぐらいに眉をしかめている。

「...行きましょう、セブ、リン。お昼食べに行きましょう」
「あ、うん」

リリーに手を引っ張られる形で歩き始める。あまり後ろを振り返るのもいやだし、前を向いたままリリーの後ろを歩いていれば、メガネをかけた男の子と髪の黒い男の子がニヤニヤ笑いながら私達の前に立ち塞がった。

「スニベルス、リリーの手を触らないでくれるかい?」
「その名前で呼ぶな!」
「おいおいホグズミードに行ったのか?その鬱々とした顔で?」

なんだっけ。名前なんだっけ。悪戯仕掛人とか言ってる人達だ。あと、レギュのお兄さんもいる。ハッフルパフにいるとそういう噂話というのに疎くなる。それはきっとハッフルパフ生あるあるなんだけど、やっぱり自分の性格が少し冷たいからなのか、興味がわかないせいなのだろう。
目の前で繰り広げられる言い合いをなんとなくぼーっと見る。リリーもスネイプさんも、とても怖い顔をしていた。

「闇の魔術に傾倒してるくせに!」

どっちの言葉かは知らない。だけど、その言葉が引き金になったのは確かにわかった。言い合いをしてる4人の言葉がどんどん遠くになるのがわかる。息が苦しい。リリーの手が私の手をつかんでいるおかげで、なんとか支えになっている。私はその場で膝を付き、胸元のネクタイを鷲掴みにした。



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