それがなんだというのだ

去年は彼女の誕生日を知らなかったから、プレゼントを遅めに渡してしまった。だけど今年こそは、きちんと当日に渡してあげようと思い早めに家にいるクリーチャーからココアとクッキーを送ってもらった。

『シリウス様にも、おすそ分けをなさってあげてくださいませ』

そうかかれた手紙を閉じ、小包に入れられている物を見る。兄さんに渡せというのか、あいつは。思わずでそうになるため息をすんでの所で飲み込み、ベッドから立ち上がった。

「どこ行くんだよ、レギュ」
「少し用があって」

同室のバーティの言葉にそう返し、寮をでた。グリフィンドール寮に向かいがてら、大広間でリンがいるかだけでも確認しようかと思い足を向けた。大広間には夕ご飯を終えた今もまだ残っている人達が数人いた。

その中にはリンの姿もあった。寮の友達だろうか。数人に囲まれながら教科書を開いて勉強をしているようだ。先に彼女の方に話しかけに行こうと思い、足を大広間の中に向けた。

「リン」

彼女の名前を呼んで、肩に手を置く。リンはこっちを振り返ると、少し驚いたように目を見開いて笑顔を浮かべた。となりに座る彼女の友達が少し驚いたあと、ゆっくりと立ち上がり僕の分の隙間を作ってくれた。ごめんと一言告げて、そのとなりに腰をかけて彼女に話しかけた。

「どうかしたの、レギュ」
「いや。君の姿が見えたから、近寄って見た。勉強?」
「うん。魔法薬学のレポート出されたでしょう?それ」
「あぁ...ヨモギからつくりだされる魔法薬学の応用か」
「レギュはもう終わった?」
「あぁ、昨日終わらせた」
「さすが〜早いなぁ」

ニコニコと笑いながら見つめて来る彼女を見つめ返す。顔にかかった髪をどけるように耳にかけなおすリンの仕草を見て、同じ黒髪なのにこんなにも違う綺麗さがあるなとなんとなく思った。

「明日...」
「うん?」
「お昼、僕のためにあけてくれないか?」

明日はリンの誕生日。彼女のために用意したプレゼントを当日に渡してあげたい。気づいてくれたのだろうか。リンはたまにみせる、年上らしい大人っぽい視線で口角をあげた。

「もちろん」

その言葉を聞いて、同じように笑顔を見せたあと僕は立ち上がりリンの頭を一つなでた。

「おやすみ。早めに寮に戻るように」
「うん。おやすみ」

グリフィンドール寮のテーブルで肘をついてずっとこっちを見ていた兄さん達の方に近く。後ろではリンの友達だろうか、女子の少し甲高い声が聞こえた。

「...兄さん」

僕から話しかけることはあまりない。というより、今までもなかったんじゃないだろうか。珍しそうに眉を上げて僕を見上げる兄さんに、ローブのポケットにいれていた小包を取り出す。

「...クリーチャーから、兄さんに、と」
「...クッキーか」

小包をい受け取った兄さんはそれをなんとなしに見つめたあと、何かを話したげな目つきでじっと僕を見つめてきた。

「...何か?」

静かにそう聞けば、兄さんはリンのことを少し見たあと、また僕を見て口を開く。

「あいつと仲良いんだな」

その言葉にどんな意味が込められているのか、わからないほど鈍感なわけではなかった。純粋に仲が良いとは思っているし、きっと他の人には違う気持ちを抱いているのもわかっている。だけどそれを、実の兄である彼に、ブラック家から離れようとしている人間に、言われる筋合いはないだろうと思った。

その言葉を無視して、僕は大広間の扉に向かって歩き出した。後ろでは、ジェームズさんたちの「シリウス、君無視されてるじゃないか」「うるせえよ」といった会話が聞こえたが、全て遮断しておいた。

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