ねぇ、私が見えてる?

結局どのご時世もスリザリンという寮は遠巻きに見られるらしい。私がレギュと仲が良いことをダンブルドア先生はご存知だった。闇に一番近いのはスリザリン。あまり近づくなと言われても、私はレギュをどうしたって切り離すことができなくて。あまり納得できていない私を見ながら、少し困ったような顔で、ダンブルドア先生は私のことを諫める。

「…もしも闇の帝王にお主のことが知られたら…」
「アルバス、リンはハッフルパフ寮です、そこまで関係が濃いわけではないのでは」
「ミネルバよ、お主の言ってることはよーくわかる、わかるのじゃが…」

縁を切れとは言わない。自分の身を守るためにも少しの距離を置いてくれ。

言いたいことは理解できていた。その通りだと思うからだ。ハッフルパフとはいえスリザリンの誰かと関わっていれば噂にもなる。学生の内から死喰い人になりたいと思ってる人の多さから見ても、禁じられた呪文を使って国を追い出された生徒がいると知られたら、私の存在なんてきっと浮き彫りになるだろうし。

何よりもまず。私を救ってくれた彼らに危険が及ぶのだ。ダンブルドア先生なんて、私は匿ってると見られてもいい存在。ミネルバにしたら、私を娘にまでして別の人間として生きさせようとしてる。

目の前にいる二人を呆然と見ながら、もらったマグカップから立ち込める湯気を見つめた。ココアの良い匂いがするのに、なんだか頭がぼーっとする。美味しい匂いがするのに、手は伸びない。

「リン…?」

レギュに、なんていえば良いのだろう。隠れて会ってたことも。このヘアピンも、レギュに買ってもらったのに。好きだと言ってしまった。キスもしちゃったよ。

自分と、同室の友達の顔を思い浮かべた。恋人と一緒に歩いてる姿。楽しそうに話す彼女達の姿。私も、あの子達みたいなキラキラした恋をしたかっただけなの。レギュが好きで、ただなんとなくレギュと普通に恋人同士になれたらと、思っただけだったのだ。

「…ううん、なんでもない。気をつけます」

ミネルバに笑いかけて、ダンブルドア先生に頭を下げる。大好きなココアには一口も口をつけずに、私は校長室を後にした。





大広間。寮の皆が居る場所に一直線に向かおうと思った。ハッフルパフの寮生が集まってる場所は、いつも明るくて太陽のように暖かいのだ。私なんかがそこにいて良いのかと思ってしまう程に。辛くて、苦しくて、でもやっぱりそこが、安心してしまう。

手を伸ばしてしまう。震えてしまう手だってあるのに、それで求めていく自分の体が怖い。本当は多分、スリザリンだったのに。緑のネクタイをつけた生徒がヴォルデモートについて語ってる。死喰い人について話してる。


レギュがそこで、同じように語り合ってる。


好きな人が闇に近い。だからと言って、闇に堕ちた私に何ができるだろう。
同じことはしないで。同じような目に遭わないで。人を、殺さないで。

レギュにそう言いたいのに言うことさえ出来ないのだ。距離を置けと。スリザリンとは関わるなと。母親と恩人がそう言う。

レギュは好きな人なのってはっきりと言えば良かっただろうか。そしたら少しは、考慮してくれた?レギュと会うのを、話すのを、許してくれる?

ねぇ、レギュ。こっちを向いて。

小さくつぶやいた声は、うるさい大広間で届くわけもなくて。友達と何かを熱く話してる彼に、私みたいな人間の言葉は届かないと、ここで私は確信してしまったのだ。

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