海に見る君の事

長期休暇に入った。何度目のお休みだろう。ミネルバは今日はホグワーツに行くと言っていたから、広いお家に一人。家の近くの崖の下は海で、あまり外は出歩かないようにと言われていたけど、敷地内だからいいかなと思って歩いた。

ミネルバいないし。怒られないだろう。

風が吹いて、寒い。海の近くは潮の匂いがして、髪の毛が崩れそうになった。これは確かにあまり歩かない方がいいかもしれない。

そんなことを思って、私は立ち尽くしたまま下の海を見ていた。崖に打ち付けられるごとに白くなっていく海の波。別に面白いものでもなんでもないけど、一人で部屋にいるよりかは、面白い。

その時、フクロウの鳴き声が聞こえた。お昼の時間にフクロウが鳴くことはそうそう無い。と、言うことは手紙を届けに来たのだろうと空を見上げた。

案の定、フクロウは私の足元に降り立ち、その嘴に咥えている手紙と小包を私に寄越した。

「ありがとう」

お礼をこぼして頭を撫でる。目を細めて気持ちよさそうに唸った後、フクロウはまた飛び立っていった。

手紙を確認する。差出人は、RAB。レギュからだった。

『誕生日プレゼント、ありがとう。万年筆、使わせてもらう。
クリーチャーに君の話をしたら、今度会いたいって言っていた。いつか、俺の家に招待できたら、するよ。良い休暇を』

小包には、そのクリーチャーが作ってくれたらしいクッキーが包まれていた。美味しそうなクッキー。一度廊下で食べたあのクッキーかな。心が暖かい。

手紙とクッキーを胸に抱きしめて、私は部屋に戻った。ミネルバが帰ってきたら、夕ご飯の後に一緒に食べよう。美味しい紅茶をこの前ミネルバが買ってきてくれたし、それも一緒に。楽しみだな。離れていても、私にワクワクをくれるのは、レギュだけだ。







休み明けの最初のクィディッチの試合は、ハッフルパフとスリザリンだった。あまりクィディッチには興味の薄いハッフルパフでさえ、スリザリンと戦う時だけは全員が力を合わせて応援する。寛容と見せかけた無関心がウリのハッフルパフでも、スリザリンだけは嫌いらしい。

なんと言うか、こう言う時だけ都合がいいな、と若干思ったりする。

「いきなさいロジャー!」
「そことれよスピナーズ!!」

立ち上がりながら、自寮の選手の名前を叫んで応援してる友達や先輩、後輩を見て思わず笑った。なんだかんだ言って選手の名前皆知ってるんだもんな。そう思うと、あまり名前を覚えていない私の方が薄情だったりするかもしれない。

「…レギュ…」

手をさすりながら、胸元の服を握りしめる。目の前を颯爽と飛んで行ったのは緑色のユニフォーム。シーカーの、レギュだった。

頑張って、レギュ。

スリザリンじゃないのに、私はハッフルパフの応援をしないといけないのに、それでもやっぱり、レギュを応援してしまう自分がいた。

見事な箒捌きで空を飛び、スニッチを追いかけるレギュの姿だけが、はっきりと見える。早いのに、その姿を捉えることさえむずかしいはずなのに、それでも、彼の姿の輪郭も顔に浮かべてる表情もよく見える。

「頑張って…」

小さく、つぶやいた。歓声が広がる。黄色と緑のユニフォームがぶつかり合って、その手にすニッチを掴んで上に掲げたのは、レギュだった。

「スリザリン、シーカーのレギュラス・ブラック!見事にスニッチを掴み取りました!!!」

声が聞こえる。周りのスリザリン以外の寮は依然として大ブーイング。周りの寮の人達も落胆して座り込んだり地団駄を踏んでいる。スリザリンだけは、お祝いムードでとても楽しそうにしていた。

そんな明らかに違う差を見せつけられて思わず苦笑していれば、スニッチを掴みながら、レギュがこっちを見た。遠い場所に浮かんでいるのに、明らかに、落ち込まずに立ったままの私に気づいて、目を向けてる。

スニッチを私の方に向けてきたレギュが、にこりと微笑んだ。おめでとう、と。見えるかわからないけど口パクでそう言って、小さく拍手をする。レギュは頷いた後、箒を翻してスリザリンの寮生達が固まっている部分へと飛んで行った。


その姿が、やけにキラキラして見えて。
いけないことなのに。ハッフルパフを応援するべきなのに、どうしても心が温かくなって。



あぁ、私、レギュが好きなんだな。



と、思ってしまった。

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