「君のファン第一号になってもいい?」

家にいた時、毎日のように歌を歌っていた。小さい私の世界は、歌のおかげで広がった。だから、歌は私の生きがいなのだ。だけどさすがに寮に入ってしまうとそんなに簡単に歌うことはできなくて。学校生活が始まって2ヶ月も経てば、歌いたくてうずうずしだした。ある意味で、禁断症状だ。

どこか人がいなくて、大声で歌っても迷惑のかからない場所はないだろうかと、一人夕方のホグワーツを探検していた時だった。授業も終わって、人のいないがらんとした教室を一つ見つけた。生徒が行き交うような場所にはない教室で、ここなら少しぐらいなら大きい声をだしても大丈夫だろうと思って、私は何回かそこで歌うことを習慣づけたのだ。

その日も、家から持ってきたマグルの音楽プレイヤーをとりだして、ヘッドフォンをセットする。教壇の近くに寄って、窓に向かって口を開く。夕焼けが反射して少し眩しくて、目を瞑りながら。音楽プレイヤーを片手に握って、もう片方の手は、胸元のローブを握りしめた。

誰かに聞いて欲しいわけではないけれど。

「Amazing Grace, How sweet the sound. That saved a wretch like me.」

お腹に力を入れて、声をだす。最後の最後まで、綺麗な高音が出るように。
今は離れてる、大好きなお母さんたちに届いて欲しいな、って。
そう思いながら、届けと夕陽に向かって声をだした。



歌い終わって、ふぅと息を吐いて乱れた髪を耳にかけていると、小さくパチパチと音が聞こえた。はっとして後ろを振り向けば、そこにいたのは真っ赤に燃える赤毛に似合う同じ赤色のネクタイをつけた男の子が、扉のそばの椅子に座って拍手をしていた。

「...えっと...」

普通に席に座ってるよ、この人。

「すごいや...君、とても歌が上手なんだね?」

その子は、椅子から立ち上がると、(きっと)青ざめた顔をしてる私に近寄ってきた。私と同じぐらいの背丈のその子は、確か監督生の人と同じ名字だったはずだ。

「えっと...Mr.ウィーズリー...?」
「正解。同じ一年生の、ジョージ・ウィーズリーだ。よろしく、モナカ」

握手を求めるように手を差し出されて、私はそっとその手に自分の手を重ねた。
初めて知り合ったイギリスの男の子に、内心緊張している。日本人から見たら皆格好いいし可愛いし美人で、私は若干劣等感を持っていたから。

「初めて聞いた曲だけど、全部自分で作ったの?」
「ううん、マグルの歌だよ。私、マグルで育ったから」

そう言うと、ジョージ君は目を少し見開いて、私のもってる音楽プレイヤーを見て納得したように首を縦に振った。

「でも本当によかったよ!!いつもここで歌ってるのかい?」
「たまに、時間があるときにね」
「次歌うとき、僕の事呼んでよ。もう一度聞きたい」
「え...!?」

ジョージ君は若干興奮気味に、前のめりになってそう言った。
思わず私が驚けば、彼はその少し垂れている目をさらに垂らせて、だめかい?といってきた。そんな風に言われたら、根っからの日本人気質の私には断れない。

「いいよ...でも、そんなに聞いてていいものじゃないと思うけど...」
「...?君は自分の歌声がどれだけすごいのか気づいていないんだ?」
「え?」

ジョージ君は首をかしげながらそう言うと、顎に手をあてて、なるほど、とつぶやきながら何度か首を縦に振った。

「君のファン第一号になってもいい?」

そして、笑顔を浮かべてそんな事を言ってきた彼に、私の顔は赤くなったにちがいない。
ファンだなんて、そんなたいそうなもの、と思ったけれど、初めてお母さんたち以外の人にそう言われて、とても嬉しかったのをいまでも覚えている。



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