大好きな人へと、変わるとき。

三年生になった。

伸びてきた前髪が少し邪魔になってきた。長期休暇の間にミネルバにピンを買ってもらい、付けてみた。とてもかわいい小ぶりの花がついたピン。ホグズミードで見つけた時に、思わずミネルバにおねだりしてしまった。

『リンは顔を出していた方が明るくてかわいいですよ』

ミネルバはそんなことを言ってくれた。思わず、そんなことを思い出して口元が緩んだ。かわいい、なんて。そう言ってくれる人が今でもいるとは。

『リンはとってもかわいい女の子だもの、きっといつか素敵な人があなたのもとに現れるわね。そうなったら、お姉ちゃん...』

そういえば、孤児院にいた時、お姉ちゃんと恋話をしたことがある。お姉ちゃんのお部屋で、布団をかぶって話した。周りの子達に聞こえないように顔を突き合わせてこそこそと。

『お姉ちゃん、泣いちゃうなあ...』

いつ来るかもわからない私の未来の姿を思い浮かべて、お姉ちゃんはニコニコと笑ってくれた。きっと私に素敵な人が現れて、幸せになって、私に似てる子供ができて、そして私はその子にもお姉ちゃんって呼ばれるのかしら、なんて。

とても幸せそうに、お姉ちゃんは私の未来を想像していた。




「リン?」

列車のなかを歩いていれば、聞きしたんだ声が聞こえた。
空いている箇所はないかなとキョロキョロしている私の手を掴んで引っ張るのはレギュ。
また見ないうちに、彼は背も高くなっていた。数ヶ月前までは同じくらいだったでしょ?男の子の成長は早い。思わずみあげるように彼をみていれば、レギュは私のことを呆れたようにみて、息をついた。

「ここ、空いているぞ」

レギュのいたコンパートメントには誰もいなかった。相変わらずブラック家というのは恐れ多い存在らしい。手を引っ張られて、私はすとん、と椅子に座った。前にはレギュが優雅に座る。

「お久しぶり、レギュ。元気だった?」
「ああ。君は?」

長期休暇に入る前。私はダンブルドア先生に、できればスリザリンとは話すなと言われた。闇の魔法使いは日本にも侵食しているし、この国も、暗くなった。闇に包まれているなと思うところもある。ホグズミードい行けばノクターン街がすぐそこにあったし。ミネルバに、あまり不要に歩くなとも言われた。

そんな中、禁じられた呪文を使って国外追放された東洋の魔女が、ホグワーツにいると知られたら。
私は、どうしたらいい?今目の前にいる大好きな、大切な人がスリザリンだ。
闇の魔法使いに少し興味を抱いているこの人は、私のことをどうみている?

頭の中は、それで一杯になった。


「...リン?どうかしたかい?」
「あ...」

気づけばレギュが近くにいた、前にしゃがみ込みながら私の顔を覗き込むように見上げていた。近い顔に少し驚く。
私は知らないうちに、顔を俯かせていたらしい。頭にあることでいっぱいで、レギュの話を聞いていなかったみたいだ。

「ごめん、レギュ...!」
「いや...少し体調が悪いみたいだ、寝るかい?」

レギュがそっと私の隣に座った。
背の高くなったレギュはもちろん、座高だって高い。私の頭付近にある肩が私の頭を乗せるために、近づいた。

「いいよ、肩を貸す」
「そんな、悪いよ?」
「顔色も少し悪いし、着くまでまだまだ時間はあるから」

ほら、と。レギュは私の肩に手を伸ばしてそっと力を加えた。列車の動きに合わせて頭がぐらりと揺れて、レギュの肩に乗った。
近い距離に少しだけ心がどきりとする。レギュは私の肩から手を離して、そのまま背中を少しさすってくれた。

「おやすみ、リン」

優しい声音が、私の耳を揺さぶった。

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