8.



もうそろ1年じゃん。


カルマのからかいの連絡も、いちいち腹たたなくなってきたときにそんな文章が入れられた。
なんなんだ3Eのやつらは揃いも揃って俺たちのことどんだけ気になってるんだ。俺は机の上で携帯を握りしめて、イライラと募らせながらスタンプを送りつけた。

黙れ。


その一言だけで、十分だろ。

しかし、1年か、と想いもはせる。世の中のカップルは1年記念日とやらで何をするのだろう。まだ高校生でバイトもしてない俺に何か良いものでも渡せられるわけでもないし。どうするか、と思いながら俺はサチに連絡した。
机の上に広がっているノートと教科書にシャーペンを転がす。

もうそろそろ、一年経つぞ。

サチの返事は、駅前のイルミネーションをみに行きたい、だった。









「人多いね」
「点灯式だろ今日」

同じように学校帰りに来たのだろう制服を着てる高校生や、仕事終わりの社会人が集まっている。大きいツリーを前にしてざわめく街に、新稲の心が踊っているのが少しだけわかった。

「楽しみ、竜馬も?」
「まぁ」

そっか。

俺の不器用な返事にもサチは笑みを浮かべて俺を見上げた。
ポケットの中にある手が俺の指に絡まってくる。俺もそれに応えるように、キツく握り返した。

不意に暗くなる。点灯式が始まるらしい。ツリーだけが見えるように周りの店や商店街のライトが消えて、そして曲が流れ始めた。クリスマス特有の曲。やけにシャンシャンと鳴り響く鈴の音に、サチが踵を上げ下げしてリズムを取っていた。

「子供か」
「なんかワクワクするじゃん」

サチがそう言った。ワクワクするのはわかる。去年はクリスマスどころじゃなかったし、なんなら年明けで怒涛のようにやったわ。それを思い出していれば、同じことを思っていたのかサチが「去年は大変だったよね」と言い出す。

「去年はクリスマスやってないからな」
「殺せんせーの暗殺で大変だったし。あと受験とかいろいろね〜」

暗殺するか、しないのか。その悩みと共に受験も並行してやらないといけな買った。あの忙しさは多分二度と経験できないだろうし、したくもない。

「懐かしいね...」
「そうだな」





一年前の今日、俺はこいつに告白をされた。



本来ならおそらく、俺から告白をするべきだった。
父親と仲直りをしたサチが、俺から離れたと勝手に思い込んでいたガキみたいな俺を、それでもこいつは見捨てずに好きだと伝えてくれた。

下にあるサチの顔をちらりとみる。去年のことでも思い出しているのか、それとも寒いのか、頬に薄らと赤みが帯びていた。

足りないものは補い合えば良い。

それを教えてくれたのは、紛れもなくこいつだった。

「あ、つくよ」

繋いでない方の手でツリーを指差すサチ。その指先の向こうでは、ツリーが下から徐々に点灯されていた。味気のない黒色のツリーが、真っ白になった。

「わぁ...!!」

横に立っているサチの声が聞こえる。嬉しそうな声だった。
ちらりと下に目線をやれば、サチが笑顔でツリーを見て、そして俺の顔を見上げた。

「綺麗だよ、竜馬」





あぁ...。




今この瞬間が、ベストタイミングだろ。






近いサチに目を合わせるように少しだけ頭をかがめた。目を見開いて俺をみるサチがそのまま俺の動きを視線で追って、繋いでない方の手で俺の肩を掴んだ。

「...ん」

小さく聞こえた声でさえ、今の俺を震わせた。

少しの時間でさえ長く感じたそれに、俺は顔を離して距離をとる。それでも背の低いこいつとの距離は近くて、鼻先でさえがぶつかりそうだった。

「...へへ」
「何笑ってんだ...」

緩く笑うサチに、小さく笑い返した。
ツリーの白い光がサチの瞳に反射した。

それがもどかしくて、どうしようもなく、綺麗に見えた。








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