君の事が知りたいと思った

あぁ、そうだ。今日のお昼は彼女はいないのか。

大広間のテーブルに座りながら、パンを口に放り込みながらなんとなく周りを眺める。いつもならいるだろうリンがいないことから、今朝話したことを思い出して、ゴブレットの中にある水を飲み干した。

「おい、レギュラスどこいくんだよ」
「少し散歩だ」

同じ寮のバーティにそう言って、残りの授業の教科書を持ちながら歩く。結局向かう場所は中庭なのか、無意識というのは怖いなと内心苦笑をした。
彼女の姿を探しているつもりでもないのに、キョロキョロと周りを眺めていれば、毎日のように聞こえてくるスネイプさんを虐める兄さん達の声が聴こえて、あぁまたやってるのかとうんざりとした気持ちでその場を去ろうとした。

「リン!?」

のに、エバンズさんの声が耳に届いて思わず振り返る。地面に膝をついてエバンズさんに背中をさすってもらいながら苦しそうにしているのは、紛れもなくリンだった。

思わず持っていた教科書をその場に投げやり、彼女のいるところへと走り寄る。何があったのかはわからないけれど、エバンズさん達の焦り具合から察するに、本当に急な事だったのだろう。

「リン!!」
「...レギュ...!?」

兄さんの声が聞こえるけれど今は無視だ。彼女の背中に手を伸ばして、顔を覗き込む。リンは苦しそうに大きく口を開いてなんとか息を吸い込もうとしている。

「落ち着け、リン、ゆっくり吸うんだ」
「...っは...っは...!!」

背中を何度かゆっくりと撫でて、彼女の頭を自分の胸元に抱え込む。昼だというのに中庭にはあまり人がいない。それだけが唯一の幸いだった。

「医務室に連れて行きます」
「リン...!!」

エバンズさんも焦ってるし、今は二人も世話してる場合ではないので彼女はスネイプさんに任せよう。彼の目に目を合わせて、こくりと1つ首を縦に振って立ち上がる。リンの背中に腕を伸ばしてなんとか彼女の歩幅に合わせて歩いた。











「...ごめんね、レギュ」
「いいんだ。落ち着いたかい?」

ベッドに座らせて、優しく頭を撫でればなんとかリンも落ち着いたようで、申し訳なさそうに眉を下げてそう謝って来た。俺は首を横に振って、彼女の頭から手を離す。

「何があったんだ?」

ゆっくりと隣に座りながらそう聞いた。とくに何があったわけでもないのかもしれないけれど、リンは俺の目をじっと見ると、困ったように笑みを見せた。

「...無理して言わなくてもいい」
「...ごめんね」

出会った時から、彼女はどこかミステリアスなところがある子だった。あまり見かけないアジア人だからという事もあるのかもしれないけれど、それでもどことなく儚い所があるのは、リンの特徴だと思う。
今はそれが、もどかしい。彼女と過ごしてまだ2年目。たかが2年だと笑う人はいるだろう。それでも、俺を色眼鏡を掛けて見てこない彼女に特別な何かを感じるのは、いけない事なのだろうか。

「...いつか、きっと話す」
「うん」
「きっと、レギュにはきちんと話すから...」
「うん」

僕の手を手繰り寄せるように、ぎゅっと優しくそれでもどこか力強く握る彼女の手に、手を重ねる。2歳年上だからといっても、リンだって女の子だ。まだまだ細く白い腕が、何を抱えているのかはわからない。彼女のことを知っているようで、僕は何も知らないのだから。

「...僕は、君の事を分かっているようで分かっていないんだな」
「レギュ...」
「それでも、君が話せると思った時まで僕は待つよ」

震える彼女の肩に手を置く。これでもかと見開かれた黒い目に僕の顔を映させて、口角をあげてみた。うまく笑えているだろうか。彼女のように、綺麗な絵笑顔を見せることができただろうか。

「...ありがとう、レギュ」

小さく震えた彼女の声に、僕はゆっくりと首を縦に振った。


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