過去の記憶がある

どうしたって受け止められない現実や出来事というものはあって。私の頭にしかないその光景が夢に出てくることなんて、ざらにあった。

「...リン...!!リン...!!」
「どうしたのよ...?」
「凄い汗だわ...

自分の名前が呼ばれた気がして目を開けた。深夜にも関わらず部屋に電気をつけて私の顔を覗き込んでいるのは、同室の友達3人だ。3人とも、心配そうな顔で私の顔に滴る汗をハンカチで拭いたり背中に腕を伸ばしてゆっくりと上体を起こしてくれた。

「ごめんね...ありがとう」
「大丈夫?凄いうなされてたわよ、貴女...」
「はい、暖かいミルク出しておいたわ」
「代えの服はもう乾いてる?取り出してあげるわよ」

心優しい人が集まるハッフルパフ。この寮は本当に、優しい人達でできていると本当に思う。明日も当たり前のように授業があるというのに、皆そんな事気にせずに心から私の事を心配して起き上がってくれたのだ。

「大丈夫だよ。ごめんね。ミルクもありがとう」

差し出されたホットミルクに手を伸ばし、ゆっくり喉に入れていく。暖かいミルクが身体中を温めて、ホッと一息つけば皆が安心した笑みを浮かべてくれた。

「本当に大丈夫?」
「うん、大丈夫。ちょっと変な夢を見ちゃったの」
「そう...?」

心配させないためにも笑顔を浮かべて、何度か頷いて笑顔を見せれば、全員が少し安心した顔で私から離れてベッドの近くで立ち上がった。数人が私のおでこに手を伸ばして熱があるかを確認した。

「うん、大丈夫みたいね」
「よかったわ。寝れそう?」
「うん、大丈夫」
「電気消すわよ」
「うんありがとうね」

ホットミルクの入ったマグカップをベッドの近くのテーブルに置いて、全員がベッドに入るのを確認して電気が消えた。ゆっくりとベッドに潜り込み、寝返りを打って窓から漏れる月明かりを睨んだ。

忘れるわけがないのだ。忘れてはいけないことだし、この記憶は一生私の頭に住み着くのだ。息絶えた時のあの男の悲鳴と表情が忘れられない。泣き叫んでいたお姉ちゃんの声が一生忘れられない。

後悔と恐怖がずっと私を襲ってくる。どんな時だって、私を捉えて離してはくれない。いつだって、私はこれと生きていかないといけないのだ。








「はい、リン、これを飲んで」
「うん、ありがとう」

昨夜のことがあったからか、今朝は同室の子が皆して甲斐甲斐しく私に水やサラダをよそってくれた。そこまでしてもらう筋合いもないけれど、皆が好意でやってくれる事だからありがたく頂戴した。

「本当にもう大丈夫なのね?」
「うん、大丈夫だよ」
「この前過呼吸で倒れたって聞いたし...ちゃんと栄養とるのよ」
「はいはい」

年下の子達ばっかなのに、こんなにもしっかりとした子達で、内心私はびっくりしている。少し苦笑を浮かべて顔を上げれば、ちょうどスリザリンの席からハッフルパフの席を見ていたレギュと目があった。
少し複雑そうな目でこっちを見ている彼に、にこりと笑みを浮かべて上げればレギュは少し口角を上げてレタスを口にほうばった。

心配させてはいけないから。レギュも優しい男の子なんだ。

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