優しくて甘くて可愛くて、それでもやっぱり離れない


「リン!!久しぶりね、元気だった?」
「あらリン!前髪のそのピンとても素敵じゃない似合っているわ!」

長期休暇も開けて、自分の部屋に入ればそこにはすでにルームメイトの同級生がベッドに座って話し込んでいた。入った瞬間にそう声をかける二人に、私は思わず苦笑をこぼす。いつでも元気なこの子達は、私の元気の活力だ。

「気づいた?前髪長くなっちゃったからピンで止めてみたんだよね」

荷物をベッドに置いて、一つのベッドで固まって話している彼女達に近づく。私が座れるように、ベッドの場所を開けてくれた子にありがとうと言って、ゆっくりと腰を沈めた。

「あら、遅かったわね」

扉がかちゃりと開かれる。三年生にもなれば、日本人とは違う欧州の人の顔つきはそれはそれは綺麗なものになる。ほぼ大人と言ってもいいぐらいの顔が、扉を開けて入ってきたもう一人の女の子へと笑いかけていた。

「ふふ、彼氏に久しぶりに会ってしまったから。お話ししてたの」

そう、三年生にもなれば、恋の話も出てくる。
長期休暇に入る前に比べて、顔も体も大人になった彼女達には、恋人ができていた。同じ寮内に作る子もいれば、違う寮に恋人がいる子もいる。皆して、大人びているなぁと思う。それでも、14歳ならできるものか。私は彼女達より2歳も上だというのに、恋人のこの字もないから面白い。


まぁ、私が恋人を作れるわけは、ないのだけれど。








「リン、久しぶりね、長期休暇は楽しめた?」

授業と授業のあいま、廊下を歩いていればリリーにあった。リリーは教科書をたくさん持ちながら、優雅に歩いていた。

「こんにちは、リリー。うん、楽しんでたよ」
「あら、前髪止めてるのね?可愛らしいピンだわ」

会う人会う人皆にこのピンを褒めてもらえる。ミネルバが私に買ってくれたピンを褒められるのは、とても嬉しかった。ミネルバを褒めてもらえるような気がしたからだ。
いいでしょう、これは私の母親が買ってくれたの。私の母親は、ミネルバなんだよ。

許されるなら、大きい声でそう言いたいぐらいに。



「ありがとう、リリー」
「今年の誕生日プレゼントは何かアクセサリーでも贈るわね」
「そんな...!!いいの、気にしないで?」
「いいのよ、むしろ贈らせてほしいわ」

リリーはとても可愛らしい笑顔でそういった。
嬉しいような、申し訳ないような、そんな気持ちに浸っていれば、リリーはそういえばと声をあげた。

「リンも3年生よね?ホグズミードには行けるの?」

3年生になると、ホグズミードに行けるようになる。
私はすでに、親であるミネルバからサインをもらっていた。もちろんサインを貰わずとも、私はすでに何度もいっているのだけど。

「うん、サインもらったから行けるよ」
「いいわね、機会があったら一緒に行きましょう?おすすめのお店が何個かあるのよ」

リリーは私にそういうと、それじゃあまたね、と最後に残して去っていった。颯爽と歩いて行くリリーの後ろ姿に、またねと手を振る。
ホグズミードに一緒に行くというのは、結構大事なことらしい。同室の皆は恋人と行くと言っていた。私に恋人がいないから、すごく申し訳なさそうな顔をしていたっけ。

『次のホグズミードは一緒に行きましょうね、リン』
『そんな、気にしないで?皆彼氏と一緒にいきなよ。デートなんて中々できないんだから』
『だけど私たちリンのことも大好きなのよ!』
『そうよ!!次は絶対に四人で行きましょう!なんなら、リンも彼氏作りなさいよ!』
『そうよ...同じ寮のデイビットなんてどう!?彼、いつもリンには優しく接してるわ!』
『やだ、ダメよ!デイビットなんてチャラついてるだけだわ、それよりはシルバ・ロイズなんていいじゃない!』
『あんな根暗のどこがいいのよ!?』

三人で勝手に騒いでは盛り上がり、同じ寮の男子生徒を貶したり褒めたりしてるのは、みていてとても面白かった。
きゃっきゃっするのはどんな世界でも共通事項らしい。女の子と話すのって楽しいな、となんだか自分がおばさんにでもなったようにそう思えるぐらいには。

同室の子達の会話を思い出しながら、私はまた歩き出す。前髪に止めてあるピンに手を伸ばして何度かさすってみた。リリーは多分スネイプさんと行くだろうし、同室の子は恋人と行く。一人でホグズミードに行くのもなぁ。だけど、新しいピンも何個か欲しい。少し困ってしまったけれど、まぁいいか、なんて思いながら私は手を離した。
ミネルバにもらったピンがあれば、それでいいよね、なんて思いながら。

ALICE+