再び幸せが訪れますように

誕生日にともらった友達からのたくさんのプレゼント。それらに笑顔を浮かべてありがとうを伝える。
英語がずらりと並べられてた分厚い本に、甘そうなクッキーやチョコ、星を彩ったネックレスに、綺麗な香りのするコロンやら、去年に比べてたくさんのプレゼントに私は少し戸惑いを隠せないでいた。

「ありがとう皆…でも、こんなに沢山…」

朝食を食べている人の多い休日の大広間、ハッフルパフの寮生達が座っている長椅子で、私は少し困ったような笑みを浮かべて、皆からの握手やら言葉やらをうけとっていた。
同室の友達を筆頭に先輩や後輩までもが、手に何かを持ちながら私の横や前を行ったり来たり。

「貴方の誕生日なのよ?」
「ハッフルパフ全員でお祝いするに決まってるじゃないか」

さも当たり前だとでも言うかのように、目の前の人たちはネクタイの色と同じような満面の笑顔でそう答えた。

「…でも、どうして…?」
「リンの誕生日だもの。皆が、貴方を大好きに思ってるのだから当然でしょ?」

逆に驚いた顔でそう言われて、私はすこし呆気にとられた。
何を根拠に、大好きだと言ってくれるのだろう。今までの行動を思い浮かべても、何も思いつかない。そんな私をみてか、同室の友達は皆面白そうに口に手を当てて笑い出した。

「自覚が無いだなんて」
「どこまでもリンらしいわね」
「私らしい…?」

1人がそういった。

私らしいとは一体どういうことだろう?
皆は何を思って私を好きだと言ってくれるのだろう。
少し疑問に思いながらも、私はレギュとの約束があったため、少し早く皆の輪から離れて中庭の方へと足を向けた。(プレゼントは一度寮に戻って置いて来た)

「レギュ!」

彼はそこにいた。誰も座っていない長椅子のそばに、遠くの方を見るかのように立ちながら。風に揺られた綺麗な黒髪が、私の声を聞いたのか少しだけこっちに意識を向けた気がした。

「リン」

レギュは笑みを浮かべてこちらを振り向いた。
一年生に出会った時とは比べられないほどに大人っぽい顔になったレギュ。きっとこの先もずっと、彼はこうやって成長していくのだろう。
私は少し歩幅を大きくして、急いでレギュの元へと向かった。

「ごめんね、お待たせ」
「いや。寮の皆からお祝いしてもらえたかい?」
「うん、たくさんね。さっき部屋にプレゼントは置いて来たの」
「そうか」

レギュは少し口を閉ざすと、後ろに隠していたらしいプレゼントを私の前に差し出した。

「一つ目は、これ。君の好きなココアと、クッキー詰め合わせだ」

それは綺麗な箱に包まれたクッキーたちに、袋に包まれていても感じるほどに甘い匂いのするココア。思わず溢れんばかりの笑みがこぼれ落ちていたのだろう、レギュはその端正な顔には少し不似合いな笑みを浮かべていた。

「こんなにたくさん…!いいの?」
「当たり前さ」

両手を差し伸ばして大事に受け取る。胸いっぱいに、レギュにもらったその箱を抱きしめた。

「次に、二つ目」
「二つ目?」

何個もくれるだなんて、なんて優しいのだろう。それと同時に少し申し訳なさもあって、びっくりしながら彼の手を追った。後ろに隠されたままの、レギュの左手が目の前に出てくる。その手には、素敵な香りに包まれた、シンプルな白いリボンで包まれた、花束。

白色の花の、花束。

「君に、これを」

白い蕾のような花が垂れ下がっている、スズランだ。

可愛らしいその花束に、私はゆっくりと手を伸ばした。

「…いいの?」
「もちろん」

少し揺らせばまるで鈴が鳴るかのように揺れるスズラン。私はそれを、じっくりと見つめたあと、レギュの目に目を合わせて、ありったけの想いを込めてありがとうと言った。

「…どういたしまして」

目を細めてそういったレギュに、私は聞いてみたいことがあった。

スズランの花言葉を、知っている?

だけどそれを聞くことはせずに、私はレギュと目を合わせたまま、静かに2人で笑い続けた。

きっとこれが、再び訪れた幸せなのだと思いながら。


ALICE+