3.


夏休みというのは案外長い。去年の夏休みがあっという間に終わり、濃すぎたのが原因なのかもしれないが。

人が沢山いるショッピングモール。アイスを片手にベンチに座って食べている新稲の隣に座って、俺はジンジャーエールを飲んでいた。

「寺坂君、明日の夏祭り何時に行く?」
「夕方ぐらいにはいたいだろ」

去年、一緒に行こうと約束しておきながら行くことはできなかった夏祭り。まああの時はまだ付き合ってもいなかったし、暗殺で忙しかった事もあって仕方ない。新稲はアイスのコーンを最後の一口で大きく食べた後、その口をもぐもぐ動かしながらゴミを捨てに行った。戻ってきて、ついでにと、俺のジンジャーエールを捨てようとしたがあいにくまだ残っている。

「私も飲んでも良い?」
「ん」

意外に重かったのだろうそのコップを手にして、そう聞いてきた新稲に首を縦に振って承諾すれば、嬉しそうな顔をして、新稲は隣に座りながらそのストローに口をつけた。

「16時半には着くようにしたいなー。射撃やってみたいの」
「動かない的だし案外当たるんじゃね?」
「マッハに動くやつじゃないしね」

一年前の出来事が鮮明に思い出される。思わず笑えば、新稲もおかしそうに口を手で覆って笑った。

「なんか欲しいものでもあんのか?」
「ううん、やったことないからやってみたいなぁって。あと綿飴食べたい」
「りんご飴は?」
「あれは手が汚れるからダメ」

首を横に振りながらいやそうな顔をしてそういう新稲に、なるほどなと頷く。新稲はジンジャーエールのストローから口を離したあと、それを俺に渡した。

「あと少ししか残ってないけど飲む?」
「おう。次はどこいく?」
「んー…」

もらったそれに口をつけて、ずずっと音を出しながら最後まで飲み込む。俺の目をじっと見つめてくる新稲に、なんだ?と声をかければ。

こいつは目を細めて、嬉しそうな顔をして笑った。

「間接キス」
「….うっせーぞ」

ふふっ。
柔らかい木漏れ日のようにそう笑顔をこぼした新稲の頭をこづいた。いて、と声を出す新稲を無視して、俺はベンチから立ち上がりゴミ捨て場に向かう。後から追いかけるように待って〜と呼んでいる新稲の声は、やけに楽しそうだった。

「行くぞ、ほら」
「はーい」

手を差し伸べた。迷う事なく俺の手に、自分の手を重ねた新稲に、心の中で微笑んでやった。




欲しいものが買えたと大満足の様子の新稲の手を引っ張りながら、俺は自分の手にぶら下がっている袋をみた。

「どんだけ買ったんだよ」
「3冊ぐらいだよ〜数学者の本なんてそう易々と手に入るものじゃないからね!」

自分の親が数学者だろ、とは言わなかった。こいついわく親以外の本を手に入れるのが難しいらしい。

「明日浴衣着ていくね」

新稲がうしろでそう言った。浴衣。浴衣。浴衣。頭には浴衣を着てる新稲の姿が思い浮かぶ。浴衣。浴衣。手を握りながら新稲は笑いながら俺の名前を呼んだ。

「寺坂君も浴衣着てきてよ」
「んで俺が…」

と言いながらも、俺は家に帰って即刻母親に浴衣の場所を聞いた。浴衣なんて着てどうするんだとやけに目ざとく何かに気づいた母親は質問を繰り返し聞いてきたが、俺は何も答えずにいいから浴衣は無いのかと親子喧嘩にまだ発展したのだが、これは新稲には秘密にしている。







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