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「攻撃手1位がたちかわさんで、2位がかざまさん、4位がむらかみ先輩でしょ?じゃあそのかげうら先輩って人が3位な訳?」
「いや、カゲは20位ぐらいだな」

玉狛第ニの空閑とブースで戦っていた。2対1で勝ち越したはいいものの、ランク戦とは違う何もないところでの戦闘は少しだけ戦いにくい。俺ももう少し修行が必要かなと思いながら、ブース内で空閑と談笑をしていた。

「20位なのに、むらかみ先輩より強いの?」

玉狛が次に戦うのは影浦隊と東隊、そして二宮隊。ついにB級上位入りは素晴らしいことだと思うし、なによりも四つ巴は見応えのある戦いになるだろう。今から楽しみにしている、と言えば、そのかげうら隊に興味を持った空閑が、カゲについて教えて欲しいと言ってきた。

ついこの前の謹慎明けから、カゲはごっそりとポイントを奪われてランクが下がっている。元々は上位にいたのに、なんといえばいいのやら。苦笑をこぼしながら、そうだなと俺は言葉を続けた。

「カゲは強いよ。太刀川さんと風間さん、カゲ。あとはあまり勝負したことはないけど小南、数回しか戦ったことのない赤坂さん。俺が勝ち越せてない攻撃手はこの5人かな」
「へぇ……かげうら先輩の部隊ってどんな感じ?」
「俺たちのと同じバランス型だよ。四人編成だ。戦法はかなり攻撃に偏ってるけどな。A級6位まで上がったことがある」

四人編成は少ない。人数が多いと誰がどう動いてるのかを把握するのでも難しくなるのに、あの隊は全員がゴリゴリの攻撃側の人間だ。それでも成り立っているのは、赤坂さんという裏の司令官がいるから。カゲとあの人のタッグを組まれた暁にはきっと、空閑だって焦るだろうな。





「カゲ、もう着いてるらしい」
「ふむ、どのへん?」

C級のブースに二人で向かう。階段を降りながら、スマホに届いた「ついた」のそっけない一言に既読をつけて、さてどこにいるかなと視線を巡らせれば。

カゲはまた厄介なことに首を突っ込んでいた。同じ扱いにくい副作用もちとしては、あいつの気持ちも分からないでもないけれど、ああも色んなことにイライラしていたらやっていられないだろうに。

何か陰口でも言っていたのだろうC級の男子二人を近寄らせて、一度は息を吐いて解散だと言ったカゲを見ながら、あぁ赤坂さんの教育の賜物だなと感動さえ覚えたのに。あろうことかトリガーを使って、換装体の男子二人に向かってスコーピオンを向けていた。

やっぱり変わっていないな、あいつは。ふぅと息を吐いて、呆れながら顔を覆う。

「スコーピオン……」
「あんまりジロジロ見るなよ、お前も噛み付かれるぞ」

赤坂さんに連絡を飛ばして、そのスマホを片付けた。空閑を連れてカゲのところに近寄れば、首を飛ばされた男子二人が青い顔をしながら俺に泣きついてくる。

「あの人やばいっすよ…!」

その言葉に笑ってしまった。生身には流石に攻撃はしないから落ち着けと言っても、まぁあんな風にいきなり首を落とされたらトラウマにもなるか。

「あー…あいつは人の心を読むんだよ。そういう副作用を持ってる」
「副作用…!」
「だからまぁ、色々大変なんだ」

寝たら覚える俺の副作用も、カゲみたいに色んな人の感情を受信してしまう副作用も、厄介なことには変わらない。迅さんみたいに未来予知できる副作用だって、赤坂さんみたいに、忘れることができずに全てを覚えてしまう瞬間記憶の副作用も、こればかりは副作用を持っている人じゃないと多分分かることはできないことだろう。

