『リン、元気かしら?ホグワーツでの生活はもう2年目ね。もう慣れてきた?お友達とはどう?貴女のことだわ、心配はいらないわね。
こっちはもう秋で、綺麗な紅葉が景色を彩っています。写真と、紅葉を栞にしたモノを中にいれておきました。あいも変わらずこっちでの仕事は大変なことばかりで忙しいけれど、忘れずに私は貴女の無実を訴えているわ。もう少し待っていてね』
お姉ちゃんからの手紙を読み終えて中を見れば、綺麗な赤い色の紅葉が押し花された栞と、写真が一枚入っていた。鮮やかな紅葉をバックにした、ローブを着ているお姉ちゃんと知らない男の人二人が写っている。なんとなく見覚えのある顔だなと思っていれば、あぁそうだ、あの時校長室でお姉ちゃんの腕を掴んでいた男の人だ、と思った。
校長室で最後に会った時の。焦ったように中に入ってきたお姉ちゃんのことを後ろで宥めていたあの男性。幸せそうに映っている二人を見て、私まで幸せになりそうだった。
「...リン?」
手紙をしまって、大事に大事に何度も優しく撫でていれば、レギュの声が聞こえた。ベンチに向かってゆっくり歩いてきてる彼の足音に耳を傾けて、私はそっと隣に移動した。
「こんにちは、レギュ」
「あぁ」
隣にゆっくりと座るレギュを見て、笑顔を浮かべる。レギュも同じように唇の口角を上げて、私の手にある手紙をちらりと見た。
「これ?」
「あぁ...ごめん、聞いても?」
「うん。お姉ちゃんからのお手紙だよ」
「姉がいたのかい?」
「んー血は繋がってないんだけどね孤児院でお世話になった人なの」
血は繋がっていない。それでも、あの人は私のお姉ちゃんだ。中にある写真を取り出して、レギュに見せる。長い黒髪をサラサラと風に揺らしながら、ニコニコと笑っているお姉ちゃんを。
「美人でしょ?」
「あぁ...隣にいるのは?」
「多分お姉ちゃんの彼氏さんかな」
正確に明言されてるわけではないけれど、二人の姿を見ればわかるものだ。こんなに幸せそうな姿なんだから、二人は素敵なカップルなのだろう。
「お姉ちゃんはね」
お姉ちゃんは、とても格好いいんだ。美人で、頭も良くて、優しくて、明るくて。私もこんな人になりたいと強く思った。きっといつか、お姉ちゃんみたいな人に。それを破ってしまったのは、自分自身の行いのせいなんだけれど。
「...学校でもとても人気のある人だった」
「学校?」
「うん。私途中までは魔法処に通ってたの。日本にある魔法学校で、お姉ちゃんもそこに通ってたんだ」
「へぇ...偶然二人も魔女がいたのか、その孤児院には」
「うん、凄いよね」
そうだ。孤児院に、偶然二人も魔女がいた。それだけで信じられないことなのに、私はその人からたくさんの愛を受け取っていた。こんなにもいっぱいの愛を。それを私はどうやったら返していけるのだろう。もう、日本には戻れないというのに。
「日本に...戻りたい」
お姉ちゃんに、会いたい。心の底から、とても。
不意に流れ落ちた涙が、ぽたりぽたりと封筒の上に落ちる。イギリスに来て2年経って、私は色んな人に支えられている自信がある。沢山の縁が私を守ってくれているって、理解している。ダンブルドア先生、ミネルバ、レギュ、リリー、スネイプさん、寮の友達だってそうだ。皆、優しくて。私が禁じられた呪文を使って日本を追い出された魔女でも、優しく接してくれるんだ。
それはきっと、知らないからなのかもしれないけど。
レギュの腕が伸びてきて私の頬に指が触れた。涙がレギュの指に流れていく。
そっと割れ物に触れるかのように、指先がゆっくりと動く。涙を拭ってくれたレギュの指がストンと落ちて、視界の端に消えた。
「いつか...君のお姉さんに会ってみたい。いつか、君の過ごしていた孤児院に行ってみたい。僕と、出会ってくれた君の過去を、思い出を、共有してみたい」
レギュはそういうと、私の頭を優しく撫でて、続ける。
「君のことが知りたいんだ、リン。君の事を、もっと」
そっと顔をあげて、レギュの顔をまじまじと見つめる。レギュの、太陽のように暖かい笑顔が私の目を見つめてくれた。