注目なんてしてるわけでは無い

ホグワーツにはそんなに東洋人はいない。東洋の方にも魔法学校があるのだから、そりゃあ当たり前だとは思うけれど。組み分けの時にも、あいつの存在は少し異質だった。一人だけはっきりとしない顔立ちの、周りより少し背の高い新入生。どうやらそれが日本人だという事を知ったのは、組み分けが終わって少し経ったぐらいだったか。

「やぁリリー!今日も君は美しいね!」
「騒がしいのは嫌いだと何度言えば分かるのかしら、ポッター」

あいも変わらず繰り広げられる二人の言い合いに半ば呆れながら、俺は目の前にあるスープに口を運ぶ。ピーターにサラダを盛り付けているリーマスたち越しに見えたハッフルパフのテーブルには、渦中(俺の中で)の人物がそこにいた。

急に目の前で過呼吸を起こして倒れたあの日本人は、本当にこれまた急に現れた自分の弟によって颯爽と医務室に連れていかれた。

『リン!リン!』
『落ち着けリリー、今はレギュラスに任せよう』

呆然とあの二人の背中を見届けた。特に何か言ったわけでもないし、あいつがいた事にも気づかなかったぐらいだ。取り乱したエバンズの腕を押さえつけて、必死に話しかけるスニベルスに何も口をひらけないぐらい、ジェームズだってあの時は立ち尽くしていた。

まぁたしかに急に倒れ込まれたら誰だって驚きはする。そんな事よりも、だ。俺としてはスリザリンに組み分けされた我が弟とハッフルパフ生が仲良くしているという事に驚きを覚えた。スリザリンは知っての通り、スリザリン内でコミュニティーを作っているとばかり思っていたからだ。それにハッフルパフも、まさかスリザリン生と仲良くしてるだなんて思わないだろう。それは俺がグリフィンドールだからなのかもしれないけど。

「あぁ...リリー...」

気づけばエバンズはその席を立ち上がっていたのか(あんなにうるさかったら誰でも去りたくなるわ)、ジェームズが変な声をあげながら机の上にうなだれる。
どこに行ったのかと彼女の背中を追いかければ、エバンズはどうやらハッフルパフのテーブルに向かっていたらしかった。

「リン、もう体調は大丈夫なのね...!!」

エバンズの甲高く大きい声が聞こえる。(あぁ、あいつの名前リンって言うのか)申し訳なさそうな顔で頭を下げるあいつに、エバンズは何度も首を横に振ってあいつの背中に腕を回していた。よっぽど心配していたらしい。

「あーあ...いいなぁあの子...リリーに抱きしめられてるよ...」

首を後ろにまわしながらそうぼやくジェームズに呆れながら俺は笑う。

「あの子とリリーが仲良しだったなんて...組み分けの時に話しかけてしまえばよかったと心底後悔しているよ僕」
「ジェームズ」
「怖い怖い、そんなに怒らないでくれリーマス。ただ単に、東洋人はめずらしいだろう?それだけさ!」

ジェームズのデリカシーのない一言に保護者でもあるリーマスがきつい声で言葉を投げかければ、ジェームズが笑いながら肩を竦ませた。そして俺の顔をみて、ジェームズはにやりと笑みを深ませる。

「シリウス、君の弟とあの子が仲良しだったなんて、教えてくれなかったじゃないか」
「知らなかったんだよ」
「へぇ?まぁかくいう僕も、スリザリン生とハッフルパフ生の友好関係なんて調べようと思った事もないけれど」

誰だって思わないだろ。東洋人とブラック家の人間が繋がってるなんて。ましてや純血の家でもない東洋人と。極め付けにはスリザリンとハッフルパフだ。誰がこの二人は仲が良いだなんて思うんだよ。なぁ?

「まぁでも当分は面白いよね」
「ジェームズ、関係ない人を巻き込むのは...」
「あぁはいはいわかってるよ」

適当にそう答えたジェームズを、まだリーマスは睨んでいるが俺はそれを笑いながら見て遠くの方に歩いていった日本人のあいつを目で追った。その後ろには、レギュラスが付いていくように歩いていて、あぁなるほどそりゃ気づかねーわなんて一人でごちた。

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