恐怖に慄きながら立ち去った二人を見送って、呆れながらカゲを見る。

「何派手なことやってんだ、また降格と減点くらうぞ」
「ケッ、んなもん痛くも痒くもねーよ!調子こいたカスに舐められる方が100倍ムカつくぜ!」

ソファに座りながらそう言ったカゲを笑いながら見下ろす。お前のその行動の裏で、約1名沢山の人に謝ってる人がいるというのに。

ふと、小さく聞こえたよく知ってる女の人の声に、後ろを振り向いた。空閑も一緒になってその声を辿る。そこには、さっきの男子二人に向かって頭を下げてる女の人一名。ごめんね、ごめんね、そう言いながら二人の頭を撫でているのは、赤坂さんだった。

歳上の女の人に頭を撫でられるなんて、年頃の男子にとったらまさかの出来事だろう。二人はこっちから見ても分かるほどに顔を赤くして、耳まで赤くしながら立ち去っていった。その姿を見ながら、小さく笑う。

「さすが、年下キラーだな」
「はっ、どこがだよ」
「お姉さんと知り合いなの?二人とも」
「あ?」
「ん?空閑こそ、赤坂さんと知り合いなのか?」

赤坂さんのことをお姉さんと呼んでいるとは、知らなかった。関係なんてなさそうなのに、二人はどこで知り合ったのだろう。少しだけ不思議になって首を傾げていれば、俺の連絡をすぐに見てここに来てくれたのだろう赤坂さんが、息を切らしてこっちに走ってきた。

「村上くん、連絡ありがとうね。こら、カゲ!」
「うっせーな、なんだよ」

俺に笑顔を向けた後、赤坂さんはカゲにその握った拳を振りかざした。咄嗟にそれを受け止めつつ、満更でもない顔をしてるカゲを見る。なんだ、年下キラーの赤坂さんは、きちんとカゲにも適用されているのか。

「お姉さんって、もしかしてかげうら隊なの?」
「……誰だ、このチビは」
「空閑君!あれ、言ってなかったっけ?」
「んー……言ってたかもしれないけど、忘れてた。赤坂さんというのか、これからはそう呼んだ方がいいかな」
「いやいや、お姉さんでいいよ全然」

空閑と赤坂さんの会話に、首をかしげる。仲が良いな、少しだけ羨ましいと思うのは仕方ない。知り合いですか、そう声をかければ、赤坂さんは俺に笑顔を向けながら、カゲの頭にゲンコツを落とした。痛そうな音、カゲの歪んだ顔に思わず笑う。

「うん、ちょっとね。玉狛第ニの空閑君だよ、カゲ」
「玉狛ぁ?……お前がやけに気に入ってるあれのか?しかもクガっていやぁ、鋼と荒船が負けたやつか」

こんなチビに負けたのか、帰ったら久しぶりにログ見るわ!笑いながらそう言ったカゲにやめてくれ、と返す。

それよりも、赤坂さんがやけに気に入ってる隊、というのが気になった。どういうことですか?と赤坂さんに聞けば、彼女は首を傾げて、目をパチクリと瞬かせた。

「三雲君がお気に入りなの」
「へぇ、お姉さん、俺は違うんだ?」
「ん?空閑君もお気に入りだよ」
「年下キラーの赤坂さんに、お気に入りの年下がいるなんてびっくりですね」
「え?何それ、年下キラーって」

空閑のふわふわの白い髪を撫でながら笑ってる赤坂さんに、そう声をかける。当の本人は気づいてないけれど、俺たち年下男子は一度は多分、この人のことが気になってる。

歳上の女性と関わることなんてそうそうないし、ボーダーにいる女の人は大体が勝気のある同い年の女子か年下。歳上の女性は加古さんとか蓮さんぐらい。そんな数少ない女性陣の中で、優しくて、太刀川さんの面倒を見てる忍田さんの弟子の攻撃手なんかいたら。

しかもその人が歳上で、勉強も見てくれるぐらい世話焼きの人だとしたら。
東さんと同じぐらい、慕っていたくもなるものだ。

「歳下の男子は一度は赤坂さんが気になっちゃう、って聞いたことありません?」
「何それ〜!年下限定かーなんか面白いね、思春期だからかな」
「あはは、まぁ」

痛いところを突かれた。思春期特有のそれは確かに仕方ないし。乾いた笑いを浮かべていえば、空閑が俺の顔を見上げて、むらかみ先輩、と声をかけた。

「むらかみ先輩も、お姉さんのことが気になってたの?」
「……まぁ、最初の頃に少し」
「はっ、お前、こいつのこと何も知らねーからだろ」

何を俺はこいつのことは何でも知っている、みたいな顔をして言ってるんだカゲは。その態度に呆れながら、不遜としてるカゲの足を蹴って、そういうお前は違うのかと聞いてみる。カゲはいつものように笑いながら、赤坂さんの腰を拳で叩いてよろけさせた。

「誰がこいつなんか」
「私を影浦隊に入れたの君だよね!?」

赤坂さんが影浦隊に入った経緯を初めて聞いた時は、それはもうとても驚いた。荒船が、あのカゲが赤坂さんをスカウトしたんだ。なんて言った時はまさかと思った。あんなにとっつきにくい人間ナンバーワンの男が、歳下キラーと呼ばれてる赤坂さんをスカウト?

入りたての俺でさえ、それは驚きの事実だった。

「てかもうあれやめてくれる?私また根付さんとかに謝らないといけないじゃん。またこういう騒動起こしたら、影浦隊辞めるから」
「鈴鳴来ますか?」
「来間君いるもんね、行きたーい」
「そういえば、荒船も欲しがってますよ」
「あぁ?誰が渡すかよ」

カゲのその言葉に、俺と、空閑、赤坂さんの身体が止まった。嫉妬か?束縛か。おおよそ自分の隊員に向けるような言葉じゃないそれ。

空閑が小さく、「…素直じゃないんだね」と言った言葉に、同じように小さく頷いた。あぁ、そう。こいつは素直じゃないんだ。自分達だけで十分強いだろうに、赤坂さんをスカウトしてまでさらに強くなろうとしてたなんて、荒船から教えてもらった時は思わず、ずるいな、と思ったぐらいだ。

「……帰るぞ、真琴」
「はいはい。このバカ連れてくわ、ごめんね村上君、空閑くん。三雲君によろしくね」
「うん、わかった」
「また、今度俺にも練習つけてもらえますか」
「ん、連絡して」

わざと、俺たちの前で名前を呼ぶなんて。カゲは意外に執着が凄い。苦笑をこぼして、のっそりと歩いていくカゲの背中をばん!っと大きく叩く赤坂さんに、俺は笑ってしまった。

「俺らははっきり言って、遠征なんざどうでもいい。が、俺らよりよえーやつを上に行かせるつもりもねぇ」

A級6位まで上がった部隊のプライドは素晴らしい。実力で降格したわけじゃない。元々A級だったカゲが言うからこそ、その言葉には重みがあった。

赤坂さんの頭に手を置きながら、こっちを振り向きながらカゲは笑う。

「Aに上がりたきゃ、俺らに勝ってから行くんだな、チビ」

不敵な笑い、それに対して同じように笑い返す赤坂さんも、さすがは元A級だ。おいそれと追い抜けられる人じゃない。空閑を見下ろせば、彼は小さく笑いながら、嘘つきだね、お姉さんと言った。

「あの人、やっぱり強いじゃん」
「あぁ、強いよ、赤坂さんは」

お前らの試合、楽しみにしてるよ。彼のふわふわの頭を撫でながら、そう呟く。本当だ、柔らかい。赤坂さんが気持ちよさそうに撫でていたこの頭は、確かに笑ってしまうぐらい気持ちよかった。


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