6.



「よ!寺坂」

中学を卒業して以来のメンツで集まった。一番最初に待ち合わせ場所に待っていたのだろう寺坂に声をかければ、寺坂は片手を上げて返事をした。

「イトナたちまだか?」
「吉田しか来てねぇ」

そうか、まだあいつらは来てねぇのか。今日は狭間はこない、本当に男四人での集まりだった。
中学の時に比べて、私服姿も少し小洒落た寺坂が、この中で唯一恋人がいるというのも笑える。なんとなしに見ていれば、寺坂がこっちを睨んできた。その強面は幾つになっても変わらなそうだ。

「んだよ」
「いや、なんでも。お、村松とイトナきたぞ」

二人がゆっくりと歩きながらくる。近づいてきた二人に、おせーぞと寺坂が言うと、イトナが村松に指をさした。

「こいつの家でラーメン食ってた。不味かった」
「食べさせてもらった身でいうかそれ?」

イトナの頭を殴る村松に、相変わらずだなとため息をつく。まぁ、これがいわゆる安定というやつなのだが。

「んで、どこ行くよ?カラオケでも行くか」
「だな」

ポケットに手を突っ込みながら歩き始める寺坂について行くように、俺たちも歩き始める。去年一年いろいろなことがあったが、こうやって先頭歩く寺坂の姿っていうのも、なんだか懐かしいもんだな。








「最初俺歌うわ!」

カラオケについて先に曲をいれた村松が、ノリノリでマイクを手に取って歌い始めた。何歌うかとデンモクを眺めていれば、寺坂が携帯に何かを返信して、ポッケに突っ込んだ。

「彼女からか〜?」
「新稲か。あいつとは今も仲良くしてるのか」

前に座るイトナが、コーラを飲みながらそう聞いた。仲良くしてるって言い方、うけるな。隣で頬杖をつきながら寺坂が「あぁ?」と悪態をついた。何恥ずかしがってんだか。ニヤニヤ笑いながら、俺は聞いてみた。

「新稲とはどこまで行ったんだよ。もうそろ1年だろ?キスまで行ったか?」
「寺坂がキス!?まじかよ!?」

歌ってたんじゃねーのかよ。村松がマイク越しにそう叫びながら机に手をついて前のめりに寺坂に詰め寄る。うるせーなと寺坂は耳を塞いでいた。俺たちの興味津々な顔に寺坂が眉をしかめながら口を開いた。




「サチとはまだキスなんてしてねーよ」






サチ????今こいつ、サチって言った???


一瞬で静まるこの場。村松が歌っていた曲だけが流れている。ラスサビだ。めっちゃ盛り上がっているというのに歌わないせいで滑稽だった。

「...んだよ、歌わねーのか村松」
「いやいやいや寺坂お前...!!」
「名前で呼んでるのか」
「は...?」

俺たちが何をいっているのか分かっていないらしい。寺坂はさらに顔をしかめて、何いってんだ?といった後、イトナの言葉にさっきまで自分が言っていた言葉を思い出した。

「あ」

その一言で理解する。こいつ、今無意識に名前言ったな。

「お前ら名前で呼んでんのかよ!」
「仲が良いのは良いことだな」
「新稲も名前で呼んでんのか?」
「竜馬って?」
「うっわ〜ラブラブじゃん!!」

名前で呼び合ってる二人を想像する。うわ、なんかすんげー恥ずかしいんだけど。こんな悪態つきまくる寺坂が女を下の名前で呼ぶ?やばくね。どうなのそれ。
しかも3Eでは比較的話す方だった新稲も、女子とはいえあの数学お化けという印象が強かったせいで、寺坂の名前を呼んでる姿が想像できない。

「で?どこまで行ったん」
「サチちゃんとはどこまで行ったんだよ」

村松がニヤニヤ笑いながらわざとらしく新稲の名前を呼んでそういった。その言葉に寺坂が「あいつの名前を呼ぶな」とかいうから余計に俺たちのからかいモードが上がって行く。嫉妬か〜こいつ確かに中学の時も嫉妬してたしなぁ〜。


イトナが転入してきた時、新稲の隣で教科書を見せてもらっていたイトナをみていた寺坂。あの姿、笑えたな。あの寺坂が嫉妬なんてするんだなと思っていたから。しかも、今みたいな無意識の嫉妬だったし。



「名前で呼び合うぐらい...しか進展はねーよ」




はあ〜〜健全かよ!!



俺たちは同時に天井を見上げた。強面の顔面に反してやってることが純粋すぎる。もう一年だろ。普通健全な男子高校生だったらキスの一つや二つすぐしそうなもんだけどな。俺たちは恋人いねえからしたことねーけど。

「うるせーなお前らも早く彼女作れば良いだろ!」
「うわ、寺坂に言われたくねー!!」
「不覚にも俺も村松の言葉に同意だ」
「どういう意味だこらイトナ」
「俺だって彼女ほしいっつーの」

幸せそうな顔しやがって。ほんとイラつくわ〜寺坂に先越されたのもそうだけど、あの新稲と付き合ってるってことと、そして今も、なんだかんだ仲良く続いてるってことも。

まぁ一番は何より、二人を見てると安心するってことが、それはとてもとても腹たつ幸せってやつなんだけどさ。






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