「お初にお目にかかります」

ハロウィンというものを初めて経験した。私が目を張ったのは、豪華なかぼちゃの料理とかより、皆の可愛いコスプレだったり、双子の派手な悪戯とかより何よりも、コーラス部による合唱に、だった。

魔法生物のヒキガエルを手に乗せながら歌う生徒たち。ヒキガエルの鳴き声が不気味で少し怖かったけれど、何よりも、端の方に立っている緑のネクタイをした金髪の女性の声がとても澄み渡っていて、感動した。

こんなに歌が上手い人がいるんだ、と思ったのだ。その人は、一人だけ暴走して思いのままに歌ってたから、周りの人に疎ましそうな目で見られていたけれど。

歌が終わった時は、私は大きな拍手をした。本当は立ち上がって拍手をしたかったけれど、元来恥ずかしがり屋な私には到底無理な話だった。

「ハッピーハロウィン、モナカ」
「ハ、ハッピーハロウィン、ジョージ君...」
「変な感じするな、ジョージでいいよ、別に」
「わかった」

未だにさっきのあの人の歌声が離れなくて、余韻に浸りながらかぼちゃクッキーを口に含んでいる時、ジョージが横に座り、声をかけてきた。

「ところで、Trick or Treat、お嬢様」

ジョージはそう言うと、笑いながら私に手のひらを差し出す。

そんな彼の手のひらに、自分が持っていたクッキーを乗せると、彼は一瞬目を見開いて、そして堪えられないようにぷっと吹き出して笑った。

「これは、無しだ」
「でもお菓子だよ?」
「君の持ってるお菓子じゃないとダメだよ」
「私持ってたじゃん」
「そう言うことじゃなくて...」

双子の悪戯は1日嫌という程見ていた。絶対に悪戯されたくない。
私はとぼけたふりをしてなんとかその場を逃れようとしていると、ジョージと全く同じ顔をしたもう一人のジョージが不意に現れて、ニヤリと笑った。

「ジョージ、何してんだ?」
「あぁ、フレッド。いや、とても強情なお嬢さんに出会ってしまったようだ」

そうだ、アンジーとアリシアが言っていた。双子の兄の方、フレッド。
彼はジョージの肩に手を置いて、そのにやけ顏を私の方に向けると、片眉をあげて大袈裟なそぶりをしながら恭しくお辞儀をした。

「此れは此れはお嬢様、お初にお目にかかります」
「えっと...」
「話すのは初めてだね?フレッド・ウィーズリーだ。モナカ、だっけ?」
「あ、うん、合ってるよ」

握手を交わす。こうやってみると本当に二人はそっくりだ。
ジョージはまだ椅子に座ってるからわからないけれど、きっと立ち上がったら背も一緒なのだろう。一卵性双生児なのかな、とかどうでもいいことを思っていると、肩をポンと叩かれて、慌てて後ろを振り向く。

「はぁい、フレッド、ジョージ。モナカに悪戯なんてしてないわよね?」
「おや、これはこれはアンジェリーナ嬢にアリシア嬢、ご機嫌いかがですかな?」
「まぁまぁね」

またもや大袈裟にそう言うフレッドに、アンジーは面倒くさそうに肩をすくめながらそう言った。

「悪戯なんてしてないさ。モナカが強情だからね」
「強情も何も、私お菓子あげたもん」
「だからこれは違うって言ってるだろ?」

と、また同じ言い合いになってしまって私がはぁとため息をつけば、ため息をつきたいのはこっちさ、とジョージが言った。
それを見ていたアンジーとアリシアが不思議そうな顔をして、「いつの間に仲良くなってたの?」と聞いてきた。それにジョージが答えようとするのを慌てて遮って、ちょっとね、とだけ言ってごまかす。

なんとなく疑わしそうに見ているのはアンジーとアリシアだけではなくて、私を見下ろしてみてるフレッドもだろう。
私はそっちを向かないようにして、テーブルの上にあるマフィンを一つ取って立ち上がる。

「さ、寮に戻ろもどろ」
「そうね」
「それじゃあね、二人とも」

アンジーとアリシアの背中を押して大広間の入り口に向かって歩いていく。後ろから、ジョージの「お菓子!!」と言う叫び声が聞こえたけれど、無視をした。


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