2
すべての敵をたおしてもまだまだ敵っていうのはあるわけで。
ていうかあれだけの量の敵を倒したのにまだいるかって感じ。よくこんな問題を作れるよなって思うわ。
見てよこれ。なにこの確率の問題。半端なくね?って思ってふと音の鳴るほう見るじゃん?みてよあいつ。寺坂。
ありえないほどのこの膨大な選択肢から全部場合分けしてあてようとしてるよ。うける。
でも、一番心配なあいつがあぁだから安心できるってもんだよ。
最近までの寺坂の萎れたような雰囲気はどこへやらって感じだけど、やっと新稲ちゃんともくっついてくれた事だし、本領発揮って感じだろ。いいね、見てるだけで力が出るよ。あとニヤケも止まらない。
さ、そうやって現実逃避もいいところでとめて、目の前の問題に立ち向かおうではないか。中学生の問題で出てくるとは思わなかった漸化式に、戸惑ってる渚くんの前に手榴弾でも投げてみよう。俺達の指揮官はもうさっさと先に進んでしまってるからね。こっちからしたら待てよって感じだけど。
「渚くん、特殊解に持っていくんだよ。この前新稲ちゃんが殺り方教えてたじゃん」
今回の期末試験のために、全員で得意教科を教えあった。俺は全部得意だったけど、数学で新稲ちゃんに勝てるかと聞かれると無理だったから数学以外の教科を教えていた。つまり、数学は数学の申し子に任せるのが一番ってこと。
「...さて。皆は焦らず解いてなよ。△くらいは取れるはずだよ。皆の◯はちゃんと俺が取ってくるから」
武器である銃を肩にかけて、目の前の問題に立ち向かう。皆っていっても新稲ちゃんは除くよ。彼女は俺以上の◎でも取るんだろ。さて、この問題はどうやって解こうか。
あ、そういえば渚くんが昔からよく言ってたっけ。同じ人間なのにどうしてこんなに違うんだろうって。
よくいうよな。俺から言わせたら本当の天才はどっちだよって感じ。まぁよーするに、人間は皆、他人の見えない部分を才能って呼ぶんだ。
杉野みたくあっさり人の輪に入っていける奴、奥田さんみたいに好きなことにはバカみたいに没頭できる奴、寺坂みたいに何にも考えないで動ける奴。新稲ちゃんみたいに、揺るがない絶対的な自信を持ってる奴。
どんなやつにも俺には見えない才能の領域があって、そうやって言わせりゃ皆同じさ。
まぁ今は、俺の能力でどうやってこの問題が解けるのか、なんだけど。
ーー右の図のように1辺aの立方体が周期的に並び、その各頂点と中心に原子が位置する結晶構造を体心立方格子構造という。ある原子Aoに注目した時、空間内の全ての点の内他のどの原子よりもAoに近い点の集合が作る領域をDoとする。この時のDoの体積を求めよ。ーー
明らかに中学知識では解けないだろこれ、時間絶対に足りないって。
頭を少し抱えて考える。その時、カランと鉛筆を転がす音が聞こえた。少しだけ視線をめぐらせれば、新稲ちゃんが机の上に鉛筆を手放してあくびをして笑顔を浮かべていた。
おいおいおい、もう終わったって?今A組の浅野クンでさえこれに悩んでるんだよ?新稲ちゃんは笑顔を浮かべて立方体の上で足を組みながら、俺と浅野クンを見下ろしていた。
「...早くね?新稲ちゃん」
「こんなの小学生でも解けるよカルマ君」
言ってくれるよほんと。思わずでる冷や汗は、目の前の難題に向けてなのか新稲ちゃんの自信に向けてかはわからない。まぁとにかく解かないと。
新稲ちゃんはいつからか自信を持つようになった。数学者の娘だという事にあまりいい思い出はなかったのか、結構消極的な子だったし最初は。
圧倒的な数学のセンスを持ってるくせに、なんでだろうと思うことも多かった。数学の申し子って名前がつくぐらいだからね。あ、その名前を付けたのは俺だよ実は。
寺坂といいコンビなんじゃないのかなと思い始めた時は、まさかこうなるとは思ってなかった。あのガタイのいい一見不良にも見える寺坂と、数学は天才の普通の女の子が付き合うなんて。
いやー...二人の告白シーンは見ものだったよ。新稲ちゃんの言葉といい、寺坂のあの照れ具合といい。頬を赤く染めてる寺坂はちょっと見るに耐えなかったけどさ。
『寺坂君の足りない部分は私が補う。私の足りない部分は寺坂君が補ってよ』
あんな殺し文句言われて、落ちない男がいるかな?いないだろうね。俺が発破をかける必要もなかったわけだ。
自分一人が動いていたって生きていけるわけじゃない。何回だってやり直しはできる。死ぬわけじゃないからね。それでも最善の選択を選ぶためには、誰かの力があるからこそだ。
そうやって生きていける。自分の能力があるように、誰かの能力も俺に主張している。世界は別に俺だけのものじゃない。あの二人が、全く別の人間のあの二人が、歩み寄れるぐらいに、世界は広がってる。
そうだよ。そうじゃないか。俺が目一杯自分の領域を主張すれば、他の皆も同じように主張する。俺と誰かがいるから世界は1つだ。つまり、俺が広げられる世界はその半分。
それに気づいた時、思わず顔をあげた。新稲ちゃんが俺をみていた。その顔には満面の笑みだ。「気づけた?」そう聞いてくる彼女に、俺は息を吐く。自然と上がっていた肩の力が抜けていくのがわかった。
「小学生でも解けるね、こんなの」
「でしょ?数学って本当たのしいよね」
その言葉に頷けるかと聞かれると反応には困るけど。
それでも、一年をこのクラスで過ごしていなかったらきっと、わからなかった。世界はこんなにも広いってことに。
prev next
ALICE